幕間 『──Magnolia──  或る毒婦の日記 』

お集まりの紳士、淑女の皆様。



此よりワタクシが語りますは一人の『女』の御譚オハナシ




愛に溢れ、愛に狂い、愛を虐げ、愛を肯定した

あらゆる不道徳と堕落を貪り、一途な陵辱を歓喜の内に迎え入れた

あまねくよくにまみれた『獣』。





其の独白を………………。









────『女』の話をしよう。







目覚めた時から、『女』は飢えていた。





己の乾きを癒す為、女は他人ヒトを求めた。


時に哀しみに暮れる者に手を差し伸べ、時に恐怖に怯え竦む者に寄り添い合い、

時に行き場の無い惑う者に居場所を与え、

まるで『聖女』の如き慈愛で無辜むこ他人ヒトを救った。





しかし、女が『愛』を知った時、女は『怪物』と化す。







«私は貴方の すべてを 愛しています»







溺愛、堪能、支配、泥酔、絶頂。






肥大化した愛と言う蟻地獄。






其れらを一つに繋ぐ感情を女は抱き、甘く溶ける揺籃ゆりかご

愛に濡れた唇は熱を帯びて囁いた。





暗き深淵を顕現する女は【少女ヒロイン】のように笑う。







浅ましきは無限に連なる我慾がよくごう







それはヒトでも、ケダモノでもない。













─────────『狂気バケモノ』だ。














幕間 『──Magnolia──  或る毒婦の日記 』













────────────────


3月10日。






「………あらあら、それは困ったわね。


………あ!そうだわ、リュグ。

ワタクシと一緒に住んではどうかしら?


実はね…ワタクシもずっと一人だったの……。


だから一人きりの寂しさはとても良く分かるわ。


それに貴方も一人だと色々、何かと困る事もあるでしょう。

貴方さえ良ければなんだけれど……どうかしら?」



────────────────


3月10日



今日はとてもシアワセな日。

だってこの子にやっと逢えたのだから………。



あの人が………。

御母様がこの子を愛弟子として向かい入れ、連れ出してしまってから

一年の月日が経っていた。



あの日から指折り数えて、毎月に一度、送られてくる手紙を

読み返してはもう一度会える日を夢見て唇を噛み締める苦痛の日々を

過ごしていた。



そしてやっと。

この子に会う為に掛けた労力が実を結び、やっと再会を果たせた。



一年ぶりに再会したこの子は出会った頃より少し背が伸びていたけれど、

わえに向けるあどけない笑顔は変わらずそのまま。



わえがそっと優しくこの子の頭を撫で、愛おしく抱き締めると直ぐに顔を

赤らめてしまう。



ふふふ……本当に可愛らしい子。



────────────────



6月1日





この子をわえが住まう別宅の屋敷へ招いて半年が経った。


一緒に同じベットで眠り、一緒に湯浴みをし、

わえが作る食事を食べ、たわいのない会話や屋敷の薔薇の庭園での散歩。


時に街まで出向いたりしてデートを楽しん笑い合う幸福な日々。



毎日がまるで夢ような日々。



いつまでもずっとこのままでと思っていた。



でも。

わえの心は曇ってしまう。

わえの心は、満たされない。



嗚呼、リュグ。



わえは貴方を愛しているのよ。



愛しているわ、リュグ。



貴方もわえを愛しているでしょう?



