第3話 温もり

「さっそく来てみたら、なんでゆーくんがボロボロになってるの!?」

彼女が心配そうに見つめてくる。

そう。彼女こと古田ふるた莉奈りなと昨日出会い、お昼ご飯を一緒に食べるという謎の契約を僕は結んでしまったんだ。

「ねぇ、アザもできてるし血も出てるじゃん、、大丈夫?…ではないか。保健室行く?」

古田さんは僕を保健室に誘うが、僕は「いや、大丈夫だから」と断る。

 本当は湿布や絆創膏ぐらいは欲しいが、保健室にでも行ってしまったらに見つかってしまう。俺はあいつ…森内もりうち孝宏たかひろにいじめられてる。今日はボコボコに殴られながらもなんとか逃げてきたのだ。森内には屋上の存在はバレていないのだが、今必死に探しているはずだ。

「そうか、ゆーくんが死にたかった理由っていじめられてるからか」

と、古田さんは納得したような表情で何故か僕の頭を撫でてきた。

「なんで頭撫でてくるんですか、やめてください」

「普通に心配してるからなんでけど、もしかして照れてるの?」

「照れるとかの問題じゃなくてペットとかじゃないんですから撫でないでください」

「ペットか〜 なるほどね。たしかにゆーくん捨てられた子犬みたいな感じだよね!」

古田さんはとても笑っていた。この人は俺をからかって楽しんでいるんだろう。

ずっと撫でられてるのもしゃくなので、離れる。

すると古田さんは真剣な顔をしてまた口を開く。

「でも、心配なのは本当だよ? こんなに殴られてゆーくんは死にたいと思ってるぐらいだからさ。他にもいろいろと悪いことされてるんでしょ?」

なんだか、自分が情けない思った。いじめられて、昨日出会っただけの女の子に心配されるとは、本当に情けない。

 しかし、いじめだけで死にたいとは思わない。もちろん一因いちいんではあるけれど、僕には夢も希望も自分の得意なこともなく、頼れる人どころか、害をなす人ばかりに囲まれて。ただただつらい時間が毎日やってくる。僕は人間に社会が嫌いでその中でなにもできない僕自身にも絶望している。もう生きてたってしょうがないんだ。

