第4話 冷たい

「ねぇねぇ、ゆーくん!遊園地とかどう?」

古田さんが自分のスマホで遊園地の画像を見せてくる。

そう。僕たちに遅刻が確定したのを理由に、昼休み終わりに学校を抜け出し、絶賛サボり中なのである。

そして今は『ボボール』というコーヒー店でくつろぎながらどこへ行こうかと作戦を立てているのだ。

「まあ、遊園地でいいんじゃないかな、」

「むぅ、なんかテキトーじゃない? 男の子なら女の子とここ行きたいとか普通あるんじゃないのかな? 逆に不健全でゆーくんが心配だよ!」

酷い言われようだな。そもそも出かける場所なんかどこでもいいんだよ。そもそも、僕はサボりつもりじゃなかったんだ!

「え、ゆーくんなんか不機嫌そう、、」

おっと、顔に出てしまっていたか。ここは笑顔を精一杯作って答えるか。

「遊園地に行きたいな。すーっごい遊園地の気分になってきたよ!」

「そ、そう? それなら良かった」

若干、古田さんが引いてるように見えたが、まぁいいだろう。

そして僕たちは遊園地へと向かうことになった。

電車に乗って1時間ほどで遊園地へと到着した。ここの遊園地はアトラクション数が多くて、地元だけでなく県外からも来るほどの人気の遊園地だ。

そして、この遊園地に女性で美人の古田さんと二人で来るなんて、さながらデートみたいだなとちょっとキモいことを考えていたら古田さんが話してきた。

「ねぇねぇ、チュロス買っていい? ちょっと甘いもの欲しくなっちゃって」と可愛く笑顔で言うので、屋台風のチュロスが売っている場所に行列に並ぶことになった。

平日でもチュロスぐらいで並ぶことになるとはな…。さすが人気遊園地だ。

「なんかこうして並んでるとカップルみたいだねー」と古田さんが笑いながら言ってきた。

僕は心の乱れを隠して「そうだねー」と相槌を打つ。

「あー照れてるのに、無理してる。おもしろ!」と、古田さんに馬鹿にされる始末だ。

こういうことを平気で言ってくる古田さんには少々困る。

20分ほど並んでチュロスを買えた。古田さんはご満悦まんえつのようで、「さあ、アトラクションに乗るぞぉー!!」とこれからめちゃくちゃ楽しむのが確定した。

そして僕らは様々なアトラクションに乗っていった。平日なので休日に比べて待ち時間が少なめに済んだため。けっこうな数に乗れた。

しかし、僕はまだ乗っていないジェットコースターに乗りたかったので誘うことにした。

「古田さん、ジェットコースター乗ろうよ?」

すると古田さんは急に魂が抜けたような顔で「……」と無言になった。

「あれ?聞こえてない? 古田さん、ジェットコースター乗りたいんだけど、、」

「ごめん。私、絶叫系苦手なの…」

どうやら僕は彼女の弱みを握れたらしい。ふふふ、さっきまで散々からかってくれたからな。この恨みどうしてくれようか。

「そうなんだ、、、僕ね絶叫系のアトラクション大好きで、すごく楽しみにしてたんだ。でも、苦手なら仕方ないよね」と悲しそうな顔をしてうつむいてるフリをした。

こんな悲しそうな顔で残念がっていって。君はジェットコースターに乗らずにいられるのかい?

どうだい!古田さんよぉ!

「わかった…。1回乗ってみる。もしかしたら克服してるかもしれないし」と、僕は彼女をジェットコースターに乗せるように仕向けることに成功した。

古田さんと一緒にジェットコースターの列に並んだ。

僕は内心ニヤニヤしていた。なぜならば、古田さんは並んでいるだけのにすでに半泣き状態になっていて。乗ってしまえば一体どういう顔するのかワクワクが止まらなくなっているからだ。

