第6話

 後々分かったことですが、噂はただの間違いでした。女王は慈悲深く、戦で誰一人帰ってこなかったのは、殺さず自国へ招き入れているからだと言う事と、その国の民も全て保護しているからだと言いうのが真相でした。

 そして戦のあと、その戦場だった場所のど真ん中で宴をするのが、その国の唯一の楽しみだったそうです。敵味方が打ち解け、自国について自慢しあう、そんな賑わう宴でした。そしてその宴の中で、女王はその土地をどうするのかを決めるのだと、仁王は知りました。

 その宴の間、仁王は誰とも酒も飲みませんでしたし、つまみすら口に入れませんでした。もしかしたら殺されるのではないかという、最早出陣前で決意の消失した不安と、自分の不覚への恥と、もし国へ帰れてもどう民にこの状況を説明したものか思いつかず、酒すら喉を通らなかったからです。

「お隣、宜しくて?」

 宴の端で静かに縮こまっているところに、女王は声を掛けられました。

 仁王はその時何も仰いませんでしたが、そっとまたさらに端に寄って、場所を開けたのです。

「…死は怖いですか。」

「怖いはずがない。なぜそんなことを聞くのだ。」

 そう聞いて、仁王は女王の横顔を見ようとしましたら、女王はこちらを見つめているではありませんか。あまりにもじっと優しい瞳で見つめてきますから、仁王は視線をそらしてしまいました。

「決闘前のあなたの瞳に、微かに死に対する恐怖がありました。なぜ、たった一人で待っていたのですか。」

「…答えん。」

「…それも答えです。しかし民は居るでしょう、止められはしなかったのですか?」

「家臣には猛反発を喰らった。国民には…言わなかった。」

 暫くの沈黙のあと、仁王は口を開きました。

「俺は、どうなるんだ。」

「どうもなりませんよ?」

「………はい?」

 女王がすぐそうお返しになるものですから、仁王は目を丸くしました。その真っ直ぐな表情に嘘をついているとは、到底言えるものでは御座いませんでした。


「今回は戦争をしていませんもの。」


 ガンッと頭を叩き付けられたような衝撃を仁王は感じ取りました。そうです、一騎打ちは行いましたが戦争自体はしていないのです。

「私、貴女に会う前から、凄く落ち着いていられたんです。戦争に行くと言う時は決まって凄く具合悪くなってしまって…。たくさん繰り返しましたが、まだ慣れていないです。」

 クスっと恥ずかしそうに女王は笑いました。

「予感していたんでしょうね、戦争ではないなにかを行うと言う事を、無意識に。だから私も嬉しいんです。『今回は誰も、殺されなかったから』。」

「争いは、嫌いか。」

 やっと心が落ち着いてきて、目を見て話せるようになって顔を見ると、それはまだ大人にも成り切っていない自分の国にもいそうな顔立ちの可愛らしい少女の顔でした。

「えぇ、大っ嫌いです。早くこの時期が過ぎ去れば清々するんですけど。」

 こんなたわいもない話を、兵士たちが騒いでいるその端で、女王と龍王は静かに語り合っていました。

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