第8話

「もう。どうしたのですか、あんな場所で顔も合わせずに結婚と叫んで。」

 女王の顔は少し顰めていました。仁王はなぜか顔を見てくれません、女王が覗き込んでも、回り込んでも、サッサッと顔を逸らすのです。女王はもう堪え切れず、がっしりと彼の顔を両手で捕まえ、

「何故逃げるのです!」

と一気に鼻先まで近づきまして、問いかけました。

 そんな女王の行動に、仁王は見る見るうちに顔を真っ赤に火照らせて、口をきゅっと噤んで逃げたそうに震えておりましたそうです。

「まぁ…!熱ですか?」

とまた今度はその距離のまま仁王の額にその細い手をあてがうものですから、もう仁王は耐えきれなくなって振り払ってしまわれ、

「きょ、今日は帰るぞ!また!」

と、仁王は慌てて走って部屋を飛び出してしまいましたのです。

 女王はきょとんとした目でそれを見ておりましたが、全く理解できずに翼が下がっておりました。

「…んんー、Oasisは鈍感だねぇもう…。」

 と、どこから声がして女王の耳元でなにか囁くと、女王もすぐ顔を真っ赤にしてしまったのです。


 次の日、仁王は女王の城に呼ばれました。仁王は昨日の夜からそわそわと落ち着きがなく、ずっと心臓が高鳴っていたそうです。

 呼ばれた部屋に通されると、女王ともう一人、頭に青薔薇を咲かせた女がそこに座って女王と駄弁っていました。

「あ、来た来た。」

「仁、よく来ました。さ、椅子にお座りになって。」

 そう言いますが女王も目線を合わせてくれませんし、なんだかはにかんでいます。仁王も女王の顔を見られませんし、その場にじっと立っていられません。

「…へぇ。やーーーい!!初恋同士ー!!!」

「お母様!!」

 お母様と呼ばれた青薔薇の女は、いきなり立ち上がって大声でそう二人を呼びました。仁王はその言葉が図星であるという反応をする前に、その女が女王の母上であることに驚きを隠せませんでした。なにせそのモノは、女王とは違うなんだか怪しげな不敵な笑みを常に浮かべていて、それでもって目は女王と同じ青い瞳でも氷のように冷たい視線で、翼もなく、真っ青のまるで鍛冶場からやってきたかのような服装でありましたから、どこぞの作業人かと思われたので御座います。それに、言葉使いもあまりにかけ離れておりましたから、まったくそうだと、仁王は思いもしなかったのです。

「お、かあ、さま…?」

「やだなぁそんなカチコチにならないでよー。そうだよ?Oasisを造ったのはこの僕さ。」

「造った?」

「えっと…仁、実は、私のお母様はこの世界の創造主さまで有られます。」

「それに、君の国の神社で祭ってる狐も僕の娘で、こいつの姉だぜ??ケケケ。」

 仁王はその言葉を聞いて、頭が追いつかなかったのだそうです。つまりはあの時勢いで大声で求婚したお相手は、一国の女王であり、自分たちが敬っていた九尾と姉妹で、創造主直結の娘達だったと言う事です。


「まっ、結婚するかどうかは俺しーらね。Oasisがいいよっていやぁ、しても良いんじゃねーのー。ねぇ昨日恥ずかしすぎて尻尾巻いて逃げちまった龍の王様?…なんだいすーぐ顔赤くしちまって。」

 母はじーっと仁王を観察して

「あーそっか。今の今まで女に興味が無かったから、接し方がわかんねぇのか!こりゃ傑作だ!!」

 母は大笑いで、仁王はもう本当にこの方が創造主なのかも疑い始めてしまったので御座います。


 その後、和国の生命の樹に次期龍王の実がなるまで、仁薬師は王として君臨しました。次期龍王の天地の双子が御生まれになり暫くして、仁薬師はその座を代々の王のように嚙り付かず、潔く降りたのだそうです。その後は、また同時期にお生まれになった次期女王、後の異端の革命児とも呼ばれるSakumi Amesthstの礎となる女児とその双子の男児、そしてその数年後にお生まれになる末の男児をEarthの女王の夫として愛を育まれ、将軍としてEarth軍をそのすべてが奪われるまで指揮なさいました。


 その後は語るまでも御座いません。かの幸せなこの国に、ひたひたと静かに忍び寄り牙を磨いている、悲劇の足音には、仁薬師でさえ、最後まで気が付かなかったので御座いますから。




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記憶小話ー龍王と女神 @Artficial380

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