第11話水族館まで
朝食を終えて女性陣が準備を済ませると揃ってホテルの外に出る。
「レンタカー借りに行くよ」
瑠璃は僕らを先導すると近くのレンタカーショップまで向かった。
五人で乗れる乗用車を一台借りると瑠璃が運転席に腰掛ける。
「彼方。助手席座ってよ」
「土地勘のある鏡子の方が良いんじゃない?」
助手席が特別嫌だったわけではないのだが瑠璃に一度提案をする。
「車のナビもあるし大丈夫でしょ。もしも必要になったらスマホのナビを使ってくれる?」
「わかった。じゃあ隣失礼します」
助手席のドアを開くと席に腰掛けてシートベルトを締める。
他の女性陣も後部座席に乗り込むと流れるような手付きでシートベルトを締めた。
「じゃあ出発〜」
瑠璃の陽気なテンションに導かれるように僕らは軽く合いの手を打つと、この先に待っている水族館を楽しみに待つのであった。
「それでさぁ〜…」
後部座席に座る三人は会社で起きた他愛のない会話などをして過ごしている。
瑠璃はバックミラーでそれを視認しているようだった。
しかしながら瑠璃は運転に集中しており僕も邪魔になるようなことは出来るだけ避けていた。
「何で黙ってるの?また嫌なことあった?」
真正面を向いている瑠璃に唐突に話しかけられて軽く驚いてしまう。
「いや、運転に集中していると思って」
「集中してるけど運転好きだから」
「そうなんだ。普段も運転するの?」
「するよ。元カレが免許持ってない人だったから」
「へぇ。今日も僕に運転を任せなかったのはその癖が抜けないから?」
「そうかも。どの男性とデートしたとしても運転は私がするものだと思ってるかな」
「珍しい気がするね。助手席に座っていたいものなんじゃないの?」
「今、座ってみてどんな感じ?意外に居心地悪い瞬間って無い?」
「あるかも。話して良いのか分からなかったし。何かすることは無いかな。とか全方位に視野も広げないといけないし」
「そんなに運転下手じゃないよ。もう気を抜いても大丈夫だよ」
「そうは言われてもね。もしものことを考えるよ」
「大人だね。元カレはいつも寝てたよ」
「酷いね…」
「彼方の境遇に比べたらマシだよ」
瑠璃は何気なしにそこまで会話をして一度息を呑んだ。
赤信号で車が停止した時に瑠璃はこちらを向くと必死に謝罪をしてきた。
「ごめん。傷口を抉るつもりはなかったの。本当にそんなつもりで言ったわけじゃないから…」
「大丈夫。気にしないで。前見て。青になるよ」
完全に何でも無い様な表情を浮かべることが出来ただろうか。
僕のことで瑠璃を傷つけたくない一心で気にしていない体を取ると急激に話題を変更した。
「そう言えば…皆は休みとるの大変じゃなかった?」
後部座席の女性陣にも話を振ると彼女らは口々に文句を言っていった。
「課長に色々言われたけどシカトした」
鏡子は舌でも出す勢いで戯けた表情をする。
「私もオツボネに色々詮索された」
花音も表情をしかめるとやれやれとでも言うようなジェスチャーをする。
「セクハラじみたことも言われてたよね」
導は窓の外を眺めながら頬を膨らませていた。
「彼方はどうだったの?上司に何か言われた?」
瑠璃が話を振ってくるので僕は首を左右に振る。
「事情を知ってくれている上司だから。今は休めって快く許してくれたよ」
「そうなんだ…」
再び重苦しい雰囲気が流れてきてしまい僕は彼女らに謝罪をする。
「ごめんごめん。僕こそそういうつもりじゃないから。重い雰囲気はやめようよ。楽しい旅行なんでしょ?」
彼女らに問いかけるとそれぞれが何かを察したらしく頷くと再び他愛のない会話は始まるのであった。
車に乗ってから三十分も経過した辺りで水族館の駐車場に車を停める。
「皆、一対一で彼方と話したいと思わない?」
瑠璃の言葉に女性陣は頷くとタイムテーブルを組んで彼女らと個別で水族館を周ることが決まるのであった。
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