「ねぇ、1時間待ちだしやっぱり他のアトラクションにしない?」と古田さんは震えながら言う。僕はそれでも「いや、これ乗らないと帰りたくないから」と強気に否定する。

ここまで来て、引き返すわけがないだろう。

それからようやく僕らの順番が来た。

順番が近くなるに比例して、古田さんの顔が青白くなっていくのはとても面白かった。

僕らはジェットコースターに乗り込む。

するとガタガタガタとジェットコースターが揺れている。

「すごい!乗る前から揺れてスリル満点だね。古田さん!」と彼女を向くと、とても人間が出せる振動ではないほど震えていた。ジェットコースターの揺れではなく、古田さんの揺れであった。

「今から3、2、1で発進しますよ!!いいですかぁ?」とスタッフさんが元気なアナウンスをしてくれた。

すると古田さんが急に「やっぱりいやぁぁぁぁぁぁぁ!!」と絶叫する。

その声に他のお客さんたちが、「なに、あの子ここまで来て急に拒否るとかださい」、「怖いなら最初から乗らなきゃいいのに」と冷ややかな言葉と視線を古田さんに向けていたのだ。

僕は「大丈夫! 安全バーも頑丈だし、どうしてもきつかったら目を瞑っていれば乗り越えられるよ」と優しい言葉をかけた。どうにか、しぶしぶ、彼女は乗ることを決めてくれた。

そして、スタッフさんの合図がくる。

「3!…2!…1!」

「やっぱりいやああああああ」とスタッフさんの「0!」がかき消されるぐらいの古田さんの絶叫虚しくジェットコースターは一気に上へと加速した。

そして、1番上に着いたジェットコースターは少し止まっていた。ここから一気に下っていくのだろう。

まだ下る前だというのに、古田さんの顔は真っ白で涙を流していた。か細い声で「こわいよぉ、、、」と怯えていた。

ふふふ、今まで散々僕をからかった罰だ。これから一気に下っていくぜ!

ゴォォォ!という音を立て、ジェットコースターは一気に下っていった。

「わああああああ!」という楽しそうな声と「ぐわああああああぎゃああああ!!助けて神様ぁぁ!!」というデスボイスのような古田さんの絶叫が辺り一帯いったいにこだましていた。


「いやぁ、めっちゃ楽しかったね!古田さん」

「これが、たのしい? 同じ人間じゃないわ。あなたは!」

と、古田さんは半狂乱はんきょうらん状態になっていた。

「でも、ゆーくんがニコニコ楽しそうにしてるのは頑張った甲斐かいがあったかも」と優しいことを言ってくれた。

や、優しい。ちょっと悪いことしちゃったなと僕は反省した。

ふと、スマホの時間を見て気付いた

「あ、そろそろ閉園時間近いかも、次のアトラクションが最後かも。何に乗りたい?」

古田さんは少し考えて「観覧車にしようかな」と言った。

「え、古田さん観覧車って、高いところ苦手なんじゃないの?」

すると古田さんはニヤリと自信満々に言う。

「怖くなければ高いところは大丈夫なのだ! そうじゃないと屋上すら行かないじゃん! さあ、行くよー」

ノリノリで観覧車乗り場まで連れて行かれた。スタッフさんが「これで最終でーす」と言っていたのでギリギリ間に合ってよかった。

僕らは観覧車に乗り込んだ。ガタっと軽く揺れた後、ゆーっくりと上っていった。

一番高いところまで着くと窓には綺麗な夜景が広がっていた。

「ゆーくん、ありがとう。久しぶりにすごーい楽しかった!」

古田さんがぎゅっとしながら言ってくる。

まーたこの子は抱きしめきやがって。さすがに言ってやる。

「いえいえ!僕も楽しかったよ。でも古田さん、男に簡単にぎゅっとするのはやめた方がいいと思うよ」

すると古田さんがニヤっとして「でも、誰にでもするわけじゃないよ?」

え、それは、、どういう。まあ、友達には距離が近いのか? 

僕がドギマギしていると古田さんは顔を赤らめてこう続ける

「あと呼び方さ、莉奈りなって呼んでほしいな…なーんて」 

えぇぇ、ファーストネーム呼び強制ですか。しかもそんな女の子っぽい表情されるとこっちが勘違いしそうなんだが。

僕はさすがに言葉にしてしまった

「莉奈って呼ぶのはわかったけど、そんな顔赤らめて言われたらこっちが勘違いしそうだから、やっぱり抱きしめるのはだめだ!」

すると、急に古田さんがそっぽを向いて言い出す。

「あながち勘違いじゃないかもね、」

「えー! 莉奈ちゃん、からかわないでよ」

「あ、莉奈って呼んでくれたね」と莉奈ちゃんはニコニコしている。

え、てかそういうこと? そういうことなのか。

やっぱり気になるから聞いちゃえ!!

