第5話 悪意と絶望~決意

それからしばらくして子供達の白死病の経過観察を行いながら

感染対策を施した状態で仲良く何事も無かったように

まだ症状の軽い状態の子供達とリュグは戯れていた。


その陰で彼女は必死に白死病に関する情報や文献をかき集めれるだけ集め、

以外に効果のある治療薬の研究と開発に力を入れていった。


しかしその努力も無く膨大な魔素の暴走の痛みに叫びながら

灰となって死んで逝く子供達。


その度に彼女は己の無力さと望みも夢も断たれ、絶望に染まっていく子供達の

悲哀に喜びを感じてしまう悪魔の一面の己の在り方を呪った。


そんな中、彼女の屋敷に1人の来客が訪れる。

彼女の元にを送ったオスカーである。



オスカーは目の下に出来た彼女のクマを見て

気遣いの言葉を掛け、彼女から今までの話を聞いた。



するとオスカーはもしかしたらと言う体で

非常に高いリジェネ能力に長けた種族の魚人の力が

使えるのではないかと語った。




幸いにして感染していない無事な魚人はリュグだけだから

彼を使ってしまえばいいんじゃないか?と言い放った

オスカーの言葉に彼女は激しく抵抗し、殺意を剝き出しにした。

自分の愛する人をそんな事は出来ないと言い、今にも一触即発寸前。

だがオスカーはこうも続けて言った。





「まぁまぁ……。落ち着いて話を聞いてくれ、ミネルヴァ。

白死病をどうにかするにしてもだけじゃ限界を感じたんだろう?

あれは蟲毒に近い性質があるって話じゃないか。

毒で免疫組織が破壊されるならばで感情を抑制し、

魚人が持つリジェネ効果を他者に付与し、患者の自己治癒力を高めて

再生速度を底上げすれば良いじゃないか?





     ・・・・・・・・・・・・・・・・・

大丈夫、『相手が死なない程度の事をすれば良い。』







   ・・・・・・

君の『お得意の方法』でね………」









オスカーは続けてこう語った。








「君は『デルカルストロ公爵家』の者。

『絶望公』の名を冠する我等が一体今まで何人の

他種族を食らってきたか、知らないわけではないだろう?

それに君は本来ならばの存在だ。


今更、良心の呵責で正義の英雄ヒーロー

救世主ヒロインになろうなんて無理がある話だ。


君の手は幾億の『罪』に染まっているのだから・・・。

おじさんが知らないとでも思ったかい・・・・?


   ・・・・・

君が『何をしたか』なんて赤子の首を引き千切るのと何ら造作も無いんだよ。


今まで君が殺し喰らってきたモノ、君が堕落させてきたモノ、

君が狂わせ、命も意志も心も尊厳も奪う度に

        ・・・・

その身に快楽と『生の実感』を得るのもその全て、『君のせい』なんだよ。


……それに兄さんが君が大切にしているその白馬の王子様リュグ君の

出自を知ったどうするなんて分かっているだろう?