貴方だけ。

貴方だけなのよ。

貴方だけがわえを愛して良いのだから。



貴方さえ、居てくれたら・・・・・・・。



ずっとずっとずっと。

わえの傍に居て。



愛してる、愛してる、愛してる、愛してる。愛してる、

愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、

愛してる。




愛しているのよ、リュグ………────────




────────────────



6月6日






昼間、一緒に昼食の用意をしていた際にじゃがいもを包丁で剥いていたリュグが

指先を切ってしまった。



傷はそこまで深くはなかったのが幸いだった。

白い肌に流れる一雫の赤い血。




とっても『綺麗』だわ。




わえは血が滲む指先を、そっと口に運んでリュグの血を熱を

帯びた舌で優しく舐めとる。



舌に広がるリュグの血。

今まで食べてきた何よりもとっても美味しい。



なんて甘美な味。

まるで甘く熟れた柘榴のよう。



「ふふ、ごめんなさい、リュグ。

少し、はしたない所を見せてしまったわね………。

でも、切った所はの傷はこれで塞がったでしょう。

念の為に消毒を施して包帯を巻いてあげるから。

今度は滑らないように気をつけてましょうね。」



手当を施し、共に食事を取る間もわえは口に残っていたリュグの味の

余韻を楽しんだわ。



嗚呼、もっと。

もっと味わいたいわ。



でも丸ごと食べてしまう訳にはいかない。



そんな勿体ない事なんてしないわ。



少しずつ、少しずつ。

丹念に、じっくり、じんわりと味を噛み締めなきゃね。





────────────────



7月10日


夜。わえは自室にあの子を呼び出した。



「わえは貴方を愛してる、貴方もわえの事を愛してるわよね?」



わえがそう問えば、何時も以上に赤い顔をする。

まるで紅く熟れた果実みたい。

本当に可愛い。



「貴方の素直な気持ちを聞かせて欲しいの」



そっとこの子の頬に触れて、顎を引いて甘く優しく耳元で囁いたら

小さく漏れる吐息に混じって一言。



«僕も貴女の事が好きです»



そう言ってくれた。

嗚呼、この子もわえを想ってくれたのね。

嬉しい、とてもとても嬉しいわ。





嗚呼………でも。







«好き»なだけで«愛して»はいないのね。








わえはこんなにも貴方の事を

愛していると言うに………。




何故???何故???何故???何故???

何故???何故???何故???何故???









………………あ、そうか…………。









そうか。

そうなのね、そうよね。

わえ達、まだお互いの事。

まだまだ知らない事が沢山あるじゃない。



この子がわえの全てを知ればわえを愛してくれるわ。



わえもリュグの全てを知れば、もっと、もっと、もっと、もっと

この子の事を愛せるわ。



そうね、そうしましょう。それが良いわ。



この子を椅子に座わらせて手と足をキツく縛り上げる。

縄の締め付けの痛みに顔を顰めるリュグの顔。

嗚呼、なんて…………




愛しいのかしら……………………。




わえの知らないリュグ。

教えて欲しくて、知りたくて。





だから、わえね、

リュグの指を折ってみたの。







まずは人差し指。






«ボキり»






あら?

リュグの人差し指って折ればこんな音がしたのね。

うふふ、一つ知る事が出来て嬉しいわ。





次に中指。





«ベキり»






あらあら、リュグ、ダメよ?そんなに暴れては。


あまり力を強く入れたわけではなかったけれど

そんなに痛かったかしら。

ダメね、もっと優しくしてあげなきゃね。





次に親指。





«パキり»







うふふふ、今度は上手く行ったかしら?



親指って意外と簡単に折れるのね。



大丈夫?リュグ?

そんなに叫んだら喉が荒れてしまうわ。

少し休みましょうか。



そうだわ、貴方の好きなレモネードを

飲ませてあげるわね。



ふふふ、美味しい?

貴方が好きだと言ってくれたから

ちゃんと用意したのよ。



ほらほら、急いで飲まないのよ。



ゆっくり、ゆっくり………ね??????

良い子、良い子ね、リュグ。



あら?どうしたの?

«ごめんなさい»?どうして謝るの???

リュグは何も悪い事をしていないわよ?

貴方が謝る事は何も無いのよ。



わえは、わえの知らない貴方を。

まだ知らない貴方の事を知りたくて、分かりたくてしているのよ。



わえは貴方を嫌った事も貴方に怒った事も一度もないのよ。



ふふふふ………安心して、リュグ。

薬指は折ったりしないわ。



だって貴方の薬指にはわえの愛の証を付けて貰いたいの。



左手の薬指の意味は愛を深める、絆を深めると言う意味があるのよ。



あら?気絶してしまったのね。

お休みなさい、リュグ………良い夢を………。








────────────────


7月 11日。





あの夜の件があってからか、夕方までぐっすり眠っていたリュグは

目が覚めたリュグは酷く怯えていた。



なかなか布団から出てこないリュグにわえは落ち着くまで

何度も何度も大丈夫よと声を掛けた。



どの位時が過ぎただろうか。

キュゥーっとリュグのお腹の音が響いた。



ふふふ、よく眠っていたからお腹がすいたのね。

空腹感を感じたなら少し気持ちも落ち着いたのでしょう。



消化の良いミルク粥を作ってひと匙ずつ、リュグの口に運んでいく。



恐る恐る、ゆっくりと咀嚼していくリュグの頭を何度も撫でてあげる。



まるで雛鳥が親鳥から餌を与えられる様な姿に思わず笑みが零れる。



そして夜がふけて来るとわえはリュグの頬に触れながら微笑んであげた。



ふふふ、何をするか分からない?