「勘違いじゃないかもってどういうこと?」

すると顔を赤くしながら「さぁ? もうこの話は終わりでーす」と、はぐらかされてしまった。


そうこうしてる間に、観覧車は乗り場まで居りていった。


僕らは遊園地を出て、電車に乗り、自分たちの最寄りの駅に着いた。

「それじゃここで解散しようか」と莉奈ちゃんが言い出す。

「え、でも女の子一人で夜道は危なくない?」

「ゆーくん、ちゃんと紳士だな」と莉奈ちゃんが笑いだした。さらに莉奈ちゃんが続ける。

「わかった。じゃあ、家まで送っていってもらおうかなっ」

「うん!そっちの方が安心だ」

そして僕たちは莉奈ちゃんの家を目指して歩いていった。

かと言っても莉奈ちゃんの家を知らないので送っていくというよりもついて行くと言った方が正しいだろう。もはや僕が送られているようなものだ。

しかし、ほとんど人気ひとけのない道なので送って正解だと思った。この夜道に女の子が一人は危険だ。

すると莉奈ちゃんが口を開く

「帰り道が誰かと一緒ってなんだか嬉しい。寂しくないもんね」と笑顔の中に少し寂し気な表情をしていた。

そうだった。彼女は屋上で見知らぬ僕に話しかけて弁当を一緒に食べようとしたぐらいには寂しい思いをしていたんだな。僕も、そういう孤独感や疎外そがい感はとてもわかる。僕はそれが最大まで到達して人を信じられなくなって、人と関わろうとしなくなった。どうせ関わった分だけ傷付いていくのだから。

