11月22日(おやつの時間)
幼馴染の亜紀はどさくさに紛れて固めてくる
「ギブ!!ギブ!!」
コブラツイストをかけられた弟があたしの腕をバシバシ叩いて降参した。
「あたしに勝とうなんて百億年早いんだよ。文句言わずにさっさと買いに行ってこい!」
弟を解放して食べられてしまった苺大福を買ってくるように命令をする。小学5年生になった弟の『ちはや』はまだ第二次性徴前で体格もまだまだあたしには勝てない。
せっかく亜紀と2人で食べようと思って買っておいた苺大福がいつの間にか弟の胃袋に入れられてしまった為、休憩中のおやつが無くなったのだ。
「おやつなら私も持ってきたし、わざわざ買いに行かなくても大丈夫だよ?」
「亜紀ねぇちゃん……」
亜紀とあたしが小学校からの幼馴染なので、当然ちはやが小さい時から知っている。そんな亜紀はちはやには甘いところがある。亜紀が甘やかすからちはやもあたしより亜紀に懐いているし。
「いやいや、おやつって……」
亜紀の持ってきたテーブルの上にあるおやつを見る。
透明なトレーに乗った細長い乾燥されたイカがわちゃっと絡み合っている。
スルメだ。
あたりめとも呼ばれるそれはお酒のおつまみとして有名な代物。しかし、女子高生のおやつとしてそれはいかがなものか……イカだけに……
「噛めば噛むほど美味しいよ?」
「美味しいのは知ってる!さっきまで一緒に食べてたし!勉強しながら2人してイカ頬張ってたし!無言でもぐもぐしてたけど!顎が疲れた!!甘いものが食べたい!!」
だから冷蔵庫に入れてある苺大福を取ろうとしたらもうすでに2個とも消えていた。ちはやの分含め3個はあった苺大福が冷蔵庫から跡形もなくなっていた。リビングでテレビゲームに夢中になっているちはやの隣には空になった容器が3個落ちていた。
有無を言わさずコブラツイストの刑に処して新たな苺大福を要求した。
「ほら早く買ってきて!食べた責任を果たしなさい!」
「わかったよー」
ブツクサ文句を言いながらジャンバーを羽織ってリビングからちはやが出ていった。
「全く……いくら成長期とはいえ、1人で苺大福3個は食べ過ぎだろ……」
「だいぶ身長も伸びてきたよねぇ」
そのうちあたしより大きくなって力で負けるようになってしまう前に、今のうちに上下関係はしっかり構築しておきたい……
「新しい苺大福が届くまで宿題終わらせるか……」
勉強を再開させようかという時、亜紀があたしをジッと見つめて何故か思案顔。
「どした?」
「コブラツイストかけたい」
「は?」
「ちさきにコブラツイストかけたい」
二度言われても……何故?ってなるだけなんだけど……
亜紀があたしの腕をとった。
多分見よう見まねであたしの足に亜紀の足をかけて、腕を背中側に回された。
特に締められるわけでもなく形だけのコブラツイストが完成した。
「………?」
「いまいち……」
「何が!?」
あたしをもっと苦しめたいってことか!?!?
亜紀はなんちゃってコブラツイストスタイルのまま携帯で何か検索し始めた。
「あ………ちさき、床に寝転がって」
「ん?寝転がればいいの?」
あたしを解放した亜紀に言われるがまま床にうつ伏せで寝そべった。
「仰向けになって」
「はいはい」
今度は何をするつもりなのか、ゴロンとあたしは転がると亜紀はあたしの上に覆い被さった。
あたしの頭側から覆い被さった亜紀はあたしの両肩の下に腕を入れて腰の辺りを掴む。あたしの顔に亜紀のお腹があたり亜紀の顔はあたしの胸に埋もれた。
「よし」
「よしじゃない!!なんなんだこの体勢!!」
亜紀のお腹に埋もれながらあたしは叫んだ。モゴモゴとくぐもった声を張り上げる。
「上四方固(かみしほうがため)」
「はぁ??」
プロレス技でそんなのあったか!?
「ってそれってもしかして、柔道の技じゃないのか!?なんでプロレス技から柔道技に変わった!?」
「………プロレスするなんて言ってないけど?」
あたしの胸に顔を埋めたままの亜紀は平然と言い放つ。
亜紀の固め技から逃れようと、動くが両腕の外側から亜紀腕で拘束され顔もお腹で抑えられている。
唯一足は自由に動かせるがジタバタと動かせるだけで、拘束が解けるわけではない。
これ固められてるわ。
亜紀がグリグリと頭を動かしてあたしの胸を堪能し出した。
「コラ!亜紀!!離せ!!」
「ちさきが頑張って逃れたらいいんじゃないかな?」
ギュゥっと亜紀の腕が強く抱きつかれる。
ジタバタともがいているが、逃げられそうになかった。
亜紀もあたしの胸やお腹付近に顔を埋めて、大きく深呼吸を繰り返している。それ匂い嗅いでないか!?
「ギブ!!ギブ!!」
もがもがと降参をするが、なかなか力を緩めてはくれない。
「もうちょっと……なんで今日は胸元あいてない服なの……」
「部屋着だからな!!」
開いてたらもっとまずい状況になってた。部屋着バンザイ!!
抵抗するのも疲れてきた頃、やっと亜紀が拘束を解いてくれた。
柔道なら優に一本勝ちしている。
「はぁはぁ……」
無駄な抵抗をしていたせいで呼吸が乱れて、心臓がバクバク激しく運動をしている。
亜紀はそれほど疲れた様子を見せず、逆に満足そうにしていた。
「また上四方固しようね?」
「やるかぁ!!!」
あたしは座ったまま隣にいる亜紀目掛けてラリアットをくらわせた。力が乗っていないラリアットに亜紀は楽しげに笑い声を上げた。
亜紀の携帯が震える。
珍しく悠木涼からの着信が入った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます