29:冒険者ギルド

 イーニアスが就職したことでマイコーが一人になってしまった。そしてどれだけ優秀な冒険者だろうが一人で行動する命知らずな馬鹿は居ない。

 つまりマイコーは事実上失業したのだ。


 そしてマイコーの仕事を斡旋することを条件にバートル爺さんが働いてくれていたので、もはやその契約は果たされていない事になる。

 それは不味い!



 と言う訳で、

「マイコーと組んでくれる人を探しましょう」

 私はバートル爺さんの家に訪れて、血気盛んにそう提案した。


 しかし当のマイコーはと言うと、

「今までのお金でしばらくは遊んで行けるしさ~

 別に無理して探さなくてもいいよ~」

 どうやら本人のやる気は皆無の様だ。


 途端に『ゴン!』と聞こえる鈍い音。

 どうやらバートル爺さんの鉄拳が彼の頭に落ちたらしい。

 イテテと言って蹲るマイコーを─バートル爺さんが─引き摺って、私たちは冒険者ギルドにやって来た。




 扉を開けて中に入ると、バートル爺さんはつかつかと一人で歩いて行ってしまい受付カウンターに居た知り合いらしき職員となにやら話を始めてしまった。

 ちなみに私は扉の付近でマイコーと二人ぽつんと立っている。



 勝手の知らない場所ではあるが、興味本位からどういった所なのだろうと店の中をぐるりと見渡していく。

 扉の正面には受付カウンターが三つ、左の壁にも同じようなカウンターが二つある─バートル爺さんが座ったのはこっち側だ─。

 そして右の壁には乱雑に紙が貼られた掲示板が二つか。


 それらが囲む部屋の中心部には仕切りが一切無くて、長椅子が何列か並べられている。そこには装備を身に着けた冒険者風の者たちが何人も思い思いに座っているのだが……


「二十八番の方~、二十八番の方いますか?」

 受付カウンターの職員が番号を呼び始めた。すると長椅子に座っていた冒険者の一人が立ち上がってその受付へを歩いて行った。

 どうやら長椅子に座っている冒険者は順番を待っているらしい。

 それを見た私は、もう病院の精算待ちにしか見えなくなったよ。



 再びジッと見ていると冒険者が掲示板を覗き込み、一枚手に取る。それを左、バートル爺さんが座っていない方のカウンターに持っていく。紙と交換で木の板を貰っているからきっとあれが番号札なのだろう。

 依頼を選んで受付と言う流れかな?



 正面の流れは概ね理解できた、次に気になるのは右手の掲示板よね。

 私はマイコーを捨て置き、トトトと近づいて掲示板を覗き込んでみた。


 貼ってあるのは予想通り依頼書だった。

(さてと今出ている物は~)

 どれどれと眺めてみると、〝麦の収穫お手伝い〟に〝田を荒らす鳥の駆除〟、それから〝犬の躾け〟ですって?


 はなはだ疑問だが、これは本当に冒険者の仕事なのかしら……

 依頼がすべてこのレベルであれば、私が出そうとしている火山の魔物退治なんてものは、超高難易度になってしまわない?


 首を傾げつつも一応、隣の掲示板の方も見てみた。

 えーっと、〝魔物退治(鉱山)〟に、〝魔物間引き(○○村周辺)〟、〝山賊からの商団の護衛〟?

(あら今度は随分と物騒になったわね)


 もしかして一般と荒事は掲示板が分けられているのかしら?

 掲示板を見つめながらそんなことを考えていると、

「おい嬢ちゃん、あんたは仕事請ける気なんて無いんだろう。

 ちょいと開けてくんねぇかな?」

 声が掛けられて振り向けば、革鎧を着込んだ髭面のおじさんが何とも迷惑そうな表情で立っていた。


「あっごめんなさい」

 私はスッと体を避けて彼に掲示板の前を譲った。

 髭のおじさんは依頼書を隅々まで見ていたが、結局何も取らずに「チッ」と舌打ちして隣の掲示板に視線を移した。




 そこへバートル爺さんが戻って来て、

「何を見ておるんじゃシャウナ。

 依頼を出すのはこっちじゃよ」


 その声に反応したのは私だけでは無くて、髭面のおじさんも同じくバートル爺さんの方を見た。

「おやバートルさんじゃねえか!

