第2話 屋上の女神
夏の暑い日、僕は昼休みにいつものように学校の屋上に来ていた。太陽がらんらんと照りつけてとても明るい屋上だ。
夏であるにも関わらず、ここに来るのには訳がある、
僕はいじめを受けているからである。
初まりはほんとうに些細なことだった。あるクラスメイトが急に二人の女性の画像を見せてきて「どっちがタイプ?」と、聞いてきたのだ。僕はどちらか選んだ。それが彼のタイプとは別の女性選んでしまった。そこから「お前、センス悪いわ」などと言われ目を付けられ、僕はいじめのターゲットにされることになっていった。集団で暴力を振るわれ、机や教科書の至るところに「死ね」「ブサイク」「きしょい」などが書かれるようになった。女子の体操着泥棒の濡れ衣を着せられ、挙げ句には修学旅行費を盗んだ犯人に仕立て挙げられ、その費用の200万円を払わなくてはいけなくなった。
最初は教師や親に助けを求めたが、助けようとするどころか、面倒事に巻き込まれたくないようで、まともに取り合ってはくれない。クラスメイトも見て見ぬふりやいじめに加担する人までもが増えてきた。
もちろん殺意や絶望感を感じた。どうしてこんな目に遭わなくてはいけないのか…
この学校から出て行けば世界が変わるのかもしれないが、親のせいで学校を出ていくことができない。この学校に通うことを強制され、バイトをしても親にほとんどのお金を取られて奴隷と言う名の管理をされている。わずかに残ったお金も修学旅行費にすべて消えてしまう。お金を隠そうとしても、親やいじめっ子たちが取り立ててくる。
ということで俺はもう3日間なにも食べれていない。
そして、この誰もこない屋上が唯一の僕の安らぐ場所だ。学校がある日でもう3ヶ月以上はここに来ているが
そもそも、この屋上が開放されていることを他の生徒は知らないのではないのだろう。
僕は屋上から下の地面を除き込み、想いを吐露する。
「ここから飛び降りたら全部解放されるのかな…」
「さあ、どうだろうねー」と、急に誰かの声がした!? ここには誰も来ないはずなのに、、
振り向くとそこには綺麗な女性がいた。サラサラな長い髪で風でふわふわとなびいて、美麗な雰囲気を漂わせていた。
女性が再び話し出す。
「そんなに死にたいんだ?
たしかにあなた目が死んでるもんね」
女性は僕の顔を除き込む。彼女はとても綺麗な目をしていると思った。純粋で汚れていない目だ。
僕はこの距離感にさすがに恥ずかしくなり、目を逸らし、「なんでもないです、」と言い、距離を取った。
「ねぇねぇ、どうせ死ぬなら私のお願いを聞いてくれないかな?」
「急にお願いってなんですか?」
「私と一緒にお昼ご飯を食べてほしいの!!」
は? どういうことだよ。僕と昼ご飯? 一緒に?
僕は疑問を口にする。
「えっと、なんで僕と一緒にごはんを食べたいんですか? 友達でもなんでもないですよね?」
彼女少し厶ッとしたかと思うと、バツの悪そうな顔をして
「私、クラスで友達いなくて、、で、教室でお弁当一人で食べてるの。でも他の子たちはグループ作って楽しそうに食べてるの。その空気感にさすがに耐えられなくなってさぁ〜…」
こんな美人でも友達いないのかと内心驚いていた。
彼女は続ける。
「それでどっかいい場所ないかなーって探してたら、この屋上が解放されてることを発見したわけ! そしたら死にたがりの君を発見したのだー」
彼女は楽しそうにニコニコしていた。目の前に死にたいと思ってる人がいるのに、なんか軽いなぁ
「と、言うわけで!! 一緒にご飯食べよ?」
「嫌です。それに屋上は誰もいないから心安らぐ唯一の場所なので来ないでください」
嫌だった。この場所を奪われるのが。人と関わるのももう嫌なのだ。どうせ悪いことしか起きない。それほどに人間不信になっているのだから。
すると彼女は「そんな冷たいこと言わないでよぉ、、」と急に泣きべそをかいたのだ。
少しの罪悪感と不覚にも可愛いと感じてしまった。
どうしていいかわからなくなった僕に彼女はぎゅ!と抱きしめてきたのだ、、、