君の誰かを助けたいと、救いたいと願う思いはおじさんも痛い位、分かるさ。

おじさんも家族を白死病で亡くしたからね……。

だから本当に大切なモノを助けたいなら





ためらってはいけないよ、






         ・・・・・・・

        『可哀想な聖女様』。」







その日、彼女は自分の父親であるデルカルストロ公爵の家序列1位であり現当主の

『エドモンド・λ《ラムダ》・デルカストロ』に本家へ来るようにと呼び出しされた。



本家の父親の書斎に通され、其処で久々に顔を合わせた娘の彼女の顔を

エドモンドは手にしていたステッキで殴りつけた。

殴られた力強い衝撃と痛みに顔を顰める彼女を冷酷な視線で見つめるエドモンド。




「……お前の屋敷に居る白髪の魚人の子供について調べさせて貰った。

その者の父は大英雄ヴェルト。

二十年前の戦争で我等魔王軍サイド種族達を大勢を殺した大罪人の一人息子。

しかも万姫が名付けた直弟子とはな……。

これも『必然』か………。

ミネルヴァよ、今更知らなかったなどの言い訳は通らぬ。

………何故その者と共にいる?」




彼女は全てを隠さず語ると父エドモンドからの残酷な言葉が放たれた。



「ミネルヴァよ。

その子供を殺されたくなければ、条件がある。

新たなる魔王様が顕現なさる為にもそいつを此方サイドに引き入れ、

次代のクトゥルフの神託保有者の器として利用出来るようにしろ。

アースラの呪印が刻まれているならば、良い器として利用可能だろう。


そして孤児院に居る白死病にかかった奴らを使って白死病の研究材料として扱え。

何、例え死んで灰になったとしても使い道は幾らでもあるだろう。


それが出来ないならばお前も、あの子供もお前の大事にしている孤児院も

全て『粛清』する。


此処で今、決断しろ、『聖女ミネルヴァ』。

殺されるか、生かすか。


選ぶのは『お前』だ。」





彼女にとって父親は絶対的な恐怖と畏怖と畏敬の存在。

貴族の家に生まれた者は決して家長である父親には逆らう事は出来ない。

逆らえばどのような末路を辿るか、言わずとも分かる事である。



其処へ異様に明るい声でエドモンドに

待ったの声を掛けるオスカーが言葉を放った。





「まぁまぁ、兄さん。

此処で性急に決断させるのは流石に酷だと思うよ、おじさんは。

事情を酌んでやって少し考える時間を与えても良いんじゃない?

嗚呼、その時間は我等を欺き、隠していた事への罰を受けて貰えば良いさ。

その間にきっと考えも決まるだろうし。

嗚呼、大丈夫。

ミネルヴァにピッタリな罰はもう考えてあるんだよ。











そう。





 ・・・・・・・・・・・・

『汚してしまえば良いんだよ』。」






そう言って本家の地下室に連れてこられた彼女は

オスカーの命令で動く彼の直属の部下達によって激しい暴行と凌辱を受けた。




殴られ、蹴られ、踏み付けられ、骨を折られ、砕かれ、肉を抉られ、削ぎ落され、

食われ、甚振られ、犯され続けた。





どの位時間が流れただろう。





重い瞼を開けるとその部屋に残されていたのは全裸の彼女の姿があった。

血と吐瀉物と体液に汚され、傷や打撲、裂傷と火傷だらけの全身を蝕む痛みに

耐えながら身体を引きずって脱ぎ破り捨てられた服を着て

夜の冷たい降り続く雨の中、自宅へ帰っていった。




雨に濡れた冷たい身体で荒い呼吸と痛みに耐えながら屋敷に戻り、

自室に入ると彼女は自身の部屋の鍵の掛かった棚の中に閉まってあった

小さな箱を開けた。





其処に入っていたのはあの日リュグに貰った指輪を付けた彼女の左手の『薬指』。

父親に名指しで呼び出された時に、こうなるだろうと言う予感は感じていた。

だからこそ、事前に自らの指を引き千切って箱に入れて隠していたのだ。



彼女はそっとその指の入った箱を抱き締め、ベットで一人、すぅすぅと寝息を立て

深い眠りについて横になっているリュグの顔を見つめた。



彼女の脳裏に木霊する父親の呪いのような言葉が響く中、

ボロボロの手でリュグに触れた彼女の瞳から一滴の涙がぼれる。






「………愛しいリュグを。

リュグの大切な愛しい家族のあの子達も、

決して殺させない、死なせないわ………。

誰にもあの子達を、リュグを穢させない………。」







死に勝る程の汚辱も恥辱も苦痛も。

彼女の中で孕み続け、育つ狂気も。

この身を覆いつくす己の底知れぬ闇と悪性も。

幾重にも幾重にも折り重なって腐らせる泥に塗れても。






嗚呼、それでも。








たった一つのこの『想い』だけは、誰にも犯せない、犯させない。

例え、リュグに恨まれたとしても。

例え、リュグに憎まれたとしても。








「フフフフッ…………そうね、わえ………。

誰よりも大切なリュグを守る為なら、リュグの大切な家族を守る為なら

幾らでも仮面を被りましょう。

幾らでも『嘘』を吐きましょう。


お父様も、叔父様も、社会も何かもを。

リュグも…………。

全てを欺き、偽りましょう。



愛しいリュグの為ならば、喜んで『魔性』に還りましょう。



リュグとの『あの日の想い出』があればそれだけで

わえは生きていけるのだから………。」


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