第12話水族館デート。鏡子編

「私は最後でいいよ。運転中も皆よりは話せたし」

瑠璃は遠慮がちに口を開くと他の女性陣に順番を譲っていた。

「最後のほうが印象に残りそうだけど?」

導の一言で他の女性陣も頷いて応えた。

「じゃあ私は何番目でも良いよ」

瑠璃は善意から最後を名乗り出たらしく、そこには打算的な考えはなかったようだ。

「そう言われると…私が悪いみたいじゃん」

導は軽く拗ねるような表情を浮かべるが、瑠璃に笑顔で首を左右に振られて無理矢理にも機嫌を直しているようだった。

「じゃあ瑠璃が最後ね。最初は私でいい?」

鏡子が挙手すると導と花音はもう何も言えずに頷くだけだった。

ここからは早いもの勝ちの様で導が手を挙げて二番目を勝ち取り、花音は残った三番目となった。

「じゃあここから別行動ね。後を追うのは禁止。個別行動で起きたことは後で話そ」

鏡子の提案に女性陣は頷くと僕と鏡子のデートは始まるのであった。


水族館の中に入って一番目立つ大きな水槽の前で足を止めた。

「昨日あれだけお刺し身を食べた後に水族館でお魚を見るって…人間って可笑しいね」

鏡子は笑顔で冗談でも言うように口を開く。

「人間が一番怖いって話?」

「そんな話はしてない」

乗っかるように冗談を返すがスパッと一刀両断される。

そこで僕らは軽く微笑むとじゃれ合いのような会話は続いていく。

「昨日の導の話は真に受けないでね?」

「真に受けてないよ。楽しい飲み会だったね」

「女将さんにぶん投げられなくてよかったよ」

「投げられたことあるの?」

「それはナイショ」

鏡子は無表情を浮かべるとバッサリとその話題を切った。

「旅行楽しめてる?」

それに頷くと大きな水槽で自由に泳いでいる魚を見て癒やされていた。

「こんなに癒やされるのは久しぶりかな」

「そうなの?元カノと一緒に居る時は癒やされなかったの?」

「そんなことはないよ。でももう完全に終わったからね」

「思い出させたいわけじゃないんだけど…。今は楽しい?」

「皆といると楽しいよ。一人になると辛いと思うけど」

「じゃあなるべく一人にはしないね」

鏡子が僕を慰めるような言葉を口にして感謝の念を抱く。

「ありがとうね。皆には本当に助けられてるよ」

「何もしてないけどね。私達が好きなことをしてるだけだから」

「それでも。救われているから」

「そう。それなら良かった」

鏡子は嬉しそうな笑顔を僕に向けてくる。

それを真正面から受け止めると、しばらく無言の状態で大きな水槽を眺めていた。

鏡子と過ごした時間が三十分程経過した所で彼女のスマホが鳴り、交代の時間がやってきたようだった。

鏡子は導と交代するように水族館の奥に進む。

次に来た導は鼻息荒く姿を現すと真っ直ぐにこちらまで向かってくる。

「じゃあ二番目は私だから」

導はそう言うとおもむろに僕の手を掴んだ。

そのまま流れるように手を繋ぐと導との水族館デートは始まるのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る