昨日わえは貴方の指を折ったじゃない。

大丈夫よ、




 ・・・・・・・・・・・・・・・・・

【今日はわえは貴方には何もしないわよ】






今日はね、リュグ。








 ・・・・・・・・・・

【貴方がわえにするのよ】








ふふふふ………見て、リュグ。



いつもは伸ばしていた爪も今日の為にちゃんと切り揃えてきたの。



万が一、貴方に傷が付いたら大変ですもの。



あらあら、まだ何をするか、分からない?

それはね。








 ・・・・・・・・・・・・

【貴方がわえの指を折るのよ】







昨日わえが貴方にしたようにね…………。



あら?どうして?

わえの事が好きならリュグは貴方が知らない

わえの事を知る権利があるじゃない?



わえの事を好いている、愛しているのでしょう?



わえの事を愛しているならわえ全てをリュグに知って欲しいの。



わえの全てを教えてあげたいの。

それは行けない事なの?



大丈夫よ、あとでちゃあんと治すもの。

リュグの指だって綺麗に治っているでしょ?

あの後、回復魔法で綺麗に治してあげたのよ。



ふふふふ、心配しないで。

貴方がくれるモノ、貴方が与えてくれるモノ。



その全てがわえにとって

かけがえのない喜びなのだから。



最初は手を貸してあげるわ。



こうやって人差し指と中指の間を

割ってこう………。






«バキり»






ふふ、ちゃんと上手く折れたわ。

初めてにしては上出来ね。



良く出来たわね、良い子、良い子。



あらあら………?…………駄目よ、リュグ。

ちゃんと見ていないと。



目を閉じてしまっては駄目よ。

貴方には全てを知って欲しいのだから。



次は親指ね。さぁ、リュグ。

やって頂戴。






«バキャリ»






今度はちゃんと見れたわね。

ん?なぁに?どうして泣いているの?