 久しぶりだなぁ。引退生活に飽きてまたやりだすのかい?」

 そして彼はニカッと笑うと、バンバンとバートル爺さんの肩を叩いた。


「おお、お主もしやヤンネか!?

 大きゅうなったのぉ!!」

 バートル爺さんも彼のお尻をバシバシと叩いて破顔した─身長差と言う奴だね─。


「ああそうだよ、はな垂れのヤンネだ」

 そして二人はしばし盛り上がり昔話を始めていた。

 どうやら知り合いの様だが……


「あのぉバートル爺さん。依頼を出す場所と言うのは?」

「おっとそうじゃった!

 のぉヤンネ、お主いま暇かの?」

「あん? クソな依頼しかねーからな。暇っちゃー暇だが……」

「よしシャウナ。

 依頼を出すのはやめじゃ。こやつに直接頼むことにしようぞ」

 とんとん拍子で話しが勝手に進んでいき置いてけぼりになっていたのだが、突然話を振られて我に返る。


「はあ一体どういう事ですか?」

「じゃから直接こやつに依頼するんじゃよ」

 何が『じゃから』なんですかね……?



 私たちは場所をギルドから近かったジェニーおばさんの店先に変えていた。ほらギルド内でやると迷惑だからね!


「おれの名前はヤンネっつーんだ。

 こんななり・・だが、一応僧侶をやってる」

 なるほど、確かにその革鎧に髭面身なりは僧侶には見えない─普通、僧侶と言えば白か黒系統の服装に身を包み、身だしなみも綺麗に整えられている者が多いのだ─。

 ここまで野蛮な恰好をした僧侶は稀であろう。


「ヤンネはの、わしらのパーティーにおった僧侶のひ孫なんじゃよ」

「えっ!? まさかの四代目ですか!?」

 噂に聞いた僧侶さんは、確か爺さんから孫まで一緒に旅をしたと聞いていたのだが、まさかひ孫まで一緒だったのか?


「いやいや実際に組んだのはこやつの親父の代までじゃな」

 なんだ残念。


「この娘はシャウナと言っての、マルヴィナのお婆の弟子なんじゃよ。

 火山の魔物を倒す依頼を出そうとしとったんじゃが、お主が暇ならば丁度いいわい。うちの馬鹿孫を連れて一緒にいってくれんかのぉ?」

 それを聞いたヤンネは「ああ魔女の婆さんの……」と呟いている。どうやら彼はお婆さんにも会った事がある様だ。


 彼はすぐには返事をせずに、

「まずは話を詳しく聞こうか、返事はそれを聞いてからにする」

「ええ分かったわ」

 腕を疑う訳ではないが、知り合いだからと気軽に二つ返事されるよりは、慎重な方がよっぽど信頼できるわね。


 ざっと話を伝えると、

「定期的な依頼ならおれも有難いぜ。

 それに魔法の加護があるってんなら二人でも行けるだろう、よし任せておきな」

「ありがとうございます」

 ぺこりと頭を下げてお礼を言った。



 ちなみに……

「はあ!? あんたが二十六歳だって!? 賢者ってのはすげーなぁ」

 小娘なのに随分しっかりしてんなー系の話が出たので、私の年齢を伝えたらかなり驚かれた。

「いやいやーヤンネさんの二十八歳の方が詐欺でしょ~」

 髭面の中年おやじだと思っていたら実はアラサーだったとか、私の方が驚いたわよ。



八ヶ月目(※銅貨未満は切り捨て)

 前月繰繰越_銀貨八十五枚、大銅貨三枚 ___8530│_______│


 行商収益______________ ______0│_______│

 霊薬販売益___銀貨一枚、大銅貨二枚 ____120│_______│


 鉄鉱石仕入額__銀貨三枚、大銅貨五枚 _______│____350│

 その他雑費________大銅貨四枚 _______│_____40│

 雇用費_______________ _______│______0│

 生活費__________大銅貨二枚 _______│_____20│

 ===========================================================

 小計________________ ___8650│____410│


 最終収支額_銀貨八十二枚、大銅貨四枚 ________________│___8240





 当月は火山への雇用費は無かったのだが、以前に取っておいた分と合わせる為に鉄鉱石の仕入は必要だった。

 しかし鉱山に出た魔物によって先月よりもさらに鉄鉱石が上がっている。

 鉄鉱石はいよいよヤバいわ……

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