第15話 幽霊部長

 『男の子クラスメイトに、カラオケで勉強を教えていただけ』と、先輩はそう言ってビッチ疑惑を否定した。

 無論付き合った人間がゼロというわけではないが、あくまで寝取りのような真似はしていないと。


「なんか、『勉強を教えて欲しい』って、カラオケに連れていかれることが多いんだよねぇ~」


「それ、明らかに狙われてんじゃないですか……」


「先輩は可愛いんだから、用心してくださいよ」


 そう言って、ちょっと褒めただけで「えへへ♡可愛いって言われちゃった♡」と有頂天な先輩は、ハッキリ言ってチョロすぎる。


 だが、俺は同時に、傷だらけのパステルパープルのランドセルに、先輩が決して弱い人間ではないことを感じていた。


 たとえどれだけ誤解されても、イジメられても。

 先輩は『好きなものをやめなかった』。

 ゆめかわスタイルを、今でも貫いている。


 ふわりと膨らんだ愛らしい改造スカートも、星屑のようなコンタクトも、その全てが、先輩の強さをあらわれだ。


「歓迎します。『ゆめかわビッチ口裂け女』――あらため、夢野ゆめの綺螺良きらら先輩」


「『現代怪異部』へようこそ!!」


 涼城の拍手の音が聞こえたのか、廊下をパタパタと走る足音が聞こえて、天音も姿をあらわした。


「部活、今おわって……はぁ、はぁ……夢野先輩が来てるって本当!? あっ、夢野先輩!! 初めまして。私、一年C組の天音あまね美姫みきって言います。合唱部と兼部でこの部活に所属していて……あの、その……仲良くできたら嬉しいなって――」


 そう言って、まっすぐに手を差し出す天音の素直さも、天音の美点であり、他にはないその純粋さを素直に羨ましいなと思う。そうして、強いな、と。


 俺も涼城も、天音に遅れて手を差し出して。


 こうして夢野先輩は、『現代怪異部』に加わったのだった。


 ◇


 後日――


「ねぇ。皆でピューロランド行こうよ」


 部室で甘ロリ雑誌を読みながら提案する先輩は、バイトのない日の放課後はすっかり部室に入り浸るようになり、涼城に「だったらデデニーランドがいいです」と真っ向否定され、天音に至っては「もうすぐ夏休みだし、プール行きましょうよ!」なんてまるっと趣旨の違う場所を提案される始末。


 だが、この部室がこんなににぎやかなのは初めてで。

 俺は、それをなんだか嬉しく思ってしまっている。


 そうして、この部室を、三年生の……に見せたいなぁ、なんて……


「部長……今頃なにしてるのかな……」


 ふと呟いたその発言を、乙女三人が見逃すはずもなく。


「やっぱり中野ってさ、その部長のことが好きなの!?」


「中野くん……そうなんだ……」


「え? 部長って誰? 中野君が部長じゃなかったの!?」


 なんてことになって。

 俺は、三年生の幽霊部長について再度説明をするハメになった。


「部長は、年に数回大掃除に来る先輩で……それ以外は不登校で、もはや留年確定で……」


 そうして、話しているうちに何故か、部長の家に凸ることになってしまったのだ。


 ……俺が。

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