第5話導は酔いやすく肉が好き
「南の島といえば海でしょ!」
飛行機が到着してホテルに荷物を置くと瑠璃がはしゃいだ様子で口を開く。
「まだお昼だよ?こんな陽が高いうちに海に行くのは旅行客だけだよ」
鏡子が呆れたように嘆息すると瑠璃は少しだけ表情を歪めて唇を尖らせた。
「私達だって旅行客ですけど?」
「そうだけど…私が居るんだから」
未だに呆れている鏡子は一つ嘆息すると提案をする。
「海は陽が沈みかけてからにしよう?日差しが強くて肌が痛いし日焼けするよ」
「分かった…じゃあまずは何するの?」
二人の会話を聞いていた花音は挙手するとスマホの画面を皆に見えるように前に出した。
「まずは食事でしょ。朝食が軽めだったからお腹空いてるでしょ?」
「有名なステーキ屋さんが近くにあるみたいだけど…」
導も調べていたのか僕らに行きたいであろう場所を提案してくる。
「じゃあ夜はお魚が美味しい店に行こ。良いところ知ってるよ」
鏡子は導の提案を受け入れると僕らは揃ってホテルを出る。
ちなみにだが部屋割りは花音と導で一部屋。
瑠璃と鏡子で一部屋。
当然のように僕は一人部屋だ。
涼しかったホテルを出ると異様な日差しを浴びて瑠璃は少しだけ項垂れる。
「確かにこうも暑い中で海で遊んだら熱中症になるかもね」
「日差しが強いからね。こまめに水分補給してね」
鏡子は全員に伝えるように僕らを見渡す。
「そういえばレンタカーは?」
そのままの流れで鏡子が瑠璃に問いかけると彼女は一度首を左右に振る。
「初日はぐうたらしたいから借りない」
「どういうこと?」
「昼間からビール飲みたいから」
「そういうことね。じゃあ早くステーキ食べながらビール飲みましょ」
そこから導の案内に従って街を歩くと目的地に到着する。
僕らは200gのステーキとビールを人数分注文すると早速乾杯した。
「初めての旅行に〜!」
瑠璃が音頭を取ると僕らはジョッキを合わせる。
喉の奥に冷え切ったビールを流し込むと暑さが吹っ飛んでいくようだった。
言葉にならない心地の良い喉越しを感じながら店内の冷え切った冷房に感謝した。
「天国だ…」
僕の独り言のような言葉に彼女らは嬉しそうに微笑んでいた。
「幸せになりたかったら肉を食え。って誰の言葉だっけ?」
一口でほのかな酔いがやってきたのか導は冗談でも言うように笑顔で口を開く。
「知らないし初耳なんだけど」
呆れるように軽く笑った花音が口を開き残った僕らもそれに頷いた。
「いや、絶対に誰かが言ったんだって。言ってなかったとしても事実だから」
導は引くこともなく未だにジョークを言うように笑って言った。
「僕もお肉は好きだけど…程々が良いな」
「なんで?体型を気にするから?」
「いや、そうじゃないけど。色んな物をバランス良く食べたいじゃん」
「えぇ〜肉だよ〜肉肉!」
導は皆よりも一足先に酔いのスイッチが入ったらしい。
普段の彼女からは想像もつかない姿を目にして僕は軽く微笑む。
しかし残されら彼女らの反応を見るにいつも通りのことらしく何でもない表情を浮かべている。
「おまたせしました」
店員が人数分のステーキを持ってくると導は異常に喜び、すぐにナイフとフォークを持って食事を始める。
「これで痩せてるとか反則でしょ」
花音の恨み節を耳にした女性陣は黙ってそれに頷くが今の導には届いていないらしかった。
そこから恙無く食事を終えると会計を済ませて店の外に出る。
「初日はレジャーに行きません」
瑠璃の唐突な言葉に眉をひそめた僕らに彼女は首を左右に振る。
「いやいや。違うよ?サボってるわけじゃないから。皆、このままホテルで軽く飲み直したいかなって」
「仕事がないと昼間から飲めて最高だけど…ちょっと気が引けるわね」
鏡子は苦笑いをするが瑠璃の提案を受け入れた。
「コンビニでお酒買って帰ろ」
瑠璃の言葉に従って僕らは近くのコンビニでお酒を買い込むとそのままホテルへと戻っていくのであった。
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