第20話:逃亡準備

 王侯貴族に連れ去られて、無理矢理働かされるかもしれないと言われた時は、とても不安になった。


 でも、お父さんとお母さんが、何があっても助けてくれると言ってくれたので、物凄く安心できた。


 前世でもこの世界でも、とても愛されていると分かってうれしかった。

 だからこそ、お父さんとお母さんに甘えてはいられない。

 妹たちのお父さんとお母さんを僕が取る訳にはいかない。


 僕がここにいるから、王侯貴族に狙われるのだ。

 僕がここにいなければ、王侯貴族に狙われない。


 だったら予定よりも早く旅に出ればいい。

 直ぐにでも旅に出られるように、全力で準備する!

 

 昔、と言っても去年までだが、僕が神与のスキルをもらう前は、貧しかったけれど、平和に暮らせていた。


 その頃に比べたら畑がとても広くなっているし、村近くの果樹林も多くなった。

 武器も農具も良くなって、高く売れる薬草の備蓄もある。


 僕が村からいなくなっても大丈夫だと思う。

 元々大きくなったら世界中を旅する心算だった、それが少し早くなるだけだ。

 親孝行できないのは心残りだが、妹たちから親を奪うよりはいい。


 僕は家族のために、長期保存できて価値のある薬草を沢山生長させた。

 眠れば魔力が回復すると言って、朝に村共用、昼と夜に家用を生長させた。

 

 それと、村を守るために木の壁を作れるようにした。

 奥山に生える巨木を守るように張り巡らされた根の壁、それを村の周りに張り巡らせる準備をした。


「ビルド・ア・ウォール・オブ・ルーツ」


 奥山で実際にやれるか試したが、簡単に成功した。

 あまりにも簡単にできたので、少し気が抜けたくらいだ。

 ただ、この魔術は元になる巨木も生長させないといけないのが分かった。


 次に試したのが、お父さんとお母さんから絶対に触るな言われた、猛毒を持つ毒イバラで壁を作る事だった。

 毒イバラの壁で村を覆えば、王侯貴族が来ても大丈夫だと思ったのだ。


「ビルド・ア・ウォール・オブ・ポイザナス・ソーン」


 これも簡単に成功した。

 魔力もほとんど使わなかったので、事前に用意する必要もない。

 王侯貴族が襲ってきた日にやればいいだけだ。


 いや、王侯貴族が来る前に村を出た方が良いかもしれない。

 そうするなら、毒イバラの件を父さんとお母さんに言っておかなければいけない。

 猛毒のイバラで村覆うのは危険かもしれないから


 家族のための高価な薬草を蓄えて、村を守る方法も見つかった。

 後は自分の度に必要な物を用意するだけだ。

 以前考えていた、水や穀物の代わりになるような野菜だ。


 前回行商隊が持って来てくれた野菜の種には、僕が最初に頼んでいた甘くて酸っぱい野菜があった。


 生でたべられて水分も多いストロベリー、スイカ、メロンを手に入れた。

 何度も木属性魔術で生長させて、共用、家用、僕用の種を確保した。


 もちろん、薬になる実が取れる果樹の種は用意してある。

 食べて美味しい実がなる果樹の種も用意している。


 特に僕の神与スキル、木属性魔術と相性が良い、スモモ、麻、ゴマ、ニラの種はたくさん用意した。


 そしていよいよ行商隊がやってきた!

 鋼鉄の剣を持ったお父さんたちが、緊張した表情で迎えに行く。

 何時もと違って馬に乗っているのは、戦いに備えるためだと言っていた。


 王侯貴族の手先がいたら、戦う覚悟だと言っていた。

 僕もバレない程度に、身体に魔力をまとわせて追いかける。


 王侯貴族の手先が一緒だったら直ぐに毒イバラの壁を作らないといけない。

 村の人たちが生きて行けるように、里山まで囲む広大な壁だ。

 畑だけを囲んだら、煮炊きのための薪が手に入らなくなるから。


 ……今回は、王侯貴族の手先はいなかった。

 いつも通り、50頭の牛が山のような荷物を背負った隊商だけだった。


 隊商が村に入った後も、3人の戦闘役が道を見張ってくれている。

 村の見張り台にも人が立ってくれている。

 僕はお父さんと一緒に買い物の勉強だが、村を出ようとしているのに……悪い。


 最初はいつも通りフィンリー神官と行商隊代表の値段交渉だ。

 激しい言い合いになったが、以前よりも怖くなくなっている。

 この言い合いが、信用しているからこそ出来る事だと分かったから。


「これほど多くのエリクサー薬草を用意しているとは思わなかったぞ!」


「こちらも逃げる準備をしなくてはいけないからな?」


「ここまで開拓した村を捨てる気か?」


「捨てたくはないが、仲間を差し出すくらいなら村を捨てる。

 逃げて生きて行けないのなら、涙を流して仲間を売り渡すが、今ならどこに逃げても生きて行けるからな」


「そうか、羨ましい話しだが、こちらがこれだけのエリクサー薬草は買えないと言ったらどうする心算だ?」


「前回の約束を破って買い取れないと言うのなら、こちらも約束を守らず、他に売るだけの話だ。

 薬種商会や冒険者組合ならお前達よりも高値で買ってくれるだろう?」


「ふむ、買いたい気持ちはある、あるのだが、約束よりも多いと金が足らない。

 ここを隠すには、直ぐに売らずに多くの都市や村を巡らないといけない。

 それまでは買い取った金の回収ができない」


「売った分は全部買う、と言いたいが、今回はそれも無理だな」


「ああ、そちらが欲しがった馬用の鎧や鋼鉄の剣が手に入らなかった。

 次までには用意できるが、それまでは売れる物が少ない」


「しかたがない、約束通りのエリクサー薬草を買い取ってくれ。

 その代わり、今回は金で支払ってもらう事になるぞ」


「分かっている、馬鎧と鋼鉄剣が用意できなかった時点で覚悟していた」

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