47:謁見

 オーガでも軽く入れそうなほどの大きな扉。その大きな扉が兵士によって左右に開けられると、視界に広がるのはずーっと先へ続く赤い絨毯が見えた。

 その先には多数の人が左右に並び、その最奥は数段高くなって玉座があった。そしてその玉座に座っている人こそがスメードルンド国王陛下だろう。


 この光景を見た時点で私の内心はかなり冷めていた。

 常識よりも大きく、広くすることで権力を誇示するのは昔からの人の性なのだろう。

 無駄な事をせずに節約しなよ~と思うが、権力者の思考なんていつの時代も代わり映えしないから面白みに欠ける。



 レイモンドと私は先導する兵士に付き従って玉座の前まで歩いてきた。

 連れ添った兵士は左右に別れて多数の人たちの列に混ざり、そのタイミングでレイモンドはその場で平伏した。

 しかし私は、平伏はせずにその場に立ったまま、ぺこりと頭を下げた。不本意な召還とは言え最低限の礼はすべきだろう。


 いつまでも膝を付かない私に、辛うじて顔を上げる様なことはしていないが、平伏しているレイモンドが焦っている事が分かった。


 玉座に座っている男性。年齢は三十代前半、クリーム色の様な金髪に青い瞳。サイラスには劣るが、人族の中ではイケメンさんだ。

 なるほどこれがスメードルンド国王か。


 私が立ったまま値踏みしていると、左右の人たちと離れて国王陛下の座る玉座の前に立つ中年男性が、「陛下の前である平伏せぬか!」と、声を荒げた。

 あの立ち位置だきっと宰相だろう。


「私は呼ばれてここに来ただけです。

 スメードルンド国王陛下に仕えている訳でもありませんので、平伏する必要を感じません」

 ちなみに『偉そうに人を呼びつける前に、自分から来い』と続けたかったが、レイモンドが首をヒィと竦めたので自重した。


 それを聞いた宰相は怒りで顔が真っ赤になったが……

 さて国王の反応はどうだろう?



「宰相、それで構わぬ。

 賢者シャウナのいう事はもっともだ。臣下ではない者に臣下の礼を取って貰う必要はない。悪いが椅子の準備は無いのでな、そのままで聞いて貰おう」

 そして彼はスクッと立ち上がった。

 その瞬間、周りからザワっと驚きの声が聞こえた。

 きっと謁見の間で国王陛下が立ち上がる様な前例がなかったのだろうと推測する。


 へぇこの人ちょっと面白いかも。

 私は内心で彼の好感度をやや上向きに修正した。


「今回来て貰ったのは、賢者シャウナの持つ約束手形の件だ。

 詳しくは宰相から申し伝えるゆえに、悪いが聞いてくれ」

 宰相はペコリと陛下に会釈すると、いつの間にか取り出していた紙を前にして朗々と読み上げた。


「賢者シャウナとシアラー男爵により、大銀貨七十枚の約束手形が発行されました。

 しかしシアラー男爵は、事故死により期日までに契約された代金を支払う事が出来ませんでした。

 賢者シャウナ、これは事実ですかな?」

「約束手形の発行は事実です。

 シアラー男爵の件は、約束手形を渡した際に街の財務省の役人からはそのように聞いておりますが、事実かどうかは私には分かりかねます」

 集めた情報によればその通りだが、実際に見ていない事なので名言は避けておいた。


「よろしい。

 現在、国王陛下によりシアラー男爵の財産に関する件は凍結されておるが、今回その凍結を解除することに至った。

 賢者シャウナ、そなたの約束手形は期日までに正当な支払いが行われなかった。ゆえに、約束手形の契約通り、男爵位を譲渡するものとする」

 それを聞いて私は内心とてもガックリした。その場で膝を付かなかった自分を褒めてあげたいほどに……

 何てことだろう。

 お金で解決が希望だったと言うのに、一番要らない奴が来たよ。


「賢者シャウナよ、一歩前へ」

 仕方なしに一歩前へ進む。

 国王陛下が銀色の短い錫杖を手にして宰相に手渡し、それを持った宰相が私の方へと歩み寄ってくる。

 私の眼前まで迫った宰相は小声で、「(平伏せよ)」と命じた。

 心の中で舌打ちしつつ平伏すると、再び小声で「(両手を前に)」と言われる。

 言われた通り差し出すとその手の上には先ほどの銀色の錫杖が乗せられた。


「以後、シアラー男爵を名乗るがよい」と、これは陛下の言葉だ。


 宰相から小声で立っても良いと言われたので立ち上がり、目の前の宰相に、

「(要らないと言う選択は?)」

「(もちろん無いぞ)」そう言って宰相はニィと嗤った。


 どうやら私はまんまと彼の臣下に組み込まれてしまったらしい。




「シアラー男爵はこちらへ」

 宰相に呼ばれて私は彼の隣へ移動、そしてレイモンドはどうやら役目が終わったらしく謁見の間を出て行った。


「次を」と宰相が言うと兵が二人足早に大きな扉に向かって行き、その扉をよいしょよいしょと左右に開いた。


 扉の向こうから現れたのは十人ほどの女性の集団と少々の男性だった。彼らはかなりの数の兵士に連れられてぞろぞろとやって来る。

 そして先ほど私が止まった位置よりもさらに数歩前で止められた。

 数が多いから周りを固める兵士も多い。きっと距離が遠いのもその所為だろうね。


 今度は国王陛下は話さず、宰相だけが話し始める。

「そなたたちはシアラー男爵に所縁ゆかりある者で良いか?」

 宰相の口調は疑問形なのだが、どうやら返事を求めてはいないようで言葉はそのまま続けられた。

「もしもその証言が虚偽出会った場合は罪に問う事となる。偽りであるのならば今この場より立ち去る事を許可する。

 良いか、これが最後の通告であるぞ!?」

 しばしの間、沈黙が落ちたが立ち去る者は居なかった。


 ああ読めた。

 この国王陛下はなんてことをさせるのだ……

 彼らの真意に気付いた私が、不満をあらわにしてジィと睨み付けてやると、彼は私の視線に気づきニィと嗤いやがった。


 こうして【嘘発見センスライ】の魔法により、彼らの真偽は暴かれた。

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