教皇アメスティア
第249話 教皇拝謁
十四時少し前に、コウ、エルフィナ、ティナ、ランベルトは聖堂の入口に向かった。
大聖堂がある場所は大きく開けていて、おそらく差し渡し
聖堂の形状は朝見た通り、いわゆる段々型ピラミッドのようだ。
ただ、地球のそれと大きく異なるのが、全体が円形であること。
そして、一つ一つの段の高さはおそらく
段の数は十ほどあって、その先は滑らかな曲線を描いてから、あの天井を貫く尖塔『光の
つまり、この聖堂の、尖塔以外の部分だけで高さは
それでも、基部が段違いに大きいので、全体としては平べったい円錐に見えなくもない。
「あらためて近くに来ると、本当に大きいな。帝都の神殿もでかいと思ったが……」
「ホントですね……なんていうか、ここが神殿の中心だと納得させられます」
コウとエルフィナは半ば唖然として見上げた。
朝、遠目にみたのとはまた違う、圧倒的な迫力を感じる。
「帝都のそれとは種類が違うからな。さて、入口はあっちだ」
聖堂のある広場は、建物以外のところは石畳と背の低い草のある場所で道が出来ていて、開放感のある場所だった。
本来であれば空を見れば岩があるのだろうが、当然この場所でも空が天井に映っていて、特にこの広い場所だと地下であることは意識しても忘れそうになる。
コウ達がしばらく歩くと、入口に到着した。
入口は巨大な扉で、幅は一枚で
その両側に警備なのか、得物を持った神官が二人立っていた。ただ、その得物自体は、先端に刃などがない、ただの棍棒のようにも見える。
「ようこそ、大聖堂へ。巡礼者……ではないですね。あなたは?」
「私は帝都ヴェンテンブルグの神殿長ヴィクトルの子、ランベルトと申します。此度は、
そういうとランベルトは、ティナの方を見て前に出るよう促す。
そのティナは、正式な神官衣――といってもサイズがやや大きいが――を纏っており、おずおずと進み出ると、先ほどの封書を示した。
「これは確かに神殿からの招待状。ということは貴女がティナ様ですね。お待ちしておりました。どうぞお通り下さい。すぐに、案内の神官が参ります」
そういうと、巨大な扉が開き、四人は中に通される。
「ずいぶん仰々しいと思えたが、誰でも気軽に来れるというわけではないのか?」
「正面から来るのは、基本巡礼者か私たちのような客人だ。なので身分を確認されるわけだな。巡礼者の場合は対応が決まってるんだが、私がいたから、何者か、という確認がされただけだ。ちなみにここに勤めている神官は別に入口がある」
「なるほどな」
神殿に入ると、少し通路が続いた後、大きな空間に出た。
奥行きは
ただ、何より驚くのは天井の高さ。
軽く
「ここは待合室だ。すぐ案内が来ると言っていたが……」
これで待合室かよ、と思ったのは多分コウだけではなく、エルフィナもティナも思ったらしい。
呆気にとられた様子で部屋を見回している。
どこに光源があるのか分からないが、部屋全体が明かるい。
壁には神々を描いた壁画があり、部屋の前後左右で、それぞれの四大神が描かれているようだ。正面が、最も信仰されているアラス神だろう。
部屋の広さは一辺が
それぞれの壁の中心に扉があり、背後のは今入ってきた扉。
それと正面にある扉がサイズが大きく、左右の壁にある扉は少し小さい。
部屋全体は白を基調とした色で統一されているが、無造作に置かれているソファのような椅子が、逆に安心させる空間になっていると思わされた。
あるいは配置も計算されているのかもしれない。
待ち合わせの場所というのは事実のようだ。
すると、右手の扉が開いて、神官衣を着た人物が現れた。
年齢的には三十歳程度と思われる茶色の髪の女性だ。
「ようこそファリウス大聖堂へ。私は案内をさせていただく、神官のネーゼと申します」
そういうと、ネーゼと名乗った神官は深々と頭を下げる。
四人もつられて頭を下げた。
「ネーゼ殿、お久しぶりだ。覚えてくれているだろうか」
するとネーゼと名乗った女性は嬉しそうに相好を崩す。
「ええもちろん。あのやんちゃな子が、こんな立派になって、お姉さんは嬉しいですよ」
「……やんちゃ?」
三人――コウ、エルフィナ、ティナ――が全く同じ言葉を紡いで、ランベルトを見る。
「ま、待ってくれ。そんな十年前の話を今ここでしなくても」
「そうですねぇ。獣狩りに出て、一人で突撃して迷子になったとか、吹雪の中、救助を待つ人を助けに行くと言って逆に自分が遭難したりとか、立派なのですが向こう見ずなところはもう治りましたか?」
