第3話

 さぁ明日にはいよいよ運命の時。

 その前夜、仁王は家臣たちにありったけの食事を用意させ、国全体で宴をしました。

「今宵は盛大に騒げ!家臣も国民も隔てなく肩を組め!」

 のちの和国の毎晩の祭りの発祥はこの時の盛大な宴で御座います。仁王の最後の別れ…いいえ、出陣を送り出す宴が後の出来事により行事化したもので、後に平和を願う行事になります。

 仁王は、家臣も国民も混ざった輪の中に入り、その時だけは王の威厳も座も忘れて、まるで子供に戻ったかのように無邪気な笑顔で一緒に騒いだそうです。大人の大騒ぎに子供たちも家から出てきたので、仁はめんこやコマで手を叩いて対決したり、チャンバラでわざと負けたり、相撲で暖かい土の上を子供とゴロゴロ大笑いしながら絡みあったりと、もう長い艶やかな黒髪もわざと着てきた民の服もぐしゃぐしゃに、真茶色の泥だらけになるほど遊び惚けました。

 それでも所々の国民は気が付いていました。王の顔色が優れないことに。それでもあんなに声を張り、明るく振る舞い今だけでも我々にこの先のことをを忘れさせようとしている王に、国民達は皆、盃に並々と注がれた酒の中に一粒の涙を密かに零したのだそうです。


 その宴が終わり、寝静まった早朝。

 仁王は、数人の家臣に見送られて静かに国を飛び出しました。門を開いた門番は、王が大層お気に入りの大太刀だけを武器に携え、兜をかぶってただ一人、門を抜けた瞬間振り返らず走り出したと、後世に伝えています。


 何もない草原。

 記憶世界の国と国の間は海ではなく、ただ真っ青な草原が広がっていることはご存じかと思います。その中央で、彼は仁王立ちで、その相手をじっと待っていました。


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