第10話朝食バイキング
早朝の散歩を終えると夢で感じていた嫌な気分も何処かに吹っ飛んでいるようだった。
鏡子は部屋に戻ると瑠璃を起こすようだ。
僕は花音に電話をかけて起こすというモーニングコールじみた役目を仰せつかった。
数コールで花音は電話に出ると寝起きの声を出して応えた。
「おはよう。今何時?」
「七時になるところ。早朝バイキングに行こうって話なんだけど。まだ眠い?」
「いや、大丈夫。導を起こして準備したら行くね」
「分かった。先に行って席確保しておくね」
「うん。遅くなるかもしれないから先食べてて」
「了解」
そこで電話を切ると先に早朝バイキングの会場へと向かう。
席を確保して辺りを見渡す。
カップルや子供連れの家族の姿を見て少しだけ憂鬱な気分に苛まれるが、この後に彼女らがここに姿を現したら僕のほうが煙たがれる立場になるのだろう。
そんなことを考えると今のうちに肩を縮めて小さくなっているのが最適解だと思われた。
バイキングに来ておいて何も食事をしていないのも周りに迷惑かと思うと一度席を立ち上がる。
鏡子が言っていたオレンジジュースをコップに注ぐと席に戻る。
それを静かに一口飲むと爽やかだが、とびきりな果汁の甘さが口に広がり全身を癒やしていくような気分だった。
すぐに一杯目を飲み干してしまうと子供のようにはしゃいで二杯目を注ぎに行く。
席に戻って口をつけようとした所で彼女らは揃って顔を出した。
「早速飲んでるね。美味しいでしょ?」
鏡子は微笑んで僕の隣の席へと腰掛けるとコップの中身を指さした。
「うん。本当に美味しいよ。嫌な気分も吹っ飛ぶ」
最後の部分を冗談でも言うように笑って言うと鏡子は嬉しそうな表情を浮かべる。
「何の話?私達が寝ていた間に何かあったの?」
瑠璃は眠たい目を擦ると対面の席に腰掛けた。
「初めて彼方からモーニングコールが来て嬉しかったよ」
花音は瑠璃の隣に腰掛けると美しい微笑みを浮かべる。
「何で私じゃなかったのか疑問は残るけど…とにかくお腹空いた」
導は花音の隣の席にスマホを置くと早速料理を取りに行くようだった。
「私達も朝食にしよう」
鏡子が皆に声をかけると揃って席を立ち上がった。
「そう言えば今日は何処で何するの?」
花音が瑠璃に問いかけると彼女は料理を皿に盛り付けながら口を開く。
「レンタカー借りて水族館に行くでしょ。その後は海で出来るレジャーを予約しようと思ったんだけど…もう予約しようとした時には満員だった」
「そうなんだ。夏休みで旅行客が多いからかな。それで結局何するの?」
「うーん。とりあえず水族館を楽しんだら鏡子の案内で街をドライブかな」
瑠璃の他人任せなずさんなプランを耳にした彼女らは揃って嘆息する。
「結局私任せなの?」
鏡子は瑠璃をジロッと睨むと彼女は戯けたような表情で手を振る。
「違う違う。サボったわけじゃないから。地元の鏡子のほうが詳しいと思って。ね?」
瑠璃は言い訳をするように口を開くとそそくさと席に戻っていく。
「彼方は行きたい所ある?」
鏡子は僕に問いかけてくるので少しだけ思考する。
「夕方からはまた海で遊ぶでいいと思うけど」
「分かった。とりあえず昼間はドライブで街を見るって感じでいいのかな?」
僕と花音はそれに頷くと席に戻っていく。
「導は朝からそんなに食べてお昼大丈夫なの?」
ベーコンなどのカロリーの高そうなものを皿に山盛りにしている導に問いかけると彼女は平然とした表情で頷く。
「全然大丈夫。むしろまだ足りない感じすらしている」
「………」
あまりの大食いな導に言葉に詰まっている僕を見た彼女らは黙って頷く。
「大丈夫なら良いけど」
それだけ言うと一時間程の朝食の時間は恙無く過ぎていくのであった。
ちなみにだが導は一皿目と同じ量を二回お代わりしていたが平然とした表情を浮かべていた。
それを見て僕が苦笑していると彼女らは、
「早く慣れて目の前の事実を飲み込んだほうが早いわよ」
などと言って同じ様に軽く苦笑するのであった。
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