第6話 顔見せと噂の真実
約束した日はあっという間であった。
今現在、漣は迎えに来たシャノンと共に他の聖女たちを待たせてるという平原に向かうため馬車に揺られていた。
「…。」
「レンさん。そんなに緊張しなくても、何も怖い事は無いですよ?」
初めての城の外である事、聖女たちの顔見せになる事、そして穢れというモンスターを始めて見る事の緊張感から青い顔をする漣にシャノンは優しく声を掛けるが、治まる気配は無かった。
「漣さま。気分を落ち着かせるハーブティーを用意しております。ご自由にお飲みください。」
と、今は馬を引いているシンシアの言葉の言う通り、水筒のような物に用意されていたハーブティーに口をつける漣。
今淹れたかのように温かいハーブティーの効果か少しは落ち着き始めた漣は以前からの疑問をシンシアに聞いてみる事にした。
「…ねぇ、シンシアさん。一つ質問してもいいかな?」
「お答え出来る事ならば、何なりと。」
「一部の噂でシンシアさんが王様と愛し合っているって噂が立っているんだけど。」
その言葉に一瞬動きが止まるシンシアであったが、何よりも反応したのはシャノンであった。
「~~~~~~~~~~!!アハハハハハハハハ!!」
それはもうこの上ないといった様子で笑い続けるシャノン。
しばらく経っても息も絶え絶えな様子でまだ笑っている彼女に漣はハーブティーを差し出す。
シャノンは差し出されたハーブティーを一気に飲み干すとようやく意味のある言葉を口から出す。
「あーもう!笑わせないでくださいよレンさん!思わず聖女で初めて笑い死にするかと思いましたよ!」
「…それでも此方は構いませんが。」
ボソッとシンシアが放った言葉を聞かない振りをしてシャノンは漣に質問を返す。
「城ではそんな噂が立ってるんですか?もう、おもしろ過ぎますよ。」
「当事者としてはこの上なく迷惑ですが。」
シンシアはそう言うと漣に厳しい口調で咎める。
「漣さま。確かに私は王に意見を求められる事もあり呼び出される事もありますが、その様な関係では一切ありません。噂に惑わされず真実を見抜く事を常に意識してください。」
「は、はい。」
「シンシア?それだと伝えたい事は伝わりませんよ?」
シャノンはそう言うと漣に優しく問いかける。
「漣さん?どうしてその噂を本人に確認するほど信じたんですか?」
「い、いや。それは…。」
「大丈夫ですよ。私もシンシアも責めてる訳ではありません。ただどうしてそう思ったのか知りたいだけです。」
「…信じようにもシンシアさんの事、あんまり知らないから。」
そう申し訳ないような顔をする漣に対し、シャノンは納得した様子であった。
「なるほどなるほど。全てはシンシアのコミュニケーション不足でしたか。」
「メイドとして振る舞っているだけです。不必要な交流は必要ないでしょう。…ですが。」
シンシアはそこで一旦言葉を区切ると、珍しく少し間をおいて続きを口にする。
「そのような噂を漣さまが信じるというのは必要な交流が取れていなかったという事でしょう。申し訳ありません。」
「こ、こっちこそ。不愉快な思いをさせてゴメン。」
「…以後はこのような事が起こらぬように交流を深める事と噂話の元を絶つ事にしましょう。」
(そう言うからには帰ったら噂はすぐに消されそうだな。)
漣がそのように思っているとシャノンが不満そうに口を挟む。
「それだけ?肝心な部分を話してないじゃない。」
「これ以上に何か話すべき事は見当たりませんが。」
「大ありでしょ?アレク王との関係を話してないけど?」
「…王と仕える従者というだけです。それ以上でもそれ以下でもありません。」
「まったく。」
シャノンは呆れたようにそう言うと漣に視線を移す。
「確かにアレク王とシンシアはそういった恋愛関係ではないけど、ただの主従でない事はレンさんにも分かりますよね~。」
「それは…まあ(王から意見を求められるメイドなんてそうはいないだろうし)。」
漣がそう思っているとシャノンは見透かしたように笑う。
「本人に言う気がないみたいだから私も詳しくは教えないけれど。一言だけ言うなら二人はきょうだいのようなものですよ。」
(きょうだい?…ああ兄妹か。それなら、まあ、納得、かな?)
漣が納得しかけているとシンシアからシャノンに向かって厳しい口調で口を出す。
「シャノンさま。これ以上、漣さまを困惑させるのはお止めください。」
「ん~?何?これ以上は不都合なのかな?」
「…。」
「っと。少し喋りすぎたかな?レンさんも憶えておいた方がいいですよ?シンシアは怒りだすと無口になっていくって。」
シャノンはそう言うと今度こそ話さなくなり、静かにハーブティーのお代わりを飲み始めた。
シンシアもこれ以上話す事はないのか黙ってしまったため、漣は取り敢えず外の景色を見て気を紛らわせるのであった。
「さて!もうそろそろ到着ですね!レンさん、準備はいいですか!」
「胃が痛いです。」
漣はお腹を押さえながらこれから出会う新たな聖女たちとの事を考えていた。
(美形なんて噂が立ってるもんな。落胆されるのは目に見えてるし。)
「大丈夫ですよ?選出した聖女は実力よりも性格で選びましたから。見た目でどうこう言う事は無いですよ。」
「ナチュラルに心を読むのは止めませんか?」
「だってレンさん分かりやすいですから。」
そうカラカラと笑うシャノンを置いておきシンシアが漣と話し出す。
「漣さま、不必要に気負う必要はありません。やるべきは穢れを直に見る事、そして穢れ払いがどのようなものかを見学する事にあります。他の聖女からの評価は今回は二の次です。」
「いいのかなそれで。」
「良いのです。評価とは何かをして初めて得られるもの。それを正しく理解している者であるなら今回の一件で見定めようとは思わないはず。…容姿に関しては何とも言えませんが。」
「最後の一言でめげそうだよシンシアさん。」
また気が重くなる漣をよそに馬車が止める。
「着きました。すでに選出された聖女、三名が待機されているようです。」
「取り敢えずまず私が出ますね。レンさんは合図してから出てくださいね。」
そう言って馬車を降りるシャノンを見送ると緊張で漣の動悸が再び上がっていく。
倒れてしまうのではと錯覚するほど気分が悪くなる漣に優しく声を掛けられる。
「大丈夫です漣さま。」
「…シンシアさん。」
「どのような事態に陥ろうと、漣さまなら巻き返せます。それだけの事を教えて参りました。」
「…ふぅーー。ありがとう。」
「仕事ですので。」
漣はシンシアの言葉を受けて深呼吸をすると一言だけお礼を言うのであった。
それに対する答えはお堅いものであったが、どこか口調が柔らかい事に漣は気づいていた。
「それではレンさん!どうぞ登場してください!」
シャノンの言い方に苦笑する余裕を見せながら、漣は馬車を降りるのであった。
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