45:契約
【鉄鉱石の原料はハナム工房が負担する。
製鉄の加工費については1KG辺り、大銅貨一枚とする。車軸とナットは、車軸一本に対してナット二個を一組として、大銅貨五枚。
ナットとネジは規格を大中小と三種類製造する。大きさに関わらずネジとナットひとつずつを一組として十個に付き大銅貨五枚。
製造した商品は全てハナム工房に納品を行うものとする】
「以上でよろしいでしょうか?」
私は再び街に訪れて、ハナム工房を相手に取り契約の詳細について話をしていた。
「いえ原材料の鉄鉱石についてですが、町の方へ運ぶ費用負担が不明確です」
製造した商品の納品先はハナム工房なので、町で加工すれば費用はこちら持ちだ。しかし鉄鉱石は原料負担のみの記載なのでどこにあるのか所在が不明となる。
「ふむ、業者に対してそちらに納品させるわけには行きませんので、取りに来て頂く必要がありそうです」
「その運搬費用はどちらが持ちますか?」
「そちらで、とお願いしたいですが」
「いえお断りいたします。
加工と納品は私の仕事ですが、原料の納品はハナム工房の方でやって頂く方が分かりやすいでしょう」
「完全に分業と言う訳ですね。
理想は納品した際に持ち帰って頂くことなのですが……」
それは正直な意見で言えば、現実を無視した夢物語だろう。
そもそも製鉄済のインゴットに比べて、原料である鉄鉱石は不純物が混じっているので体積はおろか重量もかなりの物になる。
行った馬車で持ち帰れる量ではないのだ。
「私どもは冒険者を雇うつもりです。
その冒険者にハナム工房さんが依頼されるのは自由でしょうね」
実際に頼むのはマイコーとヤンネの二人なのだがその関係性は置いておくとして、ここではこちらが持ち帰れと言う依頼を出すつもりは無いとハッキリと伝えておいた。
「それだとわたしどもが厳しいですね」
インゴットに比べれば原材料には輸送費が格段に掛かるのだから、ハナム工房が渋り始めた。
よしよしまずは予定通りに進んでいるなと、私は内心でほくそ笑んでいた。
しばしの間、そちらが、いやそっちでとやりあった後。私は渋々と言う体を見せて、
「分かりました。
では私どもの提案を聞いて頂いて良いですか?
それを承認して頂けるのならば、輸送費はこちらが持ちましょう」
「聞きましょうか」
どうやら乗り気になってくれたらしい。
実は散々法律を調べた結果、面白い抜け道があった。
私からハナム工房へ品物を納めた場合、取引が発生して売り上げの一割が商人ギルドへ入りもう一割は領主の税として徴収されることが決まっている。
しかしハナム工房に雇用された事にして賃金として受け取った場合は、取引は発生しないので売上はゼロ、つまりそこに税は発生しないのだ。
つまりこの国では賃金には税金が掛からない。
それを伝えると、
「ははぁなるほど。
製品化してくれた労働力として貴女方に賃金を払う訳ですね。そんな手法があるとは……
良いでしょうそのように取り計らいますので、では輸送費はそちら持ちと言う事でよろしいですかな?」
「はい構いません。
では契約書の一部を書き換えて頂けますか?」
「えっ、それはどのように?」
いまやっとすべてが決まりかけた所で書き換えろと言われたのだから、ハナム氏が困惑するのも無理はない。
「同じ工房に勤めているのですから、〝ハナム工房〟と言う三人称が出るのはおかしいでしょう?」
こう言って私はニッコリと笑った。
「確かに! では契約書は本店と第二工房として書き換えましょう」
「はい、お願いしますね」
無事契約が終わった……
車軸とナットの製造は鉄が冷えるのを待つのが一番時間が掛かり三日だ。しかし冷えるのを待つだけなので作業はほぼ止まらない。
一週間に二十~三十組は出来るだろう。
そしてネジとナット。こちらはサイズが小さいのでもっと早く冷えるから、もっと楽だ。おまけにサイズが小さいので馬車にも多く載せることも可能だ。
そして現在、既に大銀貨五十枚を超えるほどの仕事が入っている。
