第2話お盆休みに旅行

意気消沈中の僕の下を訪れた女性社員はスマホの画面を見せてくる。

「どう?キレイでしょ?」

スマホの画面にはきれいに澄んだ海の画像が表示されていた。

「はい。とてもキレイですけど…それが何か?」

同僚の女性社員である坂上鏡子さかがみきょうこはスマホの画面をスワイプすると料理の写真や景色の写真をいくつか表示させて僕に見せつける。

「私の地元の写真なんです。きれいな景色に美味しい料理。良かったら今度一緒に行きませんか?」

「あ…え?何で?」

「恋人と別れてフリーなんですよね?それなら良いじゃないですか」

「………」

言葉に詰まっていると鏡子は僕の席の隣りに座っていた瑠璃に声を掛けた。

「瑠璃も一緒にどう?」

「ん?うん。良いよ。花音と導も誘ってみたら?」

「わかった。声掛けてくる」

鏡子は僕の許可を取ることもなく他の女性社員の下まで向かうとキャッキャとはしゃぎながら会話を進めていた。

「僕は行くとは言ってないけど…」

隣の席の瑠璃に声を掛けると彼女は肩を竦めて応えた。

「行くと良いんじゃないかな。傷心中の身には新たな恋が必要よ。きっと傷付いた心を癒やしてくれるから」

「そうなのかな…でも周りが女性しか居ないのはちょっと…」

「別に良いでしょ。そんなに身構える必要ないわよ」

瑠璃の言葉に軽く頷くと今後の予定をすり合わせることとなった。

「お盆休みを使って旅行にいきましょう。二日前ぐらいから有給取って。混まない間に飛行機に乗っていくのはどうですか?」

鏡子は二名の女性社員を連れてくるとスマホのスケジュールアプリを開いた。

「有給溜まってるから私は大丈夫だよ」

瑠璃が口を開くと他の女性社員もそれに頷く。

「っていうか私達も行っていいの?」

同僚の福田花音ふくだかのんが遠慮がちに口を開くと隣で若干気まずそうな表情を浮かべていた長野導ながのしるべも一つ頷く。

「全然良いよ。人数は多いほうが楽しいでしょ?」

鏡子はあっけらかんとした表情で何も気にしていない風に口を開く。

「いや、鏡子が良くても…」

導が口を開き、それに追随するように花音が僕に視線を移した。

「僕?決まりかけている予定を僕の判断一つで崩すのは心苦しいから…」

「ホント?じゃあ皆で旅行を楽しもうね」

花音と導は嬉しそうに微笑むとそのまま予定を決めていく。

「とりあえずホテルの予約を取るのは私に任せて」

鏡子が先導してスケジュールを組んでいた。

「レジャー施設の予約は私がする」

続いて瑠璃が挙手するともう片方の手でスマホを操作していた。

「じゃあ私達は食事関係を調べておくね」

花音と導が口を開くと僕も何かしなければならない気がしてスマホを手にするのだが…。

「彼方は何もしないで良いよ。とにかく旅行を楽しんでよ」

瑠璃に笑顔を向けられて僕は少しだけ困ってしまうのだが仕方なく一つ頷くのであった。


現在は8月の一週目。

お盆休みの旅行はもう目の前までやってきていた。

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