第4話
軍はまっすぐ進みます。人間の兵隊の列の中央には、白馬に乗って進む、白い翼を背負った美しい装飾で着飾る黒髪の王が一つ。
争いが嫌いなその王の心は、いつもは緊張で張り詰め、息苦しく耐えがたいほど苦しいのに、今日は妙に落ち着いていました。戦前の緊張はどこかにふらりと何も言わずに出かけて行ったかのように、とても心地いい安らぎを感じていました。王は、緊張感が足りないのだと、頬を自分でペしぺしと叩き、気を引き締めました。
暫くすると前の軍から連絡が届きました。歩みも前から順に止まり、なんだか様子がおかしいのでございます。
「何事ですか?」
「…は、はい王、申し上げます。第一軍、草原の中央に此方を見つめて立つ龍人を視認!相手は仁王立ちで立ちはだかる様に目の前に立っております。」
「はい?……一人ですか。」
「見る限り一人で御座います。」
「私も見に行きます。いつでも動けるように整列させておきなさい。」
「何者だ!名を名乗るがいい!」
軍の一番前に居る隊長らしきモノが、男に向かってそう申し立てます。
「…我は和国の龍王!民からは仁と呼ばれている男だ!領地を賭け、いざ正々堂々!」
仁王はそう叫び、大太刀を引き抜き構えました。その目は今にも天を覆い駆け巡る大蛇の龍に変身するかのような恐ろしい形相だったのだそうです。
ー「これはわが軍に対する侮辱だ!失礼な、一人で勝てると思っているのか!」
ー「どうせ伏兵が潜んでいる。警戒を怠るな!」
人間共はギャアギャアと騒ぎ立てました。これは仁王にとってどれだけ耳障りだったか、想像もできません。それでも、数十万の軍を目の前に一人、刀を構えて立っていなければいけないのです。今更この軍勢の威圧に押され押され、後ずさりしてはならないのです。
「あの方ですか。」
「はい。龍王と、確かにそう名乗りました。」
王はその男をじっと見つめました。鎧に包んだ戦男。見ているうちに王はだんだん悲しい気持ちになりました。
王は軍の一番前に歩き出て、振り返りました。
「全軍に命令する!全員武器を地面に置き、一切触れず、私が良いというまで、座って待機するがいい!」
軍はざわつきました。講義を申し立てようとするモノも居ましたが、如何せん人間たちはいつも、王の顔を見ると大人しく従うようになるので、皆静かにその場に座り込みました。
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