嗚呼、もう………。

そんな顔をしないで、リュグ。



わえは今、とても嬉しいのよ。

自分をそんな風に責めては駄目よ。



貴方は本当に優しい子ね。


…………愛しているわ、リュグ。

ずっとずっと愛しているわ。





────────────────



10月 18日






お互いの指を折り合えれるようになって一ヶ月が経った。



初めの一週間はわえの指を見るだけで罪悪感と恐怖と怯えに竦み、震えながら

嘔吐してしまう時もあったけれどその度にぎゅっと抱き締めて何度も何度も

愛を囁いてあげたわ。




【リュグ、貴方は何も悪くは無いのよ。】




【わえは嬉しいのよ、ありがとう、リュグ。】






慣れない手付きだった頃より、少しコツを掴んだのかしら。



わえの痛みを少しでも抑えれるように気遣ってくれる優しさが嬉しい。




「フフフ・・・・。

今日はとっても楽しみにしてたのよ、リュグ。」




この日の為に準備を整えて、器具を揃えた甲斐があったわ。

屋敷の地下室にリュグを招いて磔台に固定し、上半身を裸にさせ手足を

拘束してあげた。





不安そうにわえの顔を見つめるリュグ。





怯え、不安、恐怖、困惑。




様々な感情に染まるリュグの瞳に『わえ』が映る。




嗚呼、リュグ・・・・・・。

綺麗だわ、本当に・・・・・・・・・。





熱を帯びたわえの指先ですぅーっと背中を

刺激するとリュグは小さく、んっ……。と喉を鳴らしてビクつかせた。




嗚呼、可愛い可愛い可愛い。

なんて可愛いのかしら。




あまり出血をさせないように予め用意していた匕首あいくちを使って

シュッと背中の皮を削いだ。



感覚はそう。




・・・・・・・・・・・・・・・・

まるで生ハムを削ぐのと同じ手付き。




薄すぎず、厚すぎず。

調度良い厚さの皮に削いでいく。




それでも徐々にゆっくりと削がれていく度に

初めて受ける痛みに悲鳴をあげるリュグ。




ふふふふ、ふふふふふふふふ。



見て、リュグ。

とっても綺麗に剥げたわよ。



これは大事に取っておきましょうね。




剥がされた皮膚の下から漏れる噎せ香るような血潮と堪らなく食欲を唆る

芳醇な『生命』の匂い。




匕首を台に置き、次の道具を取り出す。

この日の為に用意した『ディッシャー』。




綺麗に抉り取れるに

研磨の依頼をして作らせたわえのお気に入り。




丸い半球の切り口のそれの金属片が

リュグの肉をブチブチ、ミチミチと音を立てて

アイスを掬う要領でこそぎ落とし、

形を保ったまま押し出され、

抉られた箇所には丸い跡と血が吹き出る。




その肉を摘んで口に運ぶ。




しっかりと噛んで、噛み締めて、

舌の上で転がして味わって、わざとリュグに

聞こえるようにグチャグチャと咀嚼音を立て

ゴクリと飲み込む。



リュグの肉の味はこんなに美味しいのね

またこれで一つ、知らないリュグを

知れれて嬉しいわ





ありがとう、リュグ。





なるべく痛みが最低限に

済ませようとしたのだけど、痛かったわよね。

大丈夫、次はもっと上手くやるわね。





────────────────




(視点変更→リュグ視点)



12月9日






目が覚めるとそこには『奈落』があった。





死体がある。



死体がある。



眼前に転がるのは死体ばかり。

前後左右あらゆる所に死体がある。


幾重もの折り重なる死体と立ち込める死臭を噎せ返る甘い香りが塗り潰していく。

耳に聞こえてくるのは水滴の音。まるで点滴のそれだ。



ぼたりぼたりと落ちる水は、死体達の唇へ伝わる。

物言わぬ死体達のだらしなく開かれた口が水滴を受け入れて唇は潤け、腐り、

中には顎の肉が腐乱したモノまであった。


リュグは思った。


嘘だ、と。




こんなものは嘘なのだと思いたかった。

だが自分は騙せない。

そんなコト、 一目で気付いた。



死体はそのどれもが奇形で、

あまりにも、ヒトとして欠損が多すぎた。



手足がなく、断ち斬られたモノ。

末端から腐敗し、 骨だけを残したモノ。


すり潰され石畳の床の隙間に落ち込んだモノ。

壁に打ち付けられ虫たちの苗床になったモノ。


その経緯はどうあれ。

胴の半分しか存在せず、それすらもまるで枯れ木の様にボロボロだった。


水に混じって聞こえてくるすすり泣くような風の音。


それは死体の口から漏れている悲鳴。


彼等の喉はとっくに退化し、声を上げるの機能はない。

それでも、死体は泣き叫んでいた。

蚊の泣くような声で、精一杯の絶叫を上げ続ける。



生きながらにして体を咀嚼され、少しずつ自分のカタチを失って逝く事に

耐えられず、 彼らは断末魔を上げ続けている





───────カタン───────







音がした。

手前の死体が転がり喘ぐ。




どろりと。

首をこちらに傾けた拍子で、淀んだ眼球が零れ落ちる。



それでもソレは、リュグに視線を向けていた。

腐り潤けきった唇が、微かに揺れる。

ソレは、声にならない声で、




『────どうして?─────』と訊いてきた。





叫び出す一歩手前。

いや、叫ぶ事さえ、 とっくに出来ない。




『どうして?』



痛いでもなく、助けてでもなく、ソレは『どうして?』と訊いてきた。



 ・・・・

『あの子達』は、気が付いたらああだったのか。



普通に生きてきて、 当たり前のように眠って、目が覚めたら手足はとうになく、

動く事もできない。




嗚呼、これは悪い『夢』なんだ。



気が狂いそうになる。



この光景にも、この惨状にも見覚えがある。

ひしゃげた死体の顔はどれも見覚えがある。


            ・・・・

こんな酷い死体を見たのは«久しぶり»だ。




 ・・・

『あの時』もそうだった。




それと、疑問はもう一つが生まれた。

ただの偶然なのか、それが共通項なのか、生け贄はそうでなくてはならないのか。




どうして。



此処にある死体はみな、«子供»なのか?



