第3話 部員勧誘はお約束
それから、涼城綿花は第二文芸部――現代怪異部に放課後入り浸るようになった。
「まずは、一緒にいることから始めようと思って。入部することにしたの」
「それは助かる」
正直なところ、第二文芸部はわけあって第一文芸部(現マンガ研究部)と袂を分かってから人員不足が著しく、今年中に部員が五人に満たなければ廃部と通達を受けていたところなのだ。
かといって、俺には部活に誘えるような友人などいないし、熱心な勧誘活動など暑苦しくて美学に反する。ただ呆然と、「この生活もあと一年かぁ」とあっさり諦めていたところに運が向いてきたということらしい。
これだから果報は寝て待てと言うのだ。うふふふ。
「なにをほくそ笑んでいるの? 気味が悪い」
「失敬な。俺が含みのある笑みを浮かべたときは誰もがミステリアスだと黄色い声をあげるべきなのに」
「ねぇ、中野くんって実はとんでもないナルシストよね。顔が良い分余計にムカつくわ」
「涼城、お前、俺に惚れて欲しいんじゃなかったのか? ディスってどうする」
「気色悪い、じゃなくて気味が悪い、に抑えたあたり、ちょっとは遠慮した方なのに」
「「…………」」
涼城は、メンヘラはメンヘラでも、歯に衣着せぬメンヘラらしい。
……過剰なナルシスト発言は敵を招く、と。覚えておこう。
「で。この……『現代怪異部』? って、何をする部活なの?」
訝しげな顔で、古書や漫画本など雑多な本類まみれた部室を見渡す。
そんな涼城に、俺は一言――
「特に。何も」
「は?」
「俺はただ、放課後学校内に居場所が欲しかっただけだ。できれば人の立ち入らない、静かに過ごせる空間が。それで、去年の三年生の引退を機に廃部寸前だった第二文芸部に所属し、こうして優雅な放課後を過ごしている」
……ちなみに、現三年生の先輩が一名だけいるのだが、不登校になって久しいので実質部員は俺一名。
それをいいことに名を『現代怪異部』に改めたら、一層人の寄り付かない安心スペースとなってしまったことは黙っておこう。
まぁ、俺目当てのビッチがたまに来るのだが、そいつらはまかり間違っても入部しないのでノーカウント。
「だからこの部では、何をしてもいいし、何もしなくてもいい」
「つまり、何かしらの実績から部の存続を認めさせるのは難しいってわけね?」
その問いに、俺はしばし、きょとんと固まる。
「え……涼城、まさかとは思うが、お前、部の再興を考えて……?」
驚き問いかけると、涼城はついぞ見ないような愛らしい仕草で、むーっと頬を膨らませて。
「せっかく部活に入るんですもの。私だって思い出――友達くらい欲しいわよ!」
「ああ。そういやお前、メンヘラだったな。メンヘラちゃんは寂しがりって、相場が決まっているからな」
「そ、そういうのじゃなくて……! いち高校生として青春を謳歌したいと思うことに良いも悪いもないでしょう!? とにかく、入ってすぐに廃部なんて嫌! 部員の勧誘をしましょうよ!」
そうして、俺たちの絶望的な部員勧誘業務は始まった。
なにせどちらもクラスでは浮き気味……
片や、高嶺のお嬢様(隠れメンヘラ)。片や厨二こじらせクソイケメンなのだ。
こんな組み合わせの部活に入る猛者など、TikTokのネタ探しなクソギャル以外そうはいまい。
だが、クソギャルが入部すれば俺の放課後の安寧が終わる。
俺たちは、『ともに青春を謳歌できそう』という、人選に注意しながら勧誘活動を進めなければならなかった。
当然、ポスターなどで大々的に宣伝するのはNGだ。
口コミで『読書の好きな人』を集めるくらいのことしかできない。
まず白羽の矢が立ったのは、涼城の数少ない友人の『えっちゃん』だった。
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