18:冒険者
早速、バートル爺さんの家に伺い事情を話すと、彼は「任せておけ」とすぐに請け負ってくれた。
ただし彼から提示された条件が一つある。
「うちの孫を専属で使ってやってくれんか?」と。
ドワーフ少年、もとい青年のマイコーは三十歳にもなろうと言う年齢にも関わらず、定職にも就かずに日雇い仕事のみ、仕事が無い日も多く町中をプラプラと遊び歩いているのだとか。
(確かに字を覚えに子供たちに混じっていたりしたけれど、暇だったのね)
「あの馬鹿孫も、仕事があれば多少はマシになるじゃろうて」
と、バートル爺さんは深い溜め息を吐いていた。
「一人で行ける物なんでしょうか?」
チェスロック火山の側の街までは【転移の魔法陣】と馬車で行くことが出来る。しかし街から火山までは必然と野営になるので、夜など一人で過ごすのは危険であろう。
それに火山の魔物を一人で相手にすることも不安を覚える。
だから言外に、マイコーには一緒に行ってくれる仲間が居るのかと言う質問だ。
「なぁにあいつもドワーフの端くれ、土くれの魔物に後れを取る訳は無かろうて」
聞けば土系統に強いドワーフはその系統の魔物にはめっぽう強いらしい。
「でも場所は火山で、相手はマグマ状ですからとても熱いのでは?
と言う事は、土属性と言うよりも火属性ではないかと思うんですけど……」
土に強いドワーフの弱点は火属性。つまりそちらの敵にはめっぽう弱いのだ。
「ふむぅ……。じゃったら儂も一緒に行くかのぉ」
「ええっバートル爺さんも行くんですか!?」
「ふんっ戦斧を持たせたら儂の右に出る者は誰もおらんかったんじゃぞ! 見ておるがよいわ!」
肩を怒らせながら別の部屋に行ったバートル爺さんは、かなり大きな戦斧を担いで帰ってきた。そして自慢げに、ブオォンと一振りして。
「ぐぅぁあっ!」
「ぐあ!?」
「こ、腰が……」
「すみませーん! グレタ婆さん~!
お爺さんがぎっくり腰ですー!!」
ベッドに力なく横たわるバートル爺さんは、「くそう年には勝てんか」と悔しそうに呟いていた。
翌日、バートル爺さんの見舞いとマイコーへの説明の為に再び彼の家を訪問する。
ちなみに昨夜の内に、冒険者ギルドを通さずに仕事を依頼する行為の可否について確認してみた。個人が個人にものを頼むだけなのに、気にし過ぎかとも思ったが、土地の代金の件もあったので私はしっかりと法を調べてみたんですよ!
なお結果は問題なしだったわ。
バートル爺さんの家への道を歩きながら少し考え事をしていた。
私の出す依頼内容は鉱石の持ち帰りなので、その依頼に対して冒険者が何人で引き受けるかはあちらの都合と言う事なる。
しかし今回依頼する相手は知人の孫であるマイコーだ。
おまけにマイコー自身も決して知らない相手ではない。彼の実力は知らないが─学力は知ってるけど─、一人で行って死なれようものなら、絶対に後悔する自信がある。
(誰か一緒に行ってくれないかなぁ……)
そうは言っても私の知り合いは多くは無い。
まずサイラスは聞くまでも無くダメだ。彼は便利屋では無くて、私だけの聖獣様なのだから、その意味を間違えればたちまちに加護を失ってしまう。
そしてキーンもダメだ。彼は人型になれても白フクロウの使い魔と言う枠から出る存在ではないので、そもそも戦闘は不得手だ。それに人型をとるだけでも魔力を消費するので、私と離れればその魔力が十分に補給できずに人型を維持することは出来ないだろう。
そして町の門番さんのプレザンッスも定職に就いているので論外。
そして唯一の希望だったアルヴィドには、もう冒険者は引退したからと断られた。
このまま頼んでも良いかと悩んでいる間にバートル爺さんの家に着いてしまう。
すると、扉の前にはイーニアスの姿があった。
どうやら彼は私を待っていたらしく、私の姿を見つけると笑顔でこちらに向かって走り寄ってきた。
「あら久しぶりね」
ここ一ヶ月は訓練に行くと言って街の方へ行っていたと思っていたが、どうやら帰って来ていたらしい─だから候補から除外していたのだ─。
「シャウナさん、俺がマイコーと一緒に行ってきますよ!」
そしてニカッとなにやら自信に満ちた笑顔を見せるイーニアス。
「貴方変わった?」
「そうですか!? だったら嬉しいな!
実は俺、騎士になるための訓練を受けて来たんです!」
なるほど一ヶ月ほど街で騎士から手ほどきを受けた経験が、彼の自信に繋がっているらしい。
「騎士になるのなら冒険に行っている暇はないのではなくて?」
騎士ならばプレザンッスと同じく定職組みと言う奴だ。マイコーと一緒に冒険に行っている暇なんてないだろう。
「まずは騎士見習いからですけどね……、大丈夫です採用はまだまだ先なんです。
だからあと三ヶ月くらいは暇なんですよ! 安心して任せてください!」
なるほど訓練兼試験はパスしたが実際に働くのはまだ先だった様だ。
彼のお陰で私の懸念は減った。
ただ申し訳ないことに、
「でも今回は素材の数でしか報酬は払えないわよ」
人を雇うのではなく、素材の収集と言う約束である。だから二人で行っても報酬は増えませんよと告げた。
「もちろん分かってますよ!」
じゃあ私が言う事は何もない。
いや……、「お願いします、頑張ってくださいね」と、笑顔で言う以外には~だよね?
イーニアスは顔を真っ赤にして、「ハイ!」と元気な返事をしてくれた。
◆◇◆◇◆
主婦たちが募金を募る始めてしばらくすると、ドワーフのグレタ婆さんに耳にもその噂が聞こえてきた。
「募金を集めてもシャウナちゃんはきっと受け取らんよ」
募金の中心メンバーらの元に彼女は赴き、自分も援助を断られた事を告げたのだ。
「それだと金貨二枚なんて金額は絶対に貯まらないわ!」
「そうじゃが、あの子は魔女の婆さんに育てられたお陰で少々強情でのぉ」
「あらあらその辺りはやっぱり魔女なのねぇ」
「ねえだったらどうするのよ?」
「う~ん……、どうしよう」
「子供たちの勉強を見て貰うお礼と言うのはどうじゃ?」
「それはどういう事?」
「貴族は学校と言う所に行って勉強するそうじゃ、その学校に勤める教師らには報酬が支払われておるそうじゃ。
つまり子供に勉強を教えてくれた労働に対する対価じゃな。それだったらシャウナちゃんも受け取るんではないかのぉ」
「なるほどね、ちょっとそっち方面で攻めてみるわ!」
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