どうしてみんな、リュグの«友人»なのか?





────突然。




「あら?おはよう。よく眠れたかしら?

フフフ・・・お誕生日おめでとう、リュグ。」



背後から、『彼女』の声が聞こえる。

ニコリとまるで『聖母』のような暖かな微笑みと

歌うような調べの声でリュグを抱き締めた。




「・・・・何故こんな事をですって・・・・?



フフフ、可笑しな事を言うのね、リュグったら。



・・・・・だって、リュグ・・・・・。




わえは【お腹が空いた】んですもの。




わえは『グール』ですもの。





『お腹が空いたら食べるのは当たり前でしょ?』」





嗚呼、目の前に居るのは






狂人バケモノ』だ






────────────────

(視点変更→ミネルヴァ視点)






6月9日。






フフフフフフ・・・・・・・・。







さぁ、早く。早く。強くなって。





そして。



 ・・・・・・・・・・・・・

『貴方の手でわえを殺しに来て』







──────────────




舞踏会のリュグはとっても綺麗だったわ。

嗚呼でも、本当に久しぶり。

こんなに大きくなって・・・・。

あれから背も大きくなって、本当に素敵なヒトになったのね。

わえはとても嬉しいわ。



ふふふ……白く月の様に煌めく髪、深海の水底の瞳と淡く艷めく碧緑の瞳。

真珠の如く滑らかな肌。



本当に貴方は美しい・・・とっても綺麗……。



えぇ………貴方はとてもとても綺麗。


蒼い瞳には『博愛』。

みどりの瞳には『嫉妬』。



ふふふ、だからこそ。

そんな色の瞳を持つ貴方にわえの色が映るなんて、

とってもロマンチック。



そしてわえの色と貴方の色が全て混じり合った時、

わえと一つになるの。



あらあら………リュグったらまだ、気付かないのね

まだ、わえが誰だか分からないかしら?



それじゃぁ、少しヒントをあげないとね・・・・。

フフフフフ・・・・・・。





ねぇ、リュグ・・・・・。





まだ・・・・・・




・・・・・・・

『忘れていたい』のかしら………?





可愛い可愛い、わえの、わえだけのリュグ。








貴方の話は良く耳に入ってくるわ。

高天原、霜の巨人、ネリア。沢山沢山、知っているわ。




リュグ。




・・・・・・・・・・・・・・

『あの夜』の事は覚えてるかしら?





ふふふふ………ごめんなさい。





つい、リュグに会えたのが嬉しくて、ね。

じゃあそろそろ時間ね。



じゃぁね、リュグ。素敵なホワイトデーを。




・・・・・・・・・・・・・・・・・

『愛してるわ、わえだけの可愛いリュグ』




──────────────



お父様とご一緒にトンプソンに来てみたけれど。




・・・・あらあらあらまぁまぁ。




ふふふふ………。

リュグはモテモテね………。




あんな風に女性に迫られて………

顔を赤くして…………ほんとぉに可愛らしいわね…………。




ふふふふ。




大丈夫よ、リュグ。

彼等を今すぐ殺したりなんかしないわ。



貴方の大切な仲間の想い人なのですから

そんな仲を切り裂くなんて野暮な事はしないわ。



だァって、


『貴方の全てを愛しているのもわえだけなのだから。』



リュグの苦痛、憎悪、怒り、恐怖、狂気、失意、悪意、絶望、殺意。

そして愛も、喜びも、快楽も、幸せも、安らぎも、希望も。

全てすべて、わえだけのモノ。



『生』も『死』も何もかも。

わえの全てはリュグのモノ。



わえの存在はリュグだけの為のモノ。



リュグの全てはわえだけの、

わえの為だけに存在を許されているのよ。



貴方を罰するのも許すのもわえだけよ。



だから、他に愛する人も好きな人も貴方には

必要ないのよ。



あんまり他の人がオイタをしてしまうなら

みぃぃんなアイしてあげる………。



ふふふふ…………もうすぐ…………。

あと少しで。


・・・・・・・・・・

リュグとの約束が叶う…………。



本当はね、わえも貴方に構ってあげたいと

思っていたのだけれど、

駄ぁぁ目、まだお預けね。




フフフフ・・・・・・・。




早くわえの元に

帰ってきてくれるのを待っているわ………。







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