量を聞いてバートル爺さんに相談したのだが、その金額が入るのならと鍛冶屋を継いでいたマイコーのお父さんの方も協力してくれることが決まっている。
この契約により確実に借金は完済するであろう。
十一ヶ月目が終わる。
どうやら間に合った様だ。
十一ヶ月目(※銅貨未満は切り捨て)
前月繰繰越_銀貨百四十七枚、銅貨十一枚_14711 |_______│
_約束手形分_銀貨七十枚______ __(7000)│_______│
行商収益___________________ ______0 │_______│
霊薬販売益________大銅貨九枚 _____90 │_______│
鉄鉱石仕入額__銀貨一枚、大銅貨九枚 _______ │____190│
その他雑費________大銅貨四枚 _______ │_____40│
雇用費一回________大銅貨三枚 _______ │_____30│
生活費__________大銅貨二枚 _______ │_____30│
===========================================================
小計________________ __14801 │____290│
_約束手形分計___________ __(7000)│______0│
最終収支額__銀貨百四十五枚、銅貨十一枚______________│__14511
_約束手形分_銀貨七十枚______ _________________│__(7000)
※
最終月が始まって間もなくの早朝。
ドンドンドン!!
ドンドンドン!!
玄関のドアを蹴破るかの様な音に驚き目が覚めた。
この叩き方は男爵の回した偉い使いか、バートル爺さんっぽいアレだよ。
今更なのでかなり諦めた感はあるが、この町付近の人は何故これほど朝早くに、決まって我が家の玄関を何かの仇の様に叩くのだろうか?
なんにしても、その仇を取る前に
こうして私は玄関先で人死にされるなんて寝覚めの悪いことが起きる前に玄関のドアを開けたのだ。
さてガチャっと開けたドアの外。
そこに立っていたのは、身なりの良いちょび髭の中年のおじさんだった。
「おはようございます。一度お会いしていますか?」
ちょび髭の役人さんは偉そうに鼻を鳴らすと、「如何にも!」と、やっぱり偉そうに言った。そして前回同様、ちょび髭の役人さんの後ろにはずらりと槍と鎧を身に着けた兵士が整列していた。
「賢者シャウナ。そなたには我が国の国王陛下より召還状が届いておる!
すぐに出立の支度をせよ!」
目の前でそのように叫ばなくても聞こえますよ~と言いたい所だが、それよりもだ。
「私は国王陛下に用事はありませんけどね」
「たわけぃ! お前の意見など聞いておらんわっ! さっさと支度をせい!!
これ以上文句を垂れるのならばそのまましょっ引いても良いのだぞ!!」
どうやらかなりお急ぎだったようで、危うくこのまま連れて行かれそうになったよ。
それは困る。
相変わらず一張羅のローブ姿ですが、またも早朝訪問ゆえにいつもの例に違わず中は寝間着ですからね。こんなので宮殿に行かされて『その姿は謁見に相応しくない、着替えて貰うから脱げ!』とか言われたら恥ずか死ぬわ!!
私は急ぎ準備を整える為にくるりと反転する。
しかしやっぱりくるりと戻り、目に見えて苛立つちょび髭の役人さんに、
「随伴は何名までですか、それから何日の予定でしょうか?
その間の費用は?
あとその間の私の仕事はどうなりますか」と、矢継ぎ早に質問してやった。
ちょび髭の役人さんはピクピクと震えつつ怒りで顔を真っ赤にして、
「陛下のお考えは我らが存じ上げる事ではないゆえに答えることは出来ん。
あとな、お前の仕事の事など、わしが知った事か!!! 分かったら、早く準備をせんかーっ!!」
盛大に叱られました。
こうして私は初めて、スメードルンド王国の王都へ行くことに決まったらしい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます