第13話水族館デート。導編

二番目の相手である導とのデートの時間がやってくる。

彼女は甲殻類のコーナーで足を止めると興奮しきった表情で口を開く。

「エビもカニも好き!」

どう考えても食べるのが好きであり鑑賞するのが好きだとはどうしても思えない。

「買って食べることは出来ないよ」

呆れた様子で冗談めいた言葉を口にすると導は残念そうな表情を浮かべる。

「食べたかったのに…」

「そもそも食用では…」

「今はマジレスは良いの」

どうやら導は冗談を言ってたようで僕は少しだけしてやられた気分になる。

導は続けて口を開くと質問が飛んでくる。

「魚介類は好き?」

「それは食べる場合?観る場合?」

「もちろん食べる場合」

結局食べる話にすり替わっており苦笑の表情を浮かべると一つ頷いた。

「じゃあ帰ったら美味しい店知ってるから行こ?」

「喜んで」

「肉とどっちが好き?」

どういった意図の質問なのか分からずに少しだけ首を傾げると導は真剣な表情を浮かべていた。

「お肉かな…」

何故かそう答えるのがベストだと直感的に思った。

「合格」

導は手を繋いでいた僕の手の甲にハンコを押すような仕草を取る。

何に合格したのか僕には理解できなかったが一応感謝を告げる。

「ありがとう?」

若干の疑問形ではあったのだが導は感謝を受け取ると嬉しそうに微笑んだ。

未だに手を繋いでいる状況に少しだけ戸惑っているのだが導は気にも留めていないようだった。

「水族館に来るとお腹空く」

「朝食あんなに食べたのに?」

「あれぐらい序の口」

「凄いね…」

「一時期フードファイターを目指してた」

「ホントに?」

衝撃の事実に目を見開いて尋ねると導は笑顔のまま頷いた。

「今からでも動画投稿とかすれば?凄い量食べるじゃん」

「そうかな?上には上がいるでしょ」

「そうだけど…導も十分すごいよ」

「ホント?褒めてくれてありがとう」

「褒めたのかな…まぁ良いか…」

呆れたような表情で諦めてやり過ごそうとすると導は続けて口を開く。

「幼い時。いっぱい食べると褒められた。だからその癖が抜けてないのかも」

「両親に褒められたの?」

「そう。見ての通り身体が小さいから。いっぱい食べないと大きくなれないよ。って言われてたんだけど…全然大きくならなかったや」

「遺伝とかもあるでしょ。どうしようも出来ないことはあるよ」

「そうだね。両親も大きくないから」

それに頷いて応えると導は僕の目を真っ直ぐに見つめて問いかけてくる。

「小さい女性は嫌い?」

そのストレートな言葉に少しだけ息を呑むと首を左右に振るので精一杯だった。

「そっか。良かった。でも…私以外の小さい女性を好きにならないでね?」

導は最後の部分を誂うような表情で言うと僕の手を離した。

導と繋がれていた手が離れて少しの寂しさを覚えていると彼女はスマホを取り出した。

「交代の時間だから。また後でね」

導は僕に手を振るとそのまま水族館の奥へと進んでいく。

代わるように花音が姿を現すと館内のカフェで買ってきたであろうアイスコーヒーを僕に手渡した。

「三番目は私。三十分って短い時間だけど…よろしくね」

それに頷いて応えると花音との水族館デートは始まるのであった。

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