第2話 病室202号へ

 受付で何とか入院手続きを済ませ、そのまま今日から約1ケ月お世話になる病室に妻や子供たちと一緒に看護婦さんに笑顔で案内された。病室は普通に6人部屋で、今は2人しか居られないが、他のベッドにも生活用品が置いてあるので、満室と思われる。いづれの方もシゲルよりは年上だと感じるが、お互いに簡単な挨拶を交わして、これからよろしくお願いします、などと会釈してから自分用のベッドに移った。

 案内してくださった看護婦さんは、病室内の決まり事や一日の流れなどを一通り説明した後、ナースステーションに戻って行かれた。


 妻のあつこは、同室の患者さんたちに簡単な挨拶をしてから、シゲルの身のまわり品や着替えなどを所定の位置に収め、足りない物や追加するものがないか考えていた。子供たちは少しくらい病院に慣れてきたようで、シゲルのベッドや廊下とを行き来して楽しんでいる。

 シゲルが入院患者用の服に着替えて一段落してから、同室の方々に会釈しながら家族4人で廊下に出た。病院内の施設や位置を少し確認したかったので、みんなで食堂や売店、ナースステーション、院外への通路などをじっくり見た後、3人を正面入り口から見送った。


 要入院を告知されてからほぼ一ヶ月は過ぎていたが、まだ2月後半で外に出るのは入院着のままでは寒い時期である。会社は年度末真っ最中で、本来であれば4月になって新年度を迎えてからの入院生活が都合良かったのであるが、直属の上司や支店の幹部連から理解が得られたこともあり、安心して入院できてほっとしていた。

 入社してから15年は工事現場を監督・指導する立場であったが、年齢や経験を重ね、周囲の職場環境も不景気な時期となり人員整理とか早期退職など変化していく中で営業兼設計・積算などの業務へと職種の変更を余儀なくされたのである。


 思えば、学生時代から貧乏生活が続いていたので、食生活はあまりきちんとしていなかったし、社会人となってからも睡眠優先で朝食をとるのはまれで、缶コーヒーで済ましていた。営業職に代わってからは更に不規則となり、あげくには夜遅くまでの楽しい飲食がたびたびであった。現場で働いていたころは必要性から無意識のうちにほぼ一日中、身体全体で動き回っていたのが、営業となってからは机上での事務仕事と車での移動がほとんどとなり、汗をかくことが無くなっていた。

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