第7話 可愛い幽霊先輩

「三人だ! ついに部員が三人になったぞ! 廃部回避まであと一人だ!!」


 わーっ! と立ち上がって歓喜する俺に、ソファに腰かける美少女ふたりはきょとんと首を傾げる。


「えっと……廃部回避は五人からだよね?」

「あんた、算数もできなくなったの?」


 ひとり、数え間違えている。ふたりはそう言いたいのだろう。

 だが、この第二文芸部――もとい現代怪異部には、もうひとり誰も知らない先輩がいるんだよ!


 つまり、幽霊部員だ!!


 現高三の不登校児が在籍している旨を伝えると、ふたりは興味津々になった。


「なんで学校来てないのに部活!?」

「てゆーか先輩!!」


「当然のごとく出席日数は足りていないので、下手をすれば二年後は同級生だ」


 わっー!!


 『先輩の同級生』という矛盾極まりない響きに俄然盛り上がる一同。

 俺はスマホを取り出して、件の先輩に連絡を取ってみることにした。


 先輩は、新学期の最初の日だけは登校して、この部室を大掃除するのが習慣だったのだという。今年の春に偶然邂逅した俺と先輩は、そのときに入部する旨と連絡先をかろうじて交換していたのだ。


 たしか、校則ガン無視で髪をピンク色に染めた、愛らしく小柄な先輩だったと思う。


『ウチ、学校って大嫌いだけど、この部室だけは好きだから……』


 そういって、小さな背を猫みたいに丸めて掃除に励んでいた先輩を思い出す。


「先輩……会いたいなぁ」


 ぽつりと呟くと、女二人は食い気味にソファから立ち上がった。


「え。まさか、中野くんってその先輩のこと好きなの!?」


「つまりあんたは、先輩の帰ってくるこの場所を守るために、ずーっと番人をしていたってわけ!?」


「「きゃー!!」」


「…………」


 ……正直、ついていけない。女子のこういう空気。

 というか涼城、お前は俺を惚れさようとしているのではなかったのか?

 恋敵(?)らしき女が出現したんだぞ、もっとその存在を警戒しろ。


「まぁ、先輩に会いたいのなら次の新学期……九月の初日にここへ来れば会えると思うぞ。俺としては、それまでにもうひとり部員を増やして、先輩を安心させてあげたいところだな」


「中野が優しい!」


「やっぱり先輩のこと好きなんだ!!」


「ええい、鎮まれ乙女どもっ!!」


 からかわれて赤くなった頬を隠しながら、俺は今日の議題を提案した。

 内容は無論、次の勧誘ターゲットについてだ。


 『現代怪異部』の名にふさわしい二つ名を持つ生徒……


 その存在と噂について、ふたりは首をかしげてうんうんと唸る。

 そうして、かろうじて挙げられた名前は、『ゆめかわビッチ口裂け女』だった。

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