第18話 それは同一人物?〈ライム〉
僕、変なこと言っちゃったのかな?!
リリーさんは、どうやら涙もろい人らしい。またもやリリーさんの目に涙が浮かんだ。どうしよう‥‥‥
**
船から落ちた僕は無情にも波間に置き去りにされた。美しい星空の下で。
漂流からイスターン国の小さな有人島に流れ着いて助かった僕。
あれから僕の身柄は現地警察の保護下に置かれ、病院へ。
健康診断を受けつつ、これまでの経緯を話した。
現地の警察官によれば、僕のような人は、僕が初めてと言うわけではないそうだ。やはり海流が味方してくれたようだった。
僕は持っていたパスポートのお陰で、無事自国のブリーム王国に帰ることが出来た。
家族との再会は僕を心からホッとさせた。
僕がいない間に、残された家族たちは協力して頑張っていた。
お母さんは得意のお裁縫で小物を作り、プラヤーマーケットの店に卸して一家の生計を立てていた。
それはプラヤーマーケットの元締めの下に送り出したはずの息子が行方不明の話を聞いた元締めの配慮から始まって、お母さんの作るブリーム風のかわいらしい手芸小物が観光客に好評なおかげだった。
その間に、僕はある民間慈善組織から面会の申し出があり、強制労働していた時の話を是非とも聞かせて欲しいと頼まれた。
彼らの組織はNGOで、代表者はルトーナさんという、40代くらいの女性だった。彼女らは、強制労働させられている人たちを助けるために結成された組織で、情報を欲していた。
地元警察とも
そんな組織があったなんて知らなかった。田舎に住むお母さんも初めて聞いたと言った。知名度は一部でしかないようだった。
それはそうかも。だって、普通の生活してたら、全く関わることなんか無い組織だし。僕だって存在すら知らなかったし。
信憑性の薄い情報に分類されたら警察では記録されないけれど、彼らはどんな情報も記録し、どの船にどんな人が乗せられているのか名前や人相まで記録し、捜索に役立てていると言った。
ならば、僕の証言で、あの船に残された人たちの存在を知らせることが出来る。面と向かって真摯に話すルトーナさんのお話を聞くうちに、僕が抱いていた最初の警戒心は解けた。
僕は全面的に彼らに協力することにした。
そして僕は、エマンシペーターで住み込みで働くことになった。シェアハウスに、僕の個室も用意して貰える。夜には学校に行く生活。
16才。僕はもう、独り立ちの時期を迎えたんだ。他の人より、ちょっと早めに。
実家は僕がいなくても全く問題はなくなっていたし、僕がいることで食いぶちが増えてしまうから、無事を伝えられた今は家を出た方が気兼ねが無くなってちょうどいいっていうのもある。
お給料はやっと僕一人食べて行けるくらいだけど、これは僕の使命とも言える。少しでも僕のような目にあってる人を救出する手助けが出来たら‥‥‥
僕はそこで素敵なお姉さんに出会った。
彼女は、ここでボランティアをしている、僕より3つ年上の大学生で、リリーさんというお姉さん。
すごく熱心に活動に参加していて、街での市民への啓発のためのデモンストレーションの行進や、募金活動にも、しょっちゅう参加してる。彼女の持つ募金箱には、他の人のよりいつもたくさんたまるから、エマンシペーターでは彼女の参加は大歓迎されてる。美人の力ってすごいな‥‥
僕にも優しい。
今日は彼女が勉強を教えてくれることなったのがきっかけで思いがけず仲良くなれた。
僕は今まで黙っていた個人的なことも彼女に話してしまった。
僕がルトーナ所長と出会ってエマンシペーターで働くようになった経緯とか。
まさか、リリーさんは僕の事をルトーナさんの隠し子だって、密かに勘違いしてたのには僕の方がびっくりだったけど。
僕の個人的な思いを彼女に話した。そしたら、僕を一人前と見なしてくれるようになった。『ライムくん』から、『ライムさん』と、呼び方を急に変えられてくすぐったい。
リリーさんみたいな人と二人きりっていうシチュエーションに、ただでさえ僕はどぎまぎしていたっていうのに。彼女に涙を浮かべられてしまって、僕は狼狽してる‥‥‥
**
「あの‥‥‥ごめんなさい、僕。つい、調子に乗って喋り過ぎでしたよね‥‥」
リリーさんが優しくしてくれるからって僕は図々しかったのかも。
「‥‥‥ライムさん‥‥‥今『チャイミ』って?」
「えっ?」
「‥‥‥あなた『チャイミ』って言ったわ!」
「はい、言いましたけど?」
なんだか胸がサワサワする。リリーさんはその名前に心当たりが?
「それってライムさんと一緒の船で働いていた人なのよね? 何歳くらいの人なの? どんな顔立ちなの? 髪と瞳の色は? その人、私と同じくらいの年? 黒髪で瞳は、グレーにグリーンが混じってなかった?」
リリーさんは勢いよくテーブルに身を乗り出したから、椅子が後ろにひっくり返って大きな音を立てた。
矢継ぎ早に質問して来る。その顔は、怖いくらいに僕に迫って来る。
「はい、その通りですけど‥‥‥」
これって、リリーさんは僕が知っているチャイミさんの知り合いの可能性!?
「ちょっと見て欲しいものがあるのッ! ちょっと待ってて!!」
彼女は持って来た自分のバッグに、片手を突っ込みワサワサと探り始め、イライラしたのか、バッグの中身をいきなり床にぶちまけた。
あの‥‥そんなに焦らなくても僕はここにいるけど‥‥‥
「もーッ!!‥‥どうしていつも探すと消えるの謎ッッ!! あ、あったわッ!!」
散らかりの中から、レモン色の小さなパスケースを掴んだ。
「あ、あの。これをよく見て欲しいの。私の横のこの男の子を」
リリーさんに見せられたパスケースには一枚の写真が入っていた。美しいアーチのバラが咲いた庭園をバックに、微笑みを浮かべた若い男女が睦まじく並んでる。
長い黒髪の女の子は、今よりちょっとあどけない顔をしたリリーさん。その横に立つ男の子は────
「えっと‥‥‥髪型も雰囲気は全然違うし、何とも言えないですけど、似てはいると思います‥‥‥」
これ、一枚だけじゃ僕は何とも言えない。
「その人、何か言ってはいなかった? 彼の境遇について。知っていることがあるなら、今すぐ全て教えて!! お願いッ!!」
───必死だ。
彼女も、ここで活動を始めたのには隠された理由があったんだ。ただの社会勉強のためのボランティアで通って来ていた訳じゃなかった。
『チャイミ』という男性を探していたんだ! 多分それはリリーさんの恋人で、今、行方不明になってるってことになる───
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