第4話 五歳の子供

 でも亡くなったのが、五歳くらいの子どもだと、口寄せはなかなか難しい。だって、そうでしょう。小学生なら、それなりに言うことは言うけれど、五歳ではね~。

「遠いとこ、よう来た」

「先に逝ってしまって申し訳ない」

なんて、言えないじゃない。そういうときは、

「ごめんなさい、お父さん、お母さん」

って言うことにしたの。それで十分なのよ。その声を聞いただけで、親は、子どもはやはり、あの世に逝ったんだって納得するのよ。

 一番、悲惨だったのは、自分の奥さんと息子夫婦と孫の全員をなくしたおじいちゃん。さすがに、お悔やみも言えなかった。そのおじいちゃんを、別な人が慰めていたけれど、その人も身内を亡くしていた。

そういう人からも、口寄せをしてくれと頼まれたの。何て言っていいかわからない。

「ごめんなさい。ごめんなさい」

って、繰り返すのが、やっと。後は、涙、涙で。

 いやしんどい、しんどい。こんなことを長くやっていたら、こちらの神経が持たないわってくらい。

 帰り際、おじいちゃんが、

「あんたも体に気をつけてな」

って言って、五千円札を握らせてくれたのが、嬉しかった。もう少し、おろしてあげられたら良かった。 

 口寄せは、亡くなってから、ある程度時間がたって、遺族もその死を受け入れられている時に、するのが一番、いいと思う。イタコも依頼したほうも、どちらもハッピーになるから。

 遺体の見つからない家族というのも大変ね。遺体が見つかっていないのに、自分の手で死亡届を出さなければならないんだから。骨壷に遺骨を納められないので、代わりに服やメガネといった遺品を、入れるしかない。まあ、遺品があればの話しだけどね。

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