第14話 ゆめのきらら先輩

 涼城とのデートから数日後。


 そろそろ傷も癒えたのではないかということで、再度『ゆめかわビッチ口裂け女』たる夢野ゆめの綺螺良きらら先輩に接触しようかと話していた矢先。

 部室を覗く、星柄のコンタクトとパステルパープルのランドセルに俺と涼城は立ち上がった。


「「夢野先輩!!」」


「怪我はもう大丈夫ですか!?」


「あれからまたイジメられていませんか!?」


 なんて、わぁわぁと大袈裟に迎え入れる俺たちに、夢野先輩は、はわわと汗をかきながらソファに腰かけて。言葉よりも先に、深く深く頭を下げた。


「……ありがとう。助けてくれて、本当にありがとうございました」


 先輩は、パニエでふわっと膨らんだ制服のスカートを握りしめ、星のコンタクトでまっすぐに俺たちを見つめて、涙を浮かべる。


「あの日以来、学校で地味に起こっていた嫌がらせがパタリと止まったの。上履きを隠すとか、私物がなくなるとか。

 私は意識を失いかけてて、あの日何があったのかよく覚えていないのだけれど、私を庇うようにして、中野君……キミがいじめっ子たちを撃退してくれたのを覚えてる。あの日は体調も回復していなくて、ぼんやりとしかお礼が言えなかったけど、改めて言わせて。本当に……ありがとう」


「先輩……」


「それで、本題なんだけど。私にできるお礼ならなんでもしたいと思っているの。なんでも言って?」


 『』という単語に、涼城の視線はごくりと俺の股間に向けられた。

 なんて失礼な奴だ。俺が先輩に「身体で礼をしてくれ」と言うとでも思っているのか? ……っとに、失礼が過ぎるぞ!! 男をなんだと思ってやがる!!


 だが、涼城が思わずそれを想起するようなあだ名を持つのが先輩だ。

 俺は、尋ねにくいことは承知の上で、改めて尋ねた。


「先輩は、その……本当に、彼女たちの彼氏を寝取っていたのですか?」


 問いかけに、先輩はめっそうもないといった風に首を横に振って。


「別に。誘われたから一緒にカラオケに行った。それだけだよ。私、ほら……『可愛いね』って言われると、嬉しくなっちゃって、断れなくて……あ、でも! エッチなことは彼らとはしていないからね! ちゃんと、彼女のいる人とそうでない人の区別くらいしているよ! ちなみに私、今は……フリーなの」


 ちら、と俺の目を見てそう言う先輩。


 小柄なのになんていう蠱惑的な視線なんだ。

 あきらかに誘ってやがる。そう思わせるだけのフェロモンが、先輩の瞳からは出ていた。


「ちなみに、舐めるのは得意だよ?」


「ああもう!! はいいですから!!」


 俺は立ち上がって、机の引き出しから一枚の紙を取り出す。

 そうしてスマホを手に、先輩の向かい席に腰かけて。


「連絡先、教えてください」


「まずはお友達からだね♡」


「……じゃなくて。先輩には、この第二文芸部あらため『現代怪異部』に入って欲しいんですよ。今、ウチの部は廃部の危機に瀕していて、部員が必要で――」


 かくかくしかじかと説明している間に、先輩はその紙を手に取って、すらりと必要事項を記入していく。

 その達筆さと手際の良さには驚きで。涼城は、思わぬことを尋ねた。


「先輩ってひょっとして……頭良いですか?」


 その問いに、先輩は『にこっ!』と兎のような笑みを浮かべ。


「わたしぃ、テストは学年一位だよ♡」


 と、微笑んだ。

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