「泣かないで、、私が傍にいるから。私だけは味方だから」

泣いてる? どういうことだよ、

「僕は涙なんて流してないけど」

すると古田さんはそっと僕を優しく抱きしめる。

「ゆーくん、違うよ。心が感情が泣いてるんだよ。涙を見せることもできなくなるほど辛かったんだよね」

僕は、涙が溢れて止まらなくなってしまった。

人の優しさに初めて触れた。古田さんは泣いてる僕になにも言わずにずっと優しく抱きしめてくれた。


きっとこのときの温もりを忘れることはないだろう。


しばらくして僕も落ち着いてきて、しかし、あんなに泣いてるのを見られた恥ずかしさから、そわそわしてしまう。

それを見た古田さんは笑顔で口を開く

「なに恥ずかしがってんの! こっちも恥ずかしいわ!」

と、少し顔赤らめていらっしゃる。するとカバンを漁りだした。そしてを取り出した。

「とりあえずお弁当食べようよ! 早く食べないと時間ないよ? せっかく君のために初めて作ったお弁当なんだからさ」

そう。お弁当を一緒に食べる契約を結んでしまったのだ。

「今日はけっこう頑張って作ったよ!見て見て」と、古田さんは自信満々にお弁当のフタを開けて中身を見せてくる。

中にはおにぎりと唐揚げ、卵焼き、ハンバーグ、ポテトサラダ、豚の生姜焼き、ちくわの磯辺揚げなどなどと昨日よりも明らかに量が多い。だからお弁当箱も大きかったのだ。

「ゆーくん、あんま食べてなさそうだからいっぱい作ってきた。早く食べてねー」

「「いただきます!」」と二人同時に手を合わせ、早速いただいた。

本当に美味しいお弁当だ。味はもちろんだが、人と一緒に食べるのってこんなに美味しいんだな。

しみじみ感慨かんがい深くなっていると、古田さんがとても嬉しいそうな顔で言い出す。

「ありがとうね。いつも一人だったから誰か食べれてほんとに嬉しいの。私が無理矢理誘ったような感じだったけど、ゆーくんも嬉しそうだから良かったなって、、」

僕も感謝をしなければと言葉にする。

「お弁当ありがとう。もう嫌とかじゃないから」

「えー!ちょっと。最初は嫌だったってこと!?」

と、古田さんはいじわるな笑みを浮かべてからかってくる。

最初ただただ自分の居場所奪いにくるやからだと思っていたからね

「最初はそりゃ嫌だよ。まあでも悪い人じゃなそうだしいいかなーって」

「ゆーくんツンデレか、ふふ」

などと話していると屋上の入口辺りから階段を上る足音が聴こえる。屋上の入口はプレハブのような作りになっておりドアを開けると中は下へ続く階段があるのだ。

古田さんも「他にも誰か来たみたいだね。屋上の友達が増えるね」などと少しワクワクしている。

しかし、その来訪者の声が階段を上ってくる音と共に聞こえてくる。

「くそ!雨宮あまみや、まじでどこ行きやがった」

嫌なほど脳みそにこびり付いているあの声は、、、

俺をいじめている森内もりうち孝宏たかひろだ。

森内の話し声はまだ続く。

「あと学校の中で行ってないのはこの辺だけしかないからな。関口せきぐち、ほんとに屋上なんて開いてるのかよ?」

取り巻きの関口も一緒のようだ。関口は続ける。

「ほんとですよ!俺の部活の先輩が特別に教えてくれたんですよ!」

まずい、、屋上にいることがバレてしまう。

僕はなるべく音を立てずに走って入口の裏に回り込んだ。そして森内達の様子を伺う

「関口、ビンゴだ。カギがかかってない」森内の嬉しそうな声と、「ガチャ、」とドアを開ける音がした。


「ちっ!、くそ雨宮はいなさそうだな」

「森内さん、あのに雨宮のこと聞いてみたらどうですか?」

うわ、まずい。古田さんが僕のことをバラしたら、森内からもう逃げられなくなる、、。

森内が古田さんに話しかける。

「そこの君さ、雨宮優っていう男子生徒知らないか? 俺たちさ彼と遊びたくて探してるんだけど?」

古田さんはきょとんとした顔をして「雨宮くん? ちょっと知らないですね。屋上に来るのも私だけですし、、」と嘘を付いてくれた。

「へーそれほんと? もし嘘付いてたら許さないけど? 本当のこと言うなら別になにもしないし」

と森内は圧をかけてくる。

「ほんとですって。知らない人のことで嘘付きませんから!」と古田さんはそれでも嘘をつき続けてくれた。

本当に優しい人だ。彼女自身も森内から危ない目に遭うかもしれないのに、、。こんなに自分のために何かしてくれる人は今までいなかった。

僕は古田さんのことをより信頼にあたいする人だと思った。


森内は古田さんの言葉を聞くとニヤニヤしだして語りだす

「そうかそうか。でもおかしいな。屋上に来るのが君だけならさー なんで弁当がそこに2もあるんだよ?」

終わった、、バレた。今からでも森内に謝れば古田さんだけでも見逃してくれるかもしれない。

と、俺が諦めて森内に駆け寄ろうとしたときに古田さんが口を開く

「そんなに凄まないでください。弁当2つなのは私の分となんです。弟は部活してて練習後にお腹空くからっていつも2個持って行くんですけど、弟が朝持っていくのを1個だけ忘れてたので、放課後にでも渡そうかなと思ってました。信じられないなら弟を今すぐ呼びましょうか?」

すごい!、咄嗟であんな嘘が出るなんて。古田さんは頭の回転が早いんだなと感心した。

「いや、いい。悪かったな美人さん」と森内は不機嫌になりながらも屋上を去っていったのだ


た、助かったぁぁ!!、、さすがに肝が冷えた。


僕は「ありがとう!!」とけっこうな大きさの声量で古田さんに駆け寄る。

近くまで行くと、古田さんが身体を震わせながら「さすがに怖かったぁ、、」と、少し涙目になっていた。

「本当にごめん。迷惑かけてしまった」

さすがに怖い思いをさせてしまったし、俺のせいだ、、

「なに言ってるの! 私たち友達じゃん。迷惑なんかじゃないよ」

古田さんは優しい言葉をかけてくれた。

友達か…。そんな風に思ってくれていたんだな。素直に嬉しかった。昨日は古田さんのことを自分の場所奪おうとする邪魔者だと思ったことを後悔した。こんなに優しい人はそうはいないだろう。古田さんはもう僕にとっても大事な友達だと思った。


古田さんがドヤ顔になり、続けて話す。

「まあでも、少しは信用してくれたなら怖い経験した甲斐があったよ!」

僕は古田さんの屈託くったくのない笑顔を見て、素直な気持ちを伝える。

「うん。ありがとう。信用できるし、したいなって思ってます これからも友達として仲良くしたいです」

「えー! ゆーくんが急に素直過ぎてむしろ怖いよぉぉ〜」

「じゃあ、やっぱ今のなしで」

「ごめんごめん!素直なゆーくんの方が私は好きだなー。もっと素直になってほしいな〜」

「あ、もう大丈夫です」

「もー!!」

と、古田さんがむぅーっと怒ってるのが、からかい甲斐があって可愛らしいこと。

と、古田さんを楽しんでるとあの音が聴こえてきた。

学生はこの音を聴くと、身構えてしまうのではなかろうか。


キーンコーンカーンコーン♪

キーンコーンカーンコーン♪


そう。学校のチャイムの音だ。僕らが授業に遅れてしまうのがこれで確定した。


すると、古田さんが「やっちまったぁ!」とショック受けているご様子。

僕も今からでも早く教室に戻らなくちゃとそそくさと歩きだした。

すると、古田さんが「ちょっと待って!」僕の腕を掴んだ。

「なに?」と聞く古田さんが思いもよらない提案をする。


「いいこと思い付いたんだけど、どうせ遅れるなら学校サボって外へ遊びに行かない?」


どうやら僕はサボらされるらしい。








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