借金生活
11:お金を稼ぐと言う前に
数人の兵士に馬車で家の前まで護送されて解放される。
早朝にたたき起こされて、隣街まで往復。やっと帰ってきた頃には、もう夕日が沈み始めている。
(はぁなんとも慌ただしい一日だったわね)
馬車から降りた私を出迎えてくれたのは、まずは
彼は「ホゥ」と一声鳴くと、ふわりと飛び降りて滑空し、私の周りを旋回し始める。あぁ肩パットが無いから降りられないのか。
さらに玄関先にぺたりと座っていたのは、赤茶色のつんつん頭のイーニアス。
「シャウナさん、良かった無事だったんだね」
どうやら私が兵に護送されたのを聞いて心配して待っていてくれた様だ。
さらにその後ろにはもう一人。
(ん~町の門番さん?)
年若い門番さんは私を見るとすくりと立ち上がってこちらに駆け寄ってきた。そして私の前で立ち止まると勢いよく、「すみませんッス!」と頭を下げたのだ。
「何がでしょうか?」
とんと身に覚えがないので、首を傾げる。
すると彼は顔を上げて、昨日に自分がこの森を使っていないと伝えたのが悪かったと改めて謝罪してきた。
「あぁ! 貴方は昨日の門番さんね」
確かに彼に確認していたのだから今回の件は彼の所為とも言えるだろう。しかし法をよく調べもしなかった私こそ非があるのだから彼を恨むのは筋違いだ。
(そもそも【賢者】たる者が、よく調べもせずに他人の知識を鵜呑みしたなんて恥ずかしすぎるわ)
場所を家の中に変えて、私とキーン、そしてイーニアスに門番さんの四人でテーブルを囲み、キーンが淹れてくれたお茶を飲みながら話を始めた。
「それで領主様になんと言われたんですか?」
「細かい経緯は省くけど、この土地を買い取れと言う話だったわ」
「なんで突然そんな話になってるんですか……」
どうやら省きすぎたらしい。
もう少し詳しく説明していくと、イーニアスと門番さんが顔をしかめはじめた。
そして土地の代金の話になると、
「高すぎッスよ!」
「そんな金額、ボリ過ぎですよ!」
「私も相場よりは高いと思ってるわよ。でも払えないほどの額かしら?」
霊薬が二本で銀貨三枚とすると、百四十本ほど売ればお釣りが来るのだ。一年ならば二日に一本売れれば十分足りる計算である。
計算を終えて、その結果を静かに告げれば、
「いいですかシャウナさん。
町の門番の給料は月に銀貨二枚しかありません。そして市民相手に商売をしている人もきっとそれほど大きくは変わらない事でしょう」
さらにイーニアスは通貨の換算を語り始める。青銅貨を一として、十枚で銅貨へ、銅貨が十枚で大銅貨へ、大銅貨が十枚で銀貨へ、銀貨が十枚で大銀貨へ、大銀貨が十枚で金貨へ変わるそうだ。
さらに青銅貨と金貨以外には、〝半〟と言うまんま貨幣を半分に切った物があるそうで、それの価値は半分だと言う。
(つまり半銀貨なら大銅貨五枚分と言う事か)
一般的な月給を聞いた私は驚いて叫んだ。
「ええっそんなんじゃ金貨二枚貯めるのに百ヶ月も掛かるじゃないの!?
一年では間に合わないわ」
「そうじゃなくて!」
「あら私の計算が違っていたかしら」
「お嬢様、わたしからご説明いたします。
給金の銀貨二枚からさらに、生活費などが必要ですので実際に残る金額はさらに少ないと思われます。
またその程度の稼ぎである市民が、給金一月分以上の値段である霊薬を購入するとは思えません。そもそも霊薬に頼る様な病気になる事も稀でございましょう」
「確かにそうね……、霊薬が簡単に売れなさそうなのは理解出来たわ。
でも生活費と言うのは何かしら。私が森で暮らしていた時にはそんなものは必要としていなかったはずだわ」
「僭越ながら申し上げます。
森での生活でも、夏から秋にかけて狩猟した獣の毛皮や、鳥の羽根などをわたしが町に持って行き小麦などと交換しておりました。
それらが生活費と言えましょう」
「なるほどね。森を出た私にはもう毛皮や羽根が満足に手に入らないと言う事か」
「今年の分はまだ持っておりますので、春先までの小麦は保障されていると思って頂いても構いません」
季節が秋なのでまだ売る前だったらしい。
小麦があればパンは食べられるのだが、ここは〝魔女の森〟ではないから野草や果実、それに獲物も数が減る事だろう。
「つまりなに、この冬は食卓が寂しくなると言う事?」
「お嬢様……」
「シャウナさん……」
「食卓よりも借金の心配をすべきッスよ」
指摘されて確かにそうだと気づく。
私は頭を抱えながら、
「あぁぁーそうだった!! 借金が返せないと私の貞操が!!」と叫んだ。
※
イーニアスは帰りしなに、
「ブラードさんにも何か出来ないか相談してみるよ!」
と、ドワーフ一家の方にも話をして知恵を貸してくれるように頼んでくれるそうだ。
そして門番さんは、町で雑貨屋を営んでいるおばさんが居るそうで、棚を一つ貸してくれるようにお願いしてくれるそうだ。
つまり、
「まずはダメ元で霊薬を置いてみるのもいいッスね」
棚に置いておけばもしかして売れるかも~という話らしいわ。
私には売る伝手も無いので、その申し出は有難く、是非にとお願いした。
「明日にでも聞いてみるッスよ」
「だったら私も行って自分でお願いするわ」
自ら出向いて礼を尽くすのは当然であろう。
さて二人が帰ると……
私はキーンに脅されて、渋々サイラスを召喚することになりました。
えぇ、もちろん〝私の貞操〟発言の報告の為でございますよ。
そして呼び出してざっと状況を説明したら、「詳しく話せ」と、私の聖獣様は大層お怒りでしてね。
では~と改めて事細かに説明を終えた瞬間に、彼はカタリと席を立った。
「あ、あの?」
「なんだ」
「ど、どこ行くのかな~、なんてね」
「案ずるな、その男爵を軽く殺してくるだけだ」
ちょっとそこまで散歩にと言うような軽い口調なのが逆に怖いよ!!
「だ、ダメでしょ!? あなたは聖獣なのよ! 魔獣みたいなこと言わないで」
「何を言う。人間風情が我の物に手を出したのだから当然の報いであろう」
深い青い瞳がすぅと細められ、口がニィと薄ら笑う。
「待った、いや待って。私もその人間風情だからね?
確かに勝手に約束されたのは私も腹が立ってるんだけど、法と言うのは破ってよい物ではないのよ。だからお願い。ね?」
最後は可愛く小首を傾げながらお願いしてみた。
「約束は一年だったな。仕方がない我も協力してやる。だから必ず返せ」
「うん、もちろんそのつもりだよ!」
「もし返せなかったら、あいつを殺して我も死ぬ」
そこは私を殺して自分もと言うシーンじゃないかなぁ~と、ややずれた聖獣様の思想に首を傾げたのだった。
しかし彼の気持ちは本物であるから、私は素直に有難うとお礼を言った。
「礼は形あるものが良いぞ」
はいはいっと。
私が一瞬だけ爪先立ちして軽く頬にキスすると、サイラスの機嫌はすっかりと良くなったので私はホッと胸を撫で下ろした。
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