第5話 同業者

 赤門さんによると、この大震災で動こうとした人間には、二種類あるそうで、その一つは、ボランティアのグループで、もう一つは、あの被災者の集団と被災家屋が宝の山に見えた集団だそうです。

 いやはや、まあ、人間が考えるんだから同じなわけだけど、被災者が食い物に見えた連中もいたのね。こちらも、あまり大きなことは言えないんだけど。

 宝の山に見えた集団も二つに分かれており、赤門さんは、それを硬派と軟派と名付けていました。

 硬派とは、先に述べたように簡単に言うと、泥棒です。軟派というのが、私たちがやっていることで、その中には、催眠商法やら押し売りやら、色々とありますが、基本は、人の弱みにつけいることです。

 言わせてもらえば、亡くなった人が成仏できるようにするという新興宗教の勧誘ぐらいならいいけど、「この壺を祀ってください。そうすれば、死んだ者の魂が慰められます」と言って高価な壺などを売るのはどういうものかしら。

 そいう人たちは、最初から、壺などを持ってこない。ボランティアのふりをして、最低でも一週間は、その避難所に泊まり込むの。

 そうして、どの被災者が、誰を亡くしたかという情報をつかむと、その人の側に座って、「大変でしたね」とか「お悔やみします」とか、言うだけでいい。

 そう言われた被災者は、自分の悲しみをわかってくれる人がいたと喜んで、徐々に話し出して、止まらなくなるわ。

 翌日は、いなくなるので、どうしたのかなと思っていると、実は、他の避難所を回っていただけなんだけど、

 その翌日、その人を見つけると、

「どうしました」

とつい、声をかけてしまう。

 そうなれば、あとは、簡単、たまたま持っていたように見せかけた壺を

「霊験あらたかなものですが、ご供養のために差し上げます」

と差し上げようとする。その壺が、高価だなんては、誰も言っていない。

「いえ、そんな高価なものは、いただけません」

となって、そのうちに、被災者は、いつの間にか買い取っていたということになるわけ。こんなふうにして、四~五か所の避難所を回ると、結構いい金になったようよ。

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