第5話 穢れ払い

 千年以上生きている聖女、シャノンと出会ってから十数分後。

 一同は場所を貴賓室へと移動していた。

 この場にいるのは漣とシンシアとシャノン、そして。


 「ふむ。やはりシンシアが淹れたお茶は一味違う。」

 「身に余るお言葉です、王。」


 政務を中断してまで来たアレク王であった。

 王やシャノンが優雅にシンシアの淹れたお茶を味わっているのに対し、未だ王という存在に慣れない漣はガチガチに緊張していた。


 「…それで、今回はどのような要件で参られたのですかな。シャノン殿。」

 「そうですね。役者は揃いましたしおいしいお茶も飲めましたしそろそろ真面目にお話をしましょうか。」


 アレクとシャノンの間に緊張した空気が流れ、漣の緊張もさらに高まっていく。

 シンシアもそれを察してか何時でもフォロー出来るようにそっと漣の後ろに立つ。


 「今回の訪問の目的は二つ。そしてそのどちらもそちらにいるレン・シラカネ様に関する事です。」

 「お、俺ですか?」


 突然自分が話題に出され動揺する漣であったが、シンシアがそっと耳打ちをする。


 「漣さま、あまり動揺は見せぬよう。シャノン様はその様子を楽しんでおられるので。」

 「誰にでもはしませんよ?反応が面白い人だけです。」

 「それが厄介だと申し上げています。あと空気を読んで聞こえないフリぐらいしてください。」


 シンシアはそう言うと再び漣の後ろに立つ。

 シャノンの方も特に言う事も無いのか本題に戻っていく。


 「一つはこのシルビアンの聖女の代表としてレン・シラカネの素質を見に来ました。やはり文面で見るより直接会わなければ分からない事も多いですから。」

 「それでしたらこちらからお伺いの予定を…。」

 「いえ、アレク王。私は素の彼を見たかったのですよ。今のように緊張してる彼でなく、ね。」


 その後は何やら難しい話に移行していったが、漣は今の会話で疑問を持っていた。


 (そう言えば今まで誰一人として聖女に会わなかったけど、挨拶とかしなくて良かったのかな。)


 その疑問を察してかシンシアが再び漣に耳打ちをする。


 「シャノン様はつい先日まで国境付近の穢れを祓っていました。代表がいないのに教会に挨拶する訳にもいかなかったのです。」


 ちなみにここで言う教会とは聖女の寄り合いのような物であり、このスレイブニル全ての国にある。

 それぞれの教会に代表がおり、シャノンはシルビアンの代表という訳である。


 「な、なるほど。ありがとうシンシアさん。」

 (ペコッ)


 シンシアは軽く頭を下げると再び後ろに下がった。

 それとほぼ同タイミングでアレクとシャノンの政治的な会話も終わりを告げようとしていた。


 「なるほど、ならばその件は国が責任をもって対応を。」

 「よろしくお願いしますアレク王。あ!ごめんなさいレンさん。ほったらかしにして。」

 「い、いえ。それでシャノン、さん?」

 「シャノンで結構ですよレンさん。」

 「いやでも「シャノン」」

 「ですけ「シャノン」」

 「い「シャノン」」

 「…シャノン。」

 「はい何でしょうレンさん?」


 一連のやり取りで既に漣は疲れてしまったが、聞かない訳にもいかず質問をする。


 「あなたから見てどうでしたか、素質は。」

 「うーん。そうですね。」


 考え込むシャノンを固唾を飲んで様子を見る漣。

 シャノンが出した評価は。


 「及第点ですかね。」

 「ま、またですか?」


 容姿と同じく及第点と言われ、微妙な気持ちになる漣にシャノンは苦笑いしながら言う。


 「剣の腕は発展途上ながらそこそこ、魔法に関しては不明、意欲はある。まだまだ分からない事は多いですけどとりあえず及第点という事で。」

 「はぁ。」


 納得しがたいところもあったが取り敢えず意欲は認められたと漣は思い直す。


 「それでシャノン殿。二つ目の要件とは。」

 「ああそうでした。むしろそっちの方が大切でした。」

 「素質を確かめるよりも?」

 「はい!レン・シラカネさん。今度の穢れ払いに付いて来ませんか?」

 「…はい?」


 まるでピクニックに誘うが如く穢れ払い、つまりはモンスター狩りに付いて来ないか聞かれ漣は固まる。


 「し、シャノン殿。それは流石に。」


 アレクが断りの言葉を言おうとするが、その前にシンシアが動いた。


 「失礼ながらシャノン様。漣さまは未だ剣の修行を始めたばかり、あなた様が言う通り発展途上です。そのようなお方を危険のある穢れ払いに参加など賛同しかねます。」

 「…ふーーーーん。」

 「何か?」

 「別に?ただシンシアにしては随分と言葉が多いな、て。」

 「…ただ必要な事を申し上げたまでです。」


 シンシアが珍しく睨みつつ言うのに対し、シャノンはどこか余裕がある態度である。


 「…シンシアもアレク王もそう怖い顔をしないでください。私は付いて来ませんかと言っただけです。一緒に戦うとは言ってませんよ。」

 「どう言う事です?」


 漣がそう疑問を言うとシャノンは頬を掻きつつ困った顔をする。


 「お恥ずかしいお話なんですが、聖女内でレンさんの噂がかなり広まっていまして。一目でもいいから会いたいという者が後を絶たなくて暴動寸前なんですよ。」

 「なるほど。穢れ払いは口実で他の聖女にレン殿を合わせようと?」

 「はい。直接協会に来てもらうと本当に暴動騒ぎになるかもしれないので。勿論合わせる聖女はこちらで厳選します。」

 「ふむ。…どう思われるかなレン殿?」

 「そ、そうですね。」


 漣としてもこれからお世話になるかも知れない聖女たちと交流を深めるのは良い事かも知れない。

 だが漣は返事をする前にシンシアが再び反応した。


 「ですが、それはあくまでもそちらの監督責任では?仮ですが師としてそちらの都合で未熟な者を危険な場所に送り出せません。」

 「…う~ん。」


 シンシアの意見にも一理はあった。

 どのような危険があるか分からない以上、未熟な腕である漣が付いて行くのはかなり危ない。

 だがシャノンもそう言われるのは想定内なのか口を開く。


 「だったらシンシアも一緒に来ます?目的地はすぐそこの平原だから日帰りですしね。それに聖女を目指す以上、穢れがどのような物か見ておく事も勉強になると思うけど。」

 「…。」


 シャノンの言葉に一応の納得をしたのかシンシアは黙って後ろに下がる。


 「まあ何だかんだ言ったけど結局はレンさんの気持ち次第ですよ?どうします?」

 「…お受けします。」


 漣は考えた後に、シャノンに頭を下げ参加の意思を表明した。

 その答えにシャノンは笑顔で返した。


 「良かった。では三日後に迎えに来ますので準備お願いしますね。」

 「うむ。レン殿にとっては初めての外だからな。シンシア準備は丹念に頼む。」

 「お任せを。」



 こうして漣の初めての穢れ払いが決定したのであった。

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