第163話 帝都へ
二月中旬に差し掛かった頃。
コウとエルフィナは、ドルヴェグの外門の前にいた。
一緒にいるのは、ガルズだ。
時刻は九時過ぎ。街が動き始める時間である。
「長く世話になった、ガルズ。本当にありがとう」
「何。こっちも色々話は聞かせてもらったし、お互い様だ。お前さんらの様な優秀な冒険者との人脈ってのは、俺らにとっちゃ何よりの宝だからな」
ガルズはそういうと、ニカ、と笑って手を出してきた。
それをコウは握り返し、続いてエルフィナも同じように握手する。
「それにこれも……助かるよ」
コウはそう言って、『証の紋章』を取り出した。
その、冒険者のランクを示す刻印の右にあるのは、ドルヴェグ王国の紋章。
このドルヴェグに自由に出入りできる身分であることを示す刻印だ。
「何。また来てくれと言って、入れないとか笑えないしな。お前さんらは信頼できるというのは、ドルアーグからも聞いてる」
「……ふと気になったんだが、ドルアーグって、もしかしてグライゼル王と知り合いだったりするのか?」
ドルアーグの年齢は分からないが、元冒険者であるのはほぼ間違いなく、そして
かつて冒険者だったというグライゼル王だが、その即位は実に百二十年前。あるいは、ドルアーグはグライゼル王の冒険者時代を知っているのではという気がした。
「おお。そうだな。俺も詳しくは知らないが、グライゼルの仲間だったとは聞いたことがあるぞ」
「なんか知り合った
やはり、という感じでエルフィナが呆れたように呟く。
「ヴァングは……まあ昔からの馴染みではあるがな」
「……知り合いでしたね」
「そうらしい。世間は狭いというやつか」
というよりは、この街の人々の輪が広いのだろう。
それだけまとまりがある街ともいえる。
「さて、この季節は寒いから気をつけろよ……って、お前さんらなら大丈夫だろうが、たまに雪が降って吹雪くこともあるからな。用心は怠るなよ」
「ああ、ありがとう。多分大丈夫だとは思う」
「まあ、真冬のロンザス越えてくるお前さんらにはいらん心配か。またいつかドルヴェグに来たら、是非訪ねてきてくれよ」
「ああ。近くに来たら必ず」
「おぅ。まあ俺がいないこともあるだろうが……ディネイラはいるから、遠慮なく訪ねてくれ」
「ディネイラさんにもよろしくです。いつも美味しいお食事をありがとうございましたって」
「おお。ディネイラもいつもたくさん食べてくれて嬉しかったと言ってたからな。次はもっと張り切ると思うぞ」
一度「あれにお酒まではいって一晩中飲み食いされたら困りましたが」などと言っていたことがあったが。
「じゃあ元気でな。帝都は……まあすげぇぞ。この街が小さく見えるからな」
「二百万人都市……だったか。ちょっと楽しみではある」
人口二百万もの都市となると、地球、日本でもそう多くはない。
というより、首都圏、名古屋圏、大阪圏の三大都市圏でしか存在しないだろう。札幌がどうだったか、というくらいのはずだ。
それだけに、この世界でそれがどのような光景になるのか、というだけで楽しみではある。
「おう、楽しんでこい。まあ、皇帝が『待ってる』ってのはちょっと怖いがなぁ」
「そうだな……とりあえず、気にしないことにするよ。何かしろとかは言われたわけではないしな」
あれ以後、帝国の関係者がコウやエルフィナに接触してくる気配はなかった。
一応見張られていたりしないかという警戒もしてみたが、その様子も全くない。
ちなみにあの後、グーデンスは帝国領事館で一泊後、翌日にグライゼル王に謁見した後、その日のうちにドルヴェグを去っている。
「考えても仕方ないだろうと思うから、気にしないことにするよ。気にしても対処のしようもないしな」
「そうだな。ま、そう悪いことにはならんだろうしな」
過剰に警戒しても、いいことはない。
アルガンド王国の様な関係はあまり望めない気はしているが、実際、こちらに害意があるということは、あまり考えられない。
現状気にしても仕方がない。
「じゃあ、そろそろ行く。ガルズも元気でな」
「おぅ。またどこかで会おう。俺もあちこち行くから、もしかしたらどこかでばったりってのもあるしな」
その挨拶を最後に二人は歩を進め、山を下りる道に入っていった。
目指すはヴェンテンブルグ。
大陸最大の都市であり、大陸最大の国家、グラスベルク帝国の帝都。
その桁外れの大きさから、単独で一つの国とも称されるその街。
冬の晴れ渡った空は陽光で美しく輝き、二人の道を祝福してくれているかのようだった。
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というわけでドルヴェグ編終了です。
次話はいつもの解説資料となります。
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