第7話 ガードマンは革新学会からキリスト教へと路線変更
ガードマンの頬には、光が差し込んでいた。
「革新学会って、いろんな宗教のことを、いろんな方法で批判し、結局は革新学会だけが正義であり、それ以外は罰が当るなどという結論にたつんですよ。
それに僕は革新学会を辞めるとき「あなたが笑っていられるのは今だけ。これから
革新学会にに背を向けたあなたは、世間から頭を打ちまくり、苦しみぬいて青息吐息で私たちに泣きついてくるときが訪れるでしょう。その光景は今から目に見えるようです。そのときまた、お会いしましょう。ではさようなら」
なんて脅し文句まがいのことを三度も言われましたがね」
なるほど、うまいこというなあ。まるで後ろ髪をひかれるようである。
こんなセリフを三度も言われれば、気の弱い人だったらその脅し文句にこだわってしまうだろう。
ガードマンは平安な表情で話を続けた。
「革新学会曰く、キリスト教は人間の本能に逆らっている。だから、下っ端は気ちがいの精神障害、上になればなるほど、ひどい二重人格者が多い」
おいおい、それってそっくりそのまま革新学会のことじゃないか。
いや、それはそのままそっくり革新学会そのものじゃないか。
貧乏人から雑巾の絞り汁の如く、金を搾り取り、上の人間は悠々としているという。会報も十部くらい買わされ、それを売り歩くという。
典型的なカルト宗教である。
しかし、巨大新興宗教といわれた革新学会も、今は逆にマスメディアで叩かれ、今は革新学会に入信していることを、隠している人が多いという。
実際、革新学会に入信していることが就職先にバレたら、解雇に追い込まれたり、いやそれ以前に、面接の時点ではねられるという。
やはりこの世の繁栄は、長くは続かずいずれはフェイドアウトする運命になる。
まるで塔が倒れて粉々に砕け散るように、すべてのものは崩壊し、土に埋められ、過去のものとして忘れ去られていく運命なのだろうか。
ガードマンは話を続けた。
「革新学会の苦く辛い体験から、私はすっかり宗教嫌いになりました。
宗教というのは、人間のつくったもの。だからいい点もあればそうでない点もあります。でもやっぱり人間の欲、金銭欲や色情が優先するんですね」
僕は思わず「その通りですね」と答えそうになった。
「でも、そのとき知り合いの娘さんが、革新学会を辞めてキリスト教会に行き始めてから、生き方が変わったのを聞いて、私も興味を抱き始めたのです。
そうだ、これは私が書いたエッセイ集ですので、ぜひ読んでみてください。
ガードマンは、B5版の用紙にホチキス止めをしたプリントを渡してきた。
タイトルには「私はイエスによってチェンジ チャレンジ 人生のチャレンジャー」と書いてあった。
へえ、キリスト教のエッセイか。あまり聞いたことがないな。
僕はガードマンに一礼をして、読んでみることにした。
冒頭に「イエスキリストは、人類の罪の身代わりになって、十字架にかけられたが、三日目に蘇った」
と信じられないことが書いてあった。
十字架というと、スカルと並んで人気アクセサリーであるが、処刑道具だったのか。ということは、ギロチンのように極めて残忍なものである筈である。
それがクロスと呼ばれ、日本赤十字社にも使われているということは、やはり十字架には神の救いがあるということに違いない。
人類の罪の身代わりとはどういうことだ。
冤罪という意味なのか。
「私たちは皆、罪人です」(聖書)
「父よ、彼らを許したまえ。彼らは自分がなにをしているかわからないのです」
(聖書)
人類の罪というのは、犯罪というよりはエゴイズムのことだという。
犯罪の定義は国や時代によって変わっていく。
実際、戦争は赤紙という召集令状がきて、軍隊に行くのをしぶったら「非国民」と言われ、敬礼をして「お国のために戦ってまいります」
予科練という軍隊のエリートは、終戦いや敗戦とともに「ヨタレン」と呼ばれるほどの堕落してしまったーヨタというのは、酔っ払いと言う意味である。
戦争中は「一人殺せば殺人、しかし百人殺せば英雄」という言葉がまかり通ったほどである。
この戦争も、やはり自分が相手より正しい、偉いというエゴイズムから生じたものである。
戦争前に牧師になりたいということを、東大卒の上司に言うと
「僕は君が宗教界に入ることは、反対はしないよ。
しかし、日本はこれから戦争に勝ち、世界中を征服して大日本帝国をつくるのだ。
そうするとキリスト教のようなバタ臭い西洋の宗教など、消えてなくなってしまうのだ。そのとき、後悔しても遅いよ」
