第7話水着を見せたい女性の心境とは

どれぐらい眠っていただろうか。

深い眠りについていると部屋のドアがノックされる音で目が覚める。

眠い目を擦り欠伸を一つするとドアを開けた。

「海に行くよ!」

彼女らは既に着替えを済ませており薄着の格好をしていた。

見る限り鏡子以外は水着を下に着ているようだ。

「折角水着を買ってきたから着たいんだって。理由はそれだけじゃないみたいだけど」

鏡子は戯けた表情を浮かべて他のメンツを誂うような言葉を口にする。

「鏡子は着ないんだ?」

僕の何でもない問いかけに鏡子は軽く微笑む。

「着てほしいの?」

「えっと…」

言葉に詰まっていると鏡子は微笑みを崩さぬまま答えをくれる。

「こっちの人は泳ぐ時に水着にはならないんだよ。服のまま泳げるから」

「そうなんだ。じゃあ水着で海に行くのは旅行客だけ?」

「確実にそうだとは言えないけど。彼氏に水着姿を見せたい娘だっているでしょ?」

「あぁ…なるほど」

納得したように頷くと他のメンツは困ったような表情で俯いていた。

「何今更恥ずかしがってるの?男一人、女四人で旅行に来ている時点で好意はバレているんだから。後は誰が一番積極的に行動するかだよ」

鏡子は皆の想いを暴露すると諭すように説得をしていた。

「とにかく!今は早く海に行こ!」

吹っ切ったような表情で瑠璃は皆に合図をすると僕らはホテルの直ぐ側のビーチまで向けて歩き出す。

陽が傾いてきていて橙色の空を眺めながら僕らは海でひとしきり戯れる。

鏡子は他人に自慢ができるほど泳ぐのが得意だった。

瑠璃と花音と導は美しい水着姿で軽い波に身を任せて楽しんでいるようだった。

目のやり場に困った僕は暫くの間、鏡子に泳ぎ方を軽く習った。

小一時間ほど海で遊ぶと陽も完全に沈む頃だった。

「一度シャワー浴びてからロビーに集合ね〜」

鏡子の言葉に従うと僕らは各々の部屋に戻っていく。

シャワーを浴びて全身を洗うと着替えを済ませて皆よりも一足先にロビーに到着する。

スマホをポケットから取り出すと近くの居酒屋を調べていた。

(そう言えば鏡子が良いお店知ってるって言ってたっけ…)

先刻の鏡子の言葉を思い出すとスマホをポケットにしまってロビーに設置されている自販機まで向かう。

ペットボトルの水を一本買うと早速喉を潤した。

「ごめん。遅くなった…って私達が最後じゃないんだ」

花音と導が慌てた様子でロビーに顔を出すと状況を確認して安堵しているようだった。

「瑠璃と鏡子の姿はまだ見てないよ」

彼女らに答えを口にすると二人はロビーのソファに腰掛けた。

「あ…水欲しい。一口ちょうだい」

導は我に返っているらしく酔いも治まっているようだった。

「新しいの買うよ。ちょっと待ってて」

再度自販機の方に向かおうと足を向けると導は僕の服の袖を掴んだ。

「彼方のでいい。っていうか彼方のが良い」

積極的にも思える導の言葉に胸が高鳴るが、あくまで冷静そうに努めると彼女に飲みかけのペットボトルを渡した。

「どうぞ。飲みかけで悪いけど…」

僕の言葉に首を左右に振った導はペットボトルのキャップを外して、そのまま直接口をつけて中身を飲んでいた。

その光景が新鮮で少しだけ気が引けていた。

吉乃以外の女性と飲み物の回し飲みのような経験がなかった。

それが妙に艶めかしく感じて一つ息を呑む。

「ガン見しすぎ…流石に恥ずい」

僕の視線に気付いた導は照れ隠しの言葉を口にするとペットボトルを僕に返してくる。

「ごめん…ありがとう」

「何の感謝?まぁ良いけど…」

僕と導の間に照れくさい関係が広がる予兆を感じていると隣りにいた花音がわざとらしく咳払いをする。

「中学生じゃないんだから。間接キスとかいう気?子供みたいなこと言わないでよ」

呆れる花音を目にして必要以上に恥ずかしさがやってきて意味もなく辺りを見渡した。

数秒なのか数分なのかが経過すると瑠璃と鏡子が遅れて顔を出した。

「ごめん。遅れた。鏡子が行く店に予約していなかったらしくて…」

「そうなの?もう魚の口なんだけど…」

花音が残念そうな表情を浮かべるが鏡子は首を左右に振って応える。

「そこは私の顔の広さでどうにかなったよ。ここから近いから早速行こ」

「遅れておいて偉そう」

導のジト目から逃げるように鏡子は先頭に立つと夜の街に向かうのであった。

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