14:新しい霊薬
私がお婆さんから受け継いだ霊薬は、毒も含めればかなりの種類がある。
なんで毒なんて!? と思うかもしれないが、かつての魔女はそれを使って貴族の暗殺なんかにも加担していたそうなので、検知されにくい毒の開発と言うのも魔女の実力の一つであったのだ。
そんな印象があるから魔女は迫害されたり、物語などでは悪いイメージで書かれることが多いのだろう。
(教えて貰った私自身がお婆さんにそう言って文句を言ったのよね~
確か魔女なんかになりたくない! だったかしら)
その後はしばらくは口も利かなかった覚えがある。
まぁ今となっては毒だって薄めることで、治療に使える物がある事も知っているので、薬と毒の差なんて実は無いと言う事は理解しているつもりだ。
さてその受け継いだ霊薬の中から、まずは売れそうな物だけを選びだして試作品を作り出すことに決めた。なお自分が一般人の常識に欠けている自覚はあるので、売れそうな物だけは事前にイーニアスに相談して確認済だ。
実のところグレタ婆さんの言う、〝薄めても効果がある〟なんていう霊薬は実際は滅多にない。毒が致死量を飲まないと死なない様に、薬だって既定の量を飲まなければ病には効かない物が多いのだ。
材料をほとんどドブに捨てるかのように、何度も何度も失敗を繰り返すばかりだ。一向に成果が現れない事にイライラとする。
そもそも薬の調合は【魔女】の専門であり、【賢者】の仕事ではないのだよ!
試しているとすぐに薬草などが不足する。
しかしそれはサイラスが何度も〝魔女の森〟とここを往復してくれて、何とか実験を続けることが出来た。
そして一ヶ月掛かって、ついに何種類かの薄い霊薬が完成した。
出来た霊薬をテーブルに並べて、満足げににんまりと笑っていると、
「終わったのか」
そこにはサイラスが森で採取した素材を持って立っていた。
コクリと頷けば、サイラスの大きな手が私の頭にポンと乗り、よしよしと頭を優しく撫でてくれた。
「えへへ」
しかしその手はスッとなくなり、私は手の持ち主を不満げに睨み付けた。
すると彼は呆れた顔を見せて、
「続きは売れてからだ」
そう言うや工房をさっさと出て行ってしまった。
(まっ仰る通りだけどね、もう少しくらい甘やかして欲しかったなぁ)
※
さて新しい薬の売れ行きだが……
「久しぶりだねぇシャウナちゃん」
子連れのお母様方が何人もやって来ては、彼女らは私の元に子供を置いて帰っていく。ぶっちゃけ薬を見る人なんて誰も居なかった。
結局その日は何も売れることは無く、久しぶりに子供たちに字を教えただけだった。
ただし私の足元には、お礼だと言う、たくさんの野菜や干し肉といった物が積まれていたので、食費の節約にはなった様だ。
(お礼と言うのはどう考えても子守りのことよね)
まぁ霊薬の値段が下がったことはグレタ婆さんやジェニーおばさんがご近所に伝えてくれたみたいだし、気長に待つしかないわね。
なお新しい霊薬が売れたのは、その月の終わり頃のことだった。
いつもは私のところへ来て、子供を置いていくお母さんの一人が、子供を連れずに慌てて走って来たのだ。
「どうしましたか?」
「息子が熱を出して、それに効く薬はあるかしら!?」
「下熱作用のある霊薬だとこちらになります。この薬は飲んでからぐっすり眠る必要があります」
「それはおいくら?」
「銅貨三枚になります」
「あら思ったより安いのね、じゃあそれをください」
私はお金を受け取りながら、服用方法を説明した。
「確かお子さんは六歳ほどでしたよね?
でしたらこの薬は成人の一回分ですから、三回に分けて飲ませて上げて下さい」
「分かったわ。あの子熱が出てぐったりしていてね、なんだか食欲が無いみたいなのだけどそのまま飲んでも平気かしら?」
「空腹でも構いませんが、きっと薬だけ飲むのは大変でしょう。出来れば甘めの果実水に溶かして飲ませて上げた方が良いかも知れませんね」
奥さんはコクコクと頷いて小瓶を受け取り去って行った。
あまりに急ぎ足だったので、落として割らないでねーと、背中に叫んでおいた。
それから三日後、その母親は子連れで現れたのでどうやら薬は効いたらしい。
治った事はよい事なのだが……
(そっかー、一瓶で治るのかー)
病気が治れば霊薬はもう売れないと言う事で喜んで良いのか悪いのか。
まぁ良い事であるから笑っていようかな。
なお子供の風邪が一発で治った事が良い評価になったようで、それ以来、新しい霊薬は徐々に細々と売れる様になった。
その販売額から先月からの赤字分である瓶の持ち出し代金を差っ引いた算定の結果、今月の儲けは青銅貨四枚!!
初めての黒字!
やった! と、喜んだのは束の間、サイラスに滅茶苦茶怒られました。
えーとこれで金貨二枚を稼ぐには……
うん止めよう、気分が重くなる未来しか見えないわ。
◆◇◆◇◆
町のとある井戸端会議。
「ねぇジェニー。シャウナちゃんに借金があるって本当なの?」
とある奥さんが代表して雑貨屋の店主に尋ねた。
「領主様に一年以内に土地代を払うように言われてるらしいわよ」
「土地代ってなによ? あたしらはずっとこの町に住んでるけどそんなもん払ったことないわよ!」
口々に奥様方が同意を示す中、
「実はその借金の原因がうちのプレザンッスの所為らしくてね。
あたしも何とかしてやりたいと思って棚を貸してるんだよ」
「なるほどねー。で、その借金の金額はいくらなのよ?」
「甥っ子からは金貨二枚って聞いたんだけどねぇ。金額が大きすぎて聞き間違いだった様な気もしてるのよね」
「金貨!?」
「そんな額が払えるわけないじゃないの!?」
「払えないとどうなるのかしら……」
「領主様の慰み者になるって……」
「はぁ!?」
「ちょっと何よそれ!!」
「ねぇみんな。ちょっと相談があるんだけど……」
……。
……。
「募金?」
「そう、いつも子供の面倒を見て貰ってるじゃない。その家庭からみんなで銀貨二枚出し合えば金貨に届くんじゃなくて?」
「銀貨二枚か~」
「一年で二枚なら節約すれば何とかなるかねぇ」
「よし、あたし乗ったわ」
「じゃああたしも。他の人にも声掛けとく!」
「「「うん、みんなでシャウナちゃんを救いましょうね!!」」」
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