と大真面目な顔で忠告されたという。
東大卒だからもうすこし、フレキシブルな考えをもっているかと思ったら、当時は誰でもが口にするようなことを言ったのでいささか幻滅したという。
人間の罪とは、エゴイズムのことである。
これがある限り、いさかいは絶えない。
戦争は国家同士の利害が対立したときに発生するというが、まあ戦争に限らず人間同士のトラブルはすべて利害が対立したときに、生じるのであろう。
今の若者は、戦争のことなど知るよしもないが、精神的には戦争中に近いのではないか。
相次ぐ自殺、若者の麻薬蔓延・・・
よほど用心していないと、戦争が勃発しかねない。
嵐の前の静けさというが、今、戦争の兆候が始まっているのかもしれない。
昨日はゲリラ豪雨だった。
午前中は晴れていたのに、午後二時になってから急に大雨に見舞われ、雷も何度もなった。雷はいつも鳴る前に、合図のようにピカリと空が光る。
神の光か、それとも悪魔の光かはわからない。
悪魔は偽物だというが、悪魔の使いも神の使いを真似ることはある。
人は目先のものに騙され、日常生活という崖から真っ逆さまに堕ちることもある。また、人は一見頑丈そうに見えるが、一度倒れると起き上がりにくい。
いずれも羊に似ている。
「私(神)は良い羊飼い。羊飼いは羊のために、命を捨てます」(聖書)
僕はガードマンのエッセイ集プリント「私はイエスによってチャンス チャレンジ チャレンジャー」をさらりと読んでみた。
革新学会に入信したの愚痴が、週刊誌の如く書かれている以外は、いわゆる平凡な人生を歩んできたとしか思えない内容だった。
その中で、衝撃的な箇所があった。
ガードマンの妹が、だまされて痴漢物のAVに出演させられたのである。
もしかして、僕が電車のなかで、冤罪をかけられたときのあの二十代の女性のこと?
その妹の名前は杏奈(仮名)であったが、小学校のときから歌手志望だったという。ある有名プロダクションの傘下の芸能プロからスカウトされ、半年間ボイスレッスンを受け、作詞も「いい感性をしているね」と評価を受け、歌手としてデビューできることを信じていたという。
プロダクションからは、このことは極秘情報であり、ライバルプロにバレルと邪魔される恐れがある。芸能界は競争世界だから、くれぐれも内密にと釘をさされ、ボイスレッスンに通っていることも、実兄であるガードマンを含め誰にも言わなかったという。
プロダクションマネージャーから「明日はいよいよレコーディングデビューだ」と言われ、連れていかれた先はなんとアダルトビデオの撮影現場だったという。
杏奈が「えっ、話が違う」というと、五人に取り囲まれて契約書を見せられ
「サインしたじゃあねえか」とすごい剣幕で脅され、泣く泣く監督のいいなりにならざるをえなかったという。
「違約金二千万円払え」「親に請求に行くぞ」と言われ、断る余裕など到底なかったという。
それに加えて脅しまがいだけではなく、涙を流したスタッフが
「ねえ、私たち家族もいるし生活もかかっているんですよ。
あなたが女優になればそれですべては、丸く収まる。お願いします」
などと土下座して泣き落としまがいのことをするという。
なんと杏奈にとっての性の初体験は、アダルトビデオだったという。
膣から出血したときは、さすがに濡れティッシュを用意してくれたが、それにも関わらず撮影は続行された。
驚くべきことに、一日に三本撮影したという。
レイプもののときは、杏奈が「撮影を辞めて下さい、カメラを止めて下さい」と泣きながら訴えても、男優はやめようとはしない。
杏奈は低身長であったが、仰向けに寝かせられ上に大男がかぶさり、別の男優がレイプをするというシーンもあったという。
汚い精液が体中を覆い、杏奈は人間としての尊厳が失われるのではないかというへこんだ精神状態になり、このまま私は死を迎えるのかという人生の恐怖さえ感じたという。
とうとう杏奈は、自分の二の舞が出ることを恐れ、女性弁護士に告発することにした。
この事実はNHKでも放映され、国会でも取り上げられた。
アダルトビデオは、プロダクションから「モデルや歌手になれる」と騙されてサインさせられるケースが多いが、現在は前日までに電話やメールで断れば、無効になるという法案が確立された。
これで、騙しまがいの強制出演も減少するだろう。
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