心臓に感じたことのない動悸をよそに、彼女は「ねぇ、ダメかな?、、、」と寂しさが混ざったような甘え声を僕の耳元で囁いたのである。
僕は「は、い、、、」と、つい言ってしまった。
その言葉を聞いた彼女は急に顔がパッと明るくなり話し出した。
「よっしゃぁぁ!!「はい」って言ったね? やっぱ男にはこういう甘い泣き落としが効くんだな!」と拳を作り、ガッツポーズをしていた。
どうやら僕はまんまと策にはまってしまったようだ。
しかし、僕は抵抗する。
「別に一緒に食べるのを認めた訳じゃないです! それに、、そういうやり方は気に食わないです」
「まあ、まあまあ、可愛い女の子が寂しがってるのを助けると思ってさ…だめ?」手を合わし懇願してくる彼女に、僕は強めに「NO!」と言ってやった。
もう諦めてくれ、、勘弁してくれ。
とストレスでお腹が緩んだのか、「ぐうううう」という鈍い音が屋上全体に響いた。
自分の空腹が限界を迎えていることを思い出した。
彼女があははと笑ったあと、急に真剣な顔になり、こう言い出す。
「ねぇ、君けっこう細くない? ちゃんと食べてないでしょ。だめだよ!ちゃんと食べなきゃ」
すると彼女は屋上の隅に置いてあったカバンの方に行き、ガサゴソと漁り始めて何かを持ってこっちへ向かってきた。
その物の正体はお弁当だった。
「これ食べて!」と彼女が強く言う。
「でも、それは君の分だから悪いよ…」と言うと、彼女はプクっと
甘い。でも優しい味でめちゃくちゃ美味い。久しぶりの食事という理由だけではない。シンプルにこの卵焼きがかなり美味しいということだ。
「ふふふ、けっこう美味しいでしょ? 私、料理は得意な方なんだよー。あ、もう私の箸に君の口が付いちゃったから残りも全部食べてね」と、彼女はいじわるな笑みを浮かべながら、弁当を食べるのを
僕はもう限界だったのでお言葉に甘えて、弁当のおかずを次から次に口に運んでいった。
本当に美味しい。それにこういう温かいご飯は久しぶりだ。とても
そんな反応を見てか、彼女はとても優しい笑みを浮かべていた。
僕はそのときにすでに恋に落ちていたのだとわかったのは、まだ後の話。
「ごちそうさまでした。とても、とても美味しかったです。ありがとう」と、僕は感謝を述べるほど素直になっていた。
「そういうふうに言ってもらって嬉しい!」と彼女はほんとうに嬉しそうだった。
すると、「あ!」と何か思いついたような表情こう言い出す。
「じゃあ、これからは君の分のお弁当も毎日作ってくるね! その代わりに〜、私と一緒にお昼ご飯食べてください!!」
え?毎日作ってくるのか。たしかに最近はろくに食べれていないし、作ってきてくれるのは有り難い。なによりもめちゃくちゃ美味しいお弁当を食べれるのは嬉しい。
でも、屋上に一人でいれなくなるのではと不安にかられた。
すると考え込んでるを僕をよそに彼女が語りだす。
「大丈夫だよ。この屋上が解放されてることは誰にも言わないし、あなたの居場所は私が作るから。私にとってもここが居場所になったし、、」
ん? よくわからないことを言ってきたけど、とりあえず屋上のことをバラしたり、悪いことはしなそうだから安心した。ただ、明日からは一人で屋上に過ごすことができないのはまだ少し嫌だ。
どう返答しようか迷っていると、彼女が「あ!!」と大きな声をあげた。
「もうそろそろ授業が始まっちゃう! 移動教室だから早めに行かないといけないじゃん。 とりあえず明日の昼休みにまた来るからね!」と
まだ聞いてなかったからな。
「あなたの名前は?」
するとニコっとして彼女は答える。
「
「
そう言うと彼女は手を振りながら「じゃあ、ゆーくん! また明日ね」と言い残し、去っていった。
いきなり、ゆーくんってなに。古田さん、不思議な人だなと感じ、屋上の空を眺めていた。
この夏の暑さで夢か幻でも見たんじゃないかと錯覚するほどだ。
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