第4話 謎の少女登場
「ふぅー。だいぶ様にはなってきた、かな?」
いつもの昼の剣の修行として漣は素振りを繰り返していた。
普段であればシンシアが修行に付き合ってくれるのであるが、今日はどこにも見当たらない。
というのも午前中。
「申し訳ありません漣さま。本日は城に来賓がいらっしゃるため午後は自己鍛錬をお願いします。」
という訳であり午後からシンシアはその来賓を迎えるためにいないのである。
ちなみに。
「なお禊に関してはお一人ではなさらないでください。したとしても戻って来てからやり直しますので。」
という風に先手を打たれ漣が絶望したのは言うまでもない。
だいぶ汗を掻いてきたため、一旦素振りの手を止めて汗を拭く。
汗を拭きながら思うのは普段傍らにいるメイドの事であった。
「それにしても…シンシアさんって本当に何者なんだろう?」
城の様々な仕事をやっているのは前から知っていたが、今回のように貴賓が来る時には必ず呼ばれている。
それだけならまだメイドの仕事として納得できるが、どうやら王であるアレクに相談役として重宝されているようなのである。
以前部屋の前を通った他のメイドが話していた噂ではあるが、王の愛人という話も持ち上がってるらしい。
「あれだけ美人なら分からないでもないけど…。」
噂を本人に確かめたい気持ちもあったが、プライベートな事に踏み込むのも躊躇しまう漣。
「それになぁ~。本当だったとして止める権利なんて無いしな~。」
真摯にお世話をされているため漣自身も勘違いしそうではあるが、二人の関係は簡単に言えば教育をする方とされる方。
先生と生徒とも言える関係性である。
そんな関係性でまるでシンシアの主人、あるいは恋人のように交友関係に突っ込むのは失礼では無いかと漣は思っていた。
「結局、彼女は俺の事どう思ってるのかな。」
嫌われては無い…と信じたい漣ではあったが、それすら確信が持てない。
何せ基本は無表情に近いシンシアの心情を察するには二人の付き合いはまだ短かった。
別に付き合いたいと思ってる訳では無い漣だが、それでも嫌われるよりは好かれたいと思うのは当然であった。
「嫌われてないといいな。」
「フフ、大丈夫ですよ。シンシアはあなたの事を良く思っていますよ。」
「うおっ!!」
誰もいないはずなのに声を掛けられたため大声を出して驚いた漣が振り向くと、そこには変わった服を着た銀髪の少女がいた。
(き、聞かれた!?というか誰!?)
バクバクする心臓を押さえつつ不審そうに少女を見つめる漣。
城の中であるため不審者ではないとは思うが、それでもまだ中学生ほどに見える少女が何故ここにいるのか漣には分からなかった。
「ごめんなさい。そこまで驚かせる気は無かったのだけど。」
「い、いえ。…あの、君は?」
「…あ~。一応聖女としてこの国に滞在している者です。見た目については…教わってますか?」
「は、はい。一応は。」
言い方が引っかかったが聖女と言う事であるなら城にいても可笑しくは無いと思い警戒を緩める。
「聖女は正式に認められるとその肉体年齢は解かれるまで停止する。だから聖女は基本若い見た目の者が多い、でしたよね。」
「正解です♪この世界に来たばかりなのによくお勉強してますね。」
「まあ先生がいいですから。」
無理のない程度に、しかしスパルタにシンシアによって教えこまれた知識を褒められ少し嬉しい漣。
それを聞いた少女は何故かニヤニヤし始める。
「ふーーん。あのシンシアがねぇ。」
「あの、シンシアさんとはお知り合いで?」
見た目どうりの年齢では無いのは察したため気を使いつつシンシアとの関係を確かめようとする漣。
その漣の態度に少女は微笑みを返す。
「年齢を気にしなくてもいいですよ。同じ聖女の力を持つ者として仲良くしましょう?レン・シラカネさん。」
「名前知っていたんですね。」
「当然ですよ。聖女の間では男の聖女が誕生するという話で持ち切りですよ?強くて優しくて超絶美形ってなってますけどね。」
「あ、やばい。今からでも聖女やめたくなってきた。」
尾ひれが付きまくる噂を聞いて胃が痛くなってくる漣を見て少女は笑い始める。
「アハハ!何せ女所帯ですからね。皆男性に対して夢を持ちすぎなんですよ。」
「あなたは?俺を見てガッカリしました?」
「う~ん。そうですね~。」
少女は漣を見つめながらぐるりと一周回って評価を下す。
「及第点、ですね。」
「き、及第点…。」
何とも言えない評価にどう反応すればいいか分からない漣を余所に少女は説明をする。
「容姿は中の上、ぐらいだと思いますよ?ただ体つきがもう少ししっかりした方が好みですし性格はこの短時間では測れない。」
「だから及第点、と?」
「はい。あくまで個人の意見なので落ち込む事は無いですよ。それに多分ですけどシンシアはあなたの事を気に入っていますからね。」
「え?そうなんですか?」
そう言えば会話の始まりはそれだったと思い出しつつ漣は少女の言葉に耳を傾ける。
「ええ♪知ってる限りであの子がそこまで丁寧にお世話するのは見た事ありませんから。普段なら課題を出してそれを提出させるだけですよ?」
「で、でも王に頼まれたから丁寧にしてるだけじゃ…。」
「例え王が命令したとしてもあの子はそこまで時間を掛けたりしませんよ。」
「そ、そうなんですか?」
少女がシンシアの事を『あの子』呼びしている事は気になったが、それでも嫌われてないと分かりホッとする漣。
「そうですよ♪あの子はあなたの事が大好き」
「ここで何をしているのですか。」
少女の言葉を遮ぎったのは来賓の相手で忙しいはずのシンシアであった。
「シンシアさん!?ち、違います!サボってる訳では無く!」
「申し訳ありません漣さま。先にこちらの問題を片づけさせてください。」
「あ、はい。」
有無を言わせない様子で漣から許可を貰うとシンシアは少女の前に立つ。
「…何故あなたがここにいるのですか?」
「噂の男の聖女をこの目で見たくて。つい壁をよじ登って。」
「ご自身のお立場を考えて行動してください。どれだけコチラが困惑したと。」
「なぁに?お気に入りの子が取られるかどうか心配?」
「…意味を分かりかねます。それと話をすり変えないでください。大体あなたは。」
「あ、あの。結局その子?、方?はどちら様で?」
話がヒートアップしそうだったので止める意味も込めて漣はシンシアに質問する。
それによって落ち着いたのかシンシアは一度深呼吸をして漣に謝罪する。
「お見苦しいところをお見せして申し訳ありません漣さま。」
「い、いえ。…それで。」
「…この方は千年以上このシルビアンを、いえスレイブニルという世界を守り続けて来ている聖女、シャノン様です。」
「是非シャノンと呼んで下さいね。」
そう可愛らしくいうシャノンであったが、その前に漣には気になる部分があった。
「千年以上って言った?え?じゃあ今のお歳は…。」
「う~んそうですねぇ。…千五百以上は憶えてませんね♪」
「…。」
耳からの情報と目からの情報のギャップに頭が混乱する漣に対しシンシアは珍しく同情を込めた目線で一言。
「お気持ちお察しいたします。」
と言うのであった。
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