第4話 幸福と孤独~悲劇のハジマリ

翌朝、彼女はリュグの手を引かれて孤児院を訪れ、子供達と共に

ささやかな誕生日パーティーを祝った。

皆で歌を歌い、ケーキや料理を食べ、彼女は孤児院の

子供達全員からのプレゼントとして小さな『オルゴール』を受け取った。



「(嗚呼・・・・・。こんなにもわえは【幸福】なのに、

世界はこんなにも美しいのにわえの心は曇ってしまうのかしら………。

愛しているのに。リュグに愛されているのに。

如何してこんなにも。

泣きたくなるほど胸が切ないのかしら………?)」











―――――誕生日パーティーを終えたその日の夜。

『悲劇』は起きた。




その夜、リュグが寝静まっている間に孤児院の職員から緊急の連絡を受け、

駆けつけた彼女の目に映ったのは灰となって死んで逝く一人の子供の姿だった。







――――『白死病』。







この世界の者ならば誰もが持つ魔素に対しての

免疫器官を破壊する毒性感染症。

二十年前の大戦の負の遺産。

治療法の存在が無い不治の病。




此処に連れてこられた子供達は皆、奴隷として売られてきた者ばかり。

恐らくは奴隷として売られてきていた自分達も気づかぬ間に感染したのだろう。

目に見えぬ未知の恐怖と脅威。




すぐさま他のまだ元気がある子供達を集め、検査を行ったが時すでに遅く、

自分とリュグ以外の子供達全員が感染してしまっていた。


その日から必死に感染対策を行い、懸命な医師と共に治療に携わって

寝る間も惜しんで看病を行うにも関わらず、彼女の前で子供達は力なく日々弱って

ひとり、また一人と灰になって死んで逝く。



彼女はこれ以上の被害を出さない様に孤児院を閉鎖し、生き残っていた

十人の子供達を連れて屋敷の地下室へと隔離した。


隔離された部屋で医師と共に懸命に治療を施した。

しかし、溜まり過ぎた魔素を弱める為の対症療法の薬はもう効かなくなっていた。



手の施しようが無く、病の苦しみに喘ぐ子供達。

リュグにとってこの孤児院で出来た大切な友人達。

種族も身分も超えて笑い合う大切な『家族』と呼べるべき

リュグの最後の心の枷。







どうしても、どうしても。

死なせたくない。








「(この子達を生かす方法。

どうすれば良いか、考えろ、考えろ、考えろっ!!!

思考を途切れさせるな。

諦めるな、何か方法がある筈だ・・・・!!!)」







しかしそんな想いも虚しく白死病の進行は止まらず、

子供達を蝕み続けていく。



そんなある日、彼女の元に小包が届く。


その差出人は『デルカルストロ公爵家』の序列第2位であり

彼女の叔父。

『オスカー・χ《カイ》・デルカストロであった。


オスカーから送られてきた包みの箱に入っていたのはと呼ばれる薬であった。



とは白死病の治療の目的で使われる、発症者の感情を働きかけて

脳の感情を司る器官に対して抑制する効果のある麻薬である。

白死病を無くす事は出来ずとも症状を抑える事が出来ると言う謳い文句で

流通されているものであった。


しかしその薬を摂取し続ければ、身体と精神に異常をきたして最終的には

廃人となってしまう代物。




その送られてきた薬と共に同封されていた手紙にはオスカーが

彼女が白死病の治療に尽くしていると噂で知って一時的であっても白死病に

対して効果を和らげさせるのではないか。と考えてこれを送って来たと

経緯が綴られていた。



彼女はアハンの入った瓶を手に苦悩する。

確かにこれがあれば、いくらか治療には効果があるだろうが

しかし、弱っている死にかけている子供達に

こんな麻薬を与えてしまったらどうなるか、

使った後のリスクも高い。






でも、けれど。






迷って悩んでいる暇も時間も無い。






やるしかない。








それに。







「………『ヒトを助けるのに理由なんて

     要らないのよ、そうでしょ、わえ。』」






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