ランベルトの顔が紅潮している。
一方のネーゼはというえば、クスクスと笑っていて、それからティナの方に向き直った。
「ようこそ。あなたなティナ様ですね。遠く、長い旅路を、本当にお疲れ様でした」
「あ、はい。ありがとうございます」
ネーゼは少しかがみこむと、ティナと視線の高さを合わせた。
「幼い頃のアメスによく似てますね、本当に」
「ネーゼ殿は
「ええ。私と彼女は同郷でね。神殿に入った時も一緒だったんです。彼女が次の
ネーゼはそういうと、懐かしむように目を細める。
「髪の色も目の色も違うけど――」
「あ」
言われて、ティナが慌てて髪飾りを外した。
とたん、ティナの髪と瞳の色が変化する。
「……馴染み過ぎてて忘れていた」
ランベルトがしまった、呟いていた。
「あらあら。では髪の色はアメスと同じなのね。瞳の色は異なりますが、とてもきれいですね」
そう言ってから、ネーゼは立ち上がって一行を振り返る。
「では参りましょう。
ネーゼはそのまま正面の扉を開いた。
神殿の入り口同様、高さ
通路の途中、いくつか左右に扉があるが、それらに寄ることはなく、ネーゼはまっすぐに進むと、
ネーゼはその扉を押すと、やはり先ほどと同じようにゆっくりと開き――。
「すごい――」
ティナが呆然と、それだけを発した。
そこは、巨大な空間だった。
部屋の形状はおそらく円形で、その直径は軽く
驚くべきはその天井の高さ。
全体が非常に明るく、光源が天井にあるのか分からないが、天井はむしろ霞んで見えなくなっている。
おそらく、高さ自体
壁がわずかに傾いているところから、おそらくこの空間の形状それ自体は円錐なのだろうが、だとしてもあまりにも巨大だ。
その中心に周囲より一回り高い台座があり、その台座の周りは青い絨毯が敷き詰められている。
その上に、無数の長椅子が置いてあった。
「厳密に言うなら、ここがファリウスの『大聖堂』となります。そして、あそこにいらっしゃるのが、
言われて、聖堂の中心を見ると、その台座の手前に、神官衣をまとった人物が立っていた。
距離はまだ
そしてその人物は、ともすると少し駆け足でもするかのように近付いてきた。
慌てて、ネーゼが一行を促してその人物に近寄る。
結果、ほぼお互いの中間のような場所で合流することになった。
(これが、
頭には額冠と髪飾りがあるだけで、特に地球の司祭の様に帽子をかぶっているわけではない。
白を基調とした神官衣はさすがに装飾が多いが、装飾過多という感じではなく、自然と権威を示すようなデザインになっている。
全体的なデザインは、むしろ日本の巫女服に近い印象だ。
これはティナやネーゼも同じだが、ランベルトは普通に少し裾の広いズボンなので、これは男女のデザインの違いだろうか。
髪は非常に長く、色は黒。ただ、瞳の色は鮮やかな緑色だ。
現在二十七歳とのことだが、確かにまだ若い。
ただその一方で、その雰囲気は到底若いとは思えず、威厳を感じさせるものでもあるが、同時に親しみやすさすら感じる。何とも不思議な雰囲気の女性だ。
「ネーゼ、案内ありがとう。そして――貴女がティナさんですね」
「は、はい」
ティナが緊張した面持ちで答えると、アメスティアはむしろその緊張を和らげるかのように、柔らかく微笑む。
それはとても、人を安心させるものなのだが――。
(なんだ――?)
なぜかコウは、そのアメスティアの姿に、わずかな既視感を覚えるのだった。
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大聖堂の空間のサイズ感は『リオデジャネイロ大聖堂』で検索してみてください。
このメトロポリタン大聖堂の広さは、単純な床面積の広さではバチカンやケルンの大聖堂には及びませんが、とにかく圧倒されるのがその空間の広さ。
直径100メートル超、天井高も100メートル近いというでたらめさで、しかも柱なし。コルコバードのキリスト像やポンジアスーカルの奇岩、マラカナンスタジアムなどが有名な街ですが、あの大聖堂も一見の価値があります。
この大聖堂はそのイメージです。まああっちは全体としては暗かったですが、こっちはそれでさらに明るいです。
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