第5話

 構えていると、目の前の軍が続々と座っていくのを見て、仁王はさらに固く身構えました。人と人の隙間から地面に置かれる武器の中に、銃がいくつも見えたのです。

「(気を抜いたら撃ち抜かれる…!)」

 彼は一人、その緊張の中目をかっぴらいて睨みつけていたのでございます。

 自分の目の前に敵国の王が現れた途端、仁王は自分の目を疑いました。

 その王は、豊かな胸を持ち、とても柔らかそうな体の…透き通るほど白い肌にそれを際立たせるほど真っ黒な、同じくらいの長さの髪を三つ編み一つに束ねた、ふわりと雲のような真っ白な翼を大きく広げた、それはそれは大層美しい少女が、白馬に跨って目の前に歩いてきたので御座いますから。

「お…おぉ…女っ…だとっ…!!」

 仁王はずっと、一体どれほどの男だろうと決めつけていたものですから、その真実を知った途端、腰が抜けそうになりました。その時はどこから出たのか分からないひょうきんな声を絞り出すのが精一杯でした。

「…如何にも。私がこの軍を引き連れ統べる女王です。」

 女王は白馬からふわりと降り、歩み寄りました。仁王はその姿に驚き、思わず構えていた大太刀の力を緩め、刀先を地面に向けてしまったそうです。その女王も大太刀を背負っていましたが、仁王が背が高いのもあり、女王の体は大太刀に釣り合わないほど、とても小さく見えました。

「一騎討ちといたしましょう。この場で決闘を、勇ましい龍王に申し込みます。」

 この決闘は途中までは接戦だったと伝えられております。仁王の立派な体格と力強い斬り込みにも引けを取らない、女王の舞は、だんだんと押していきます。仁王の刀筋は、自己流で振り回したいように振り回して、相手が手を下す前に切り捨てていたものですから、押されたときの押し返し方の術を持っておりませんでした。そうこうしているうちに女王の猛攻にどんどんと押されてゆきます。ついには大太刀を横に寝かせ、縦に弾き、防御だけで手いっぱいになるまでに攻められてしまいました。それもそのはず、女王の振りはその細い腕から繰り出されているとは思えない程素早く不規則でしたから、大振りな仁王の刀は追いつかなかったのです。

「(こんな…こんなことがあるのか…!!あれほど自信満々に宣言した俺が恥ずかしい…!)」

「…っ隙あり!!」

 その時、刀を弾き飛ばされてしまった仁王の正面は鎧が有ったとはいえ、とても無防備でした。

「……!!!」

「『菊一文字、雲斬り』」

 決闘の最後は、女王のその技で締めくくられたので御座います。振り払われた仁王の大太刀が二人の遠く横に突き刺さり、しりもちをついてしまった仁王の首には女王の刀先が突き立てられていました。後ろの人々は歓声を上げ、女王の勝利を喜びましたが、女王自身は無言で敗北したそのモノの顔を、暫くの間見つめていました。

「さっさと、殺すなら殺せっ。辱めか?それとも女王はお疲れか?」

 彼の闘志はまだ煮えたぎっておりました、隙でもあれば武器を奪い取らん勢いです。女王はそれでもじっと見つめてきます。今このまま動けないのは、先程まで小さく見えていた女王が、今では自分よりも大きく見えて仕方がないからでございます。

 ふぅ、と女王は息をつき、そのまま殺しもせずに刀を鞘に納めてしまったのです。そして

「貴方、お歳はいくつ?」

と自らしゃがんで真正面から微笑まれたそうです。仁王は頭が真っ白になりすぐには声さえ出なかったそうで、顔を少し赤く染めて、そのしりもちの体制のまま固まっておりました。

「戦いも終わったことですし、少し、お話しませんか?」


「話すことなんて何もない…はずなのだが。」


 そう話していると、こそこそと後ろの軍隊がばらけていきます。なんだか嬉しそうに、布を広げ樽やら木箱を運んでいます。

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