35:勇者(仮)の訪問②
世界平和をガチで望むっつーか実行しようとしている
いまここ。
玄関先で語るには〝この話は重い〟と考えた私は、我が家のリビング兼応接室で向かい合ってじっくりと話し合う事に決めた─なお本日の町の用事はリンネアに代理を頼んだので、一日フリーになった─。
願わくば早く諦めて欲しいのだが……
「私は体力が無いし長い旅に向かない人種なのだけど?」
「大丈夫です! 仲間はお互い助け合いですから、賢者様に足りないところはあたいが助けますよ!」
見てくださいとばかりに腕を捲り上げて力こぶを見せるレジーナ。細腕だと思っていたのにぽこっと盛り上がる二の腕にはかなり筋肉がついている様だ。
剣を振って魔物を倒してるので当たり前か。
「一緒に行っても役に立たないと思うのよ」
「そんなことは無いですよ! あたい、噂で聞きました!
賢者様が町に迫った魔物の群れを一瞬で灰にしたって! 町の外でその場所を見てきましたけど、あれほどの威力の魔法が撃てて役に立たないわけが無いです!」
あーそう、町の外の
この子トラウマをいちいちえぐって来るな~と思いつつ、
「貴女が戦っていると巻き込んじゃうからあの魔法は使えないわよ。
だから役に立たないでしょう」
もっと小さな魔法が使えないとは言わないが、魔物相手とは言えどもう殺傷の為に魔法を使うのはこりごりなのだ。
いまだにあの魔物たちの断末魔を思い出すだけで、体が勝手に震えてくると言うのに、本気で勘弁して欲しいわ。
「あたい、……丈夫さには自信があるんですが、耐えられますかね!?」
おい、なんで自分ごと撃たせる前提なんだよ!?
「きっと無理でしょうね」
体力自慢のオーガでも遺体を残さず灰になったのだから考えるまでも無い。
「そうですか~、でも気合とか根性だってあるんですよ!?」
チラッ。
こっち見んな、例外なく死ぬよ、確実に死ぬよ!!
気合と根性なんて最初から関係ないよ!!
「分かりました魔法は諦めます。じゃあせめて知恵だけ貸してください!」
握り拳で「あたい馬鹿なんで!」と自信を持っていわれましてもね。
「知恵だけ貸すために、私が着いて行かなければならない理由が分からないわ」
「世界平和の為です!」
あっここでそれ出しちゃうか~
ダメだ、何を言っても伝家の宝刀『
「やっぱり私には無理です。
大体さ、借金生活でこの領地から出ない様に領主の男爵から監視されてるしねー」
伝家の宝刀が出たので、こっちも投げやりの応答になるのは仕方がなかろう。
「えっ!?」
驚きの表情で固まるレジーナ。
なんだろう突然、初めてのパターンだな。
「それってどういう事ですか、詳しく教えてください!」
何やら聞かれたので私は今の現状をそのまま教えた。つまり、〝男爵から借金をしている事〟、〝そして男爵から領地から出ることを禁じられている事〟だ。
町の人に聞けば大抵知ってるから、今さら隠す様な事じゃないしね。
「だったら旅に出れないじゃないですか!!」
「だから最初からそう言っているじゃない」
「うう~っ」と分かりやすく頭を両手で抱えて唸るレジーナ。
手で頭を抱えたまましばし沈黙。そしてレジーナは絞り出す様な声で、
「……賢者様の借金はいくらなんですか?」
「金貨二枚よ」
「高っ! なんですか、超大金じゃないですか!!」
「そうでしょう」とふふんと鼻を鳴らす私。
なぜ私はそこでドヤ顔したし……と、軽い自己嫌悪だ。
「分かりました!
あたいが金貨二枚稼いでからまた来ます!!」
「え?」
「次が三回目ですからね! 万全の準備を整えてから伺いますよ!!」
覚悟しとけよ~とばかりに力強い眼力でこちらを睨み付けてくるレジーナ。
「ちょっとなんでそんな話になったのよ!?」
「借金を返せば賢者様はこの領地から出れるんでしょう、だったらさっさと返してあたいと一緒に旅に出ましょう!」
「いやいや、期限までに返せないと私はこのまま男爵に仕えることになってんだけど。
だから私はいま忙しいのよ!」
そのつもりが無いから、いま頑張ってんだよ!!
あんたに構ってる暇なんてないんだよ、と言外に込めている。
「その期限はいつですか!?」
「えっと二ヶ月後……かな」
「わかりました! 二ヶ月後にまた来ます!」
えっどうしてそうなるの?
しかしレジーナは私が止めるよりも早く席を立つと、タタタと小走りに家を出て行ってしまった。
わーっと来て、わーっと帰っていた未来の勇者レジーナ。
彼女の言う所の三回目の訪問では、本当に金貨二枚を持ってくるのだろうか?
まぁ持ってきても受け取らないけど……
とりあえず回避できたのだな~とホッとするのが半分。また二ヶ月後に来るって言ってたな~とガッカリが半分。
あぁ気が重い!!
しかし世の中にはいろんな人が居るんだな~とよい経験になったよ。
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