第8話 娘さん

 こういう人もいたわ。それは、おじいさんを亡くした娘さん。彼女は、仙台暮らしだったから、地震には遭ったけれど、無事で。ただ、おじいさんが津波でなくなったのね。彼女はおじいちゃん子だったのよ。

 叔父さんと一緒に探しつづけても、遺体は見つからず、わかったのは、おじいさんが津波直後に車で避難したということまで。ずいぶん後になって、壊れた車だけが見つかったそうよ。

 そして、震災から一年が経って葬儀が行われて、彼女は、葬儀が終わった後も、市の遺体情報を確認したり、休暇の度に石巻に戻って手がかりを探したんだって。

 家族は、もう捜すのはやめたら、と言ったの。震災に引きずられないで、自分の人生を生きてもらいたかったからでしょうね。でも、彼女は聞く耳を持たなかったわけ。

 二年半が経ったある日、彼女は、イタコの話を聞いたの。亡くなった人の魂を下ろしてくれるって。イタコからでもいいから、おじいさんと話がしたいと思ったのね。

 私が、おじいさんの魂を下ろしたわ。

「もう俺のことは探し回らなくていいぞ。俺はいま大好きな海で静かに眠っているんだ。俺のことは心配しないで楽しい人生を送ってくれ」

 そこで、彼女は思ったんだって、

「ああ、おじいちゃんが、そう言ってくれるんだから、そうしよう」

って。

 こういう形で解決するのが良いのよね。亡くした人を探し続けて、どうしようもないところまで行ったら、死んだ人の声で、

「探さなくて良いんだ。幸せにくらせよ」

って言うのを聞けば、納得いくんじゃないかな。

 その後、彼女は、同じく震災で親族を亡くした男性と知り合いになって、結婚したの。相手の人は、いい人で、おじいさんのお墓参りも一緒にしてくれるそうよ。


 

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