しかし、僕は思いもよらないことを口にした。

「莉奈ちゃんが寂しいと感じないようにこれからも一緒にいるし大丈夫だよ」

こんなことを言ったら絶対に裏切れないじゃないか。でも、この彼女を一人にさせたくないという気持ちはなんなのだろう。

彼女の寂しさに共感できるからか? それとも自分が寂しいから彼女に一緒にいてくれるのを期待して出た言葉なのか僕にはわからなかった。

「ありがとう。ゆーくんは優しいね。私も一緒にいるね」と莉奈ちゃんが笑顔で右目に涙を一筋流しながら僕の手を握った。

僕はこれでいいと思った。莉奈ちゃんは今までの人と違って裏切ったりする冷たい人間とは違うのだと、彼女の手の温かさが証明してくれているように感じた。

僕にとっても彼女が必要になったような気がした。

僕らはいつの間にか手を繋いで、残りの家までの道を歩いた。

「よし、私の家に着いたよ!」と、莉奈ちゃんは玄関前で立ち止まった。すっかり元気な調子だ。

「ゆーくん、ほんとにありがとうね! なんでかずっと手繋いでたけどね。ふふ」

そんなことを言われると急に恥ずかしくなり手を離した。

「そっちが握ってきたから仕方なくだよ」と僕は悪態をついた。

「えー」と莉奈ちゃんは残念そうな顔で僕を見つめてきて、さらに続ける。

「でもすごく嬉しかったのになー。…あ、ちょっと待ってて!」

莉奈ちゃんはドアの鍵を開けて家の中に入っていった。

しばらくすると戻ってきて、「はい!これお礼!」と頬に物を当ててきた

つめた!」

アイスキャンディーのシャリシャリ君だ。

莉奈ちゃんはニヤリとしながら話し出す。

「今日は暑い中、バタバタしてたからね。熱中症ならないように食べてね!」

たしかに暑かったからこれは有り難い。

莉奈ちゃんはさらに続ける。

「本当に今日はありがとう。また一緒にどっか出掛けようね!」

「うん!僕も久しぶりに楽しかった。次は僕の行きたいところに行こうね」

「ふふ!今日は私の行きたいところだったもんね! おっけー。じゃあ次はゆーくんの好きなところ付いて行くね」

好きなところか、、、考えておかなくちゃな。

僕は手を振りながら「じゃあ、また明日!」と伝えた。

すると莉奈ちゃんは手を振りながら満面の笑みで「また明日ー!お弁当も作って行くからね!」と言い、玄関のドアを閉めた。


僕は彼女に貰ったアイスキャンディーを頬張りながら、自宅へと歩いて帰っていった

アイスキャンディーの冷たさが心地良い夏の夜だった。


翌日の朝。僕は思ったよりも早く目が覚めた。

こんなことは初めてだ。きっと莉奈ちゃんがいると思うと、今まではとても億劫おっくうだった学校すらも行きたい気持ちが出てきたのだと感じた。いじめは解決していないが、それでも行きたいと思えるほど彼女の存在が光になっているのだ。

もしかしたら、早めに学校に行けば莉奈ちゃんにばったり出会ったりするのかもしれない。


僕はいつもよりも30分も早くも家を出て学校に向かった。

するとなにやら、とてつもないオーラを放っている人物がいた。

白いサラサラの髪に綺麗な青い瞳をしている男性だ。年齢は20代くらい。ぞくに言う、イケメンというやつだ。その出で立ちから海外の人だと思う。ここまでのイケメンは僕は今まで知らないくらいだ。

そのイケメンが僕が見つめているのに気付いたのか、ウィンクをしてきた。そして男は僕に話し出す。

「君は、へぇそうなのか。可哀想に。今日はとても悲しい日になるみたいだね。じゃあね」

とても悲しい日だって? 僕は莉奈ちゃんと仲良くなれてハッピーなのに、変なことを言う人だな。

でも、気になる。とても悲しい日になると言われたらなんでか聞かなきゃ

「あの、、」と話しかけようとしたときにはあのイケメンは消えたのだ。

今、目の前に立っていたのに。一瞬で消えたのだ。

朝早く起きたせいで寝ぼけていたのかな。なんだか見てはいけないものを見てしまった気分になった。


僕は学校に着いてからも、あのイケメンの「とても悲しい日になる」という言葉が頭から離れなかった。いつものように森内たちに殴られても、そのことばかりを考えていた。

そうこうしてるうちに、昼休みになった。

こんなこと考えていても仕方がないな。莉奈ちゃんに会いに屋上に行こう。

僕は森内たちの監視から抜け出していつものように、屋上を目指していた。すると「ドォォォン!!」という凄い音が聴こえた。

雷でも落ちたような、なにか大きいものが落ちたような音だ。

なんだろうと思いつつも、僕は屋上に向かう足を止めずに進んでいた。屋上に着いたが、まだ莉奈ちゃんは来ていないようだな。

20分ぐらい待っても莉奈ちゃんは来なかった。

おかしいな。もしかして今日は休みとかかな?

すると急に「ピーポー!ピーポー!」と救急車の音が聴こえ、それがどんどんと学校に近づいてくるのだ。

そして救急車は学校の中に入り救急隊員たちがそそくさと走っていた。

何事だ?と思い。僕はグラウンドの方を見てみると生徒が一人倒れているように見えた。赤い。かなり血を流しているようだ。

あのイケメンの言葉がフラッシュバックする

「今日はとても悲しい日になる」と、、、。

まさか! きっと大丈夫という気持ちと不安な気持ちが入り混じりながら、屋上からグラウンドへの階段を降りて行った。

グラウンドに出て、その倒れている生徒の顔が確認できた。

「莉奈ちゃん!!!」

僕は涙を流しながら野次馬を避けていき莉奈ちゃんに駆け寄り身体触れ抱きしめる。

嫌だ。せっかく出会えたのに。死なないで。

「莉奈ちゃん、起きて!起きてよ!!」と再び強く抱きしめるが、もう人の温もりを感じなかった。もう亡くなってしまったのか。

悲しさと絶望が入り混じり錯乱さくらん状態になった。なにがなんだかわからなくなった。

しかし、このときの夏の暑さにそぐわないように彼女の身体がどんどん冷たくなる感覚だけが僕の心に深く刻み込まれた。



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