11月15日(ショッピングモール)

幼馴染の亜紀はどさくさに紛れて更衣室に入ってくる



「やっぱこっちのスカートの方が良くね?」

「私はこっちの色の方が似合うと思うけど」


亜紀と久しぶりに大型ショッピングモールまで来た。

11月に入って一段と外は寒くなってきて、そろそろ冬物が欲しいなと思っていたら、亜紀が新しい参考書を買いに行きたいと言ってたのを思い出してわざわざここまで来のだ。


参考書だったら別に近くの本屋さんでいいんだけど、亜紀にショッピングに付き合ってもらいたかったから丁度よかった。


「上は?こっちのニットとか?」

「ちさきはあっちの方が似合う」


亜紀は服とか興味なさそうな雰囲気してるのに、見立ては良いから亜紀の意見を参考にすることが多い。あたしの服はほとんどが亜紀と一緒に買いに行った時のものだ。


「亜紀も何か買うの?」

「私は特にないけど、アウターはみたいかも」


そう言って近くにあったアウターを手に取って眺めている。


「じゃあ、あたしちょっと試着してくる」

「……」

「試着お願いします」


近くにいた店員さんに一声かけてから試着室の扉を開けた。


「って、おい!!何ついてきてるんだよ!!」

「私も試着しようかと思って」


手にはアウター。


「アウターなら試着室に入らなくても大丈夫だろ!!出た出た!!」


亜紀をポイっと試着室から追い出した。追い出された亜紀は座り込み項垂れている。

どうせあたしに色々してこようっていう魂胆だろう。最近の亜紀の行動からしてやりかねない。


亜紀が選んだ服に着替えていく。


他の人の目線って大事だよな。合わせてみると良く似合っている気がする。


「亜紀。着替えてみたんだけどどうだ?」


試着室の扉をちょっと開けて外を見てみると、亜紀はあたしにポイっとされたままの姿で待っていた。

いつまで項垂れているんだ。立ってください。


「ほら、亜紀立って。どう?似合ってる?」

「………」


亜紀はちらっとあたしの方を見て固まったかと思えば、おもむろに亜紀は立ち上がるとあたしの肩を掴んで試着室に放り込んだ。


「どぁしょっ!!」

「やっぱりダメ」

「はぁ!?!?何が?亜紀が選んだ服だぞ?可愛いと思うんだけどなー」


亜紀も試着室に入りあたしの服装を上から下まで眺めている。


「スカート短すぎ。上も胸元開きすぎ。エロすぎた」

「え?エロっ!?」

「部屋着ならOK」


「エロすぎって、まさかわざといやらしい服装選んだのか!?」


亜紀はあからさまに視線を逸らした。


亜紀を信頼して選んでもらったのにエロい服装を選ばれるなんて思わなかった!!


「もう着替える!!」


ピトッ


「うぅひゃぁ!!!」


胸元も開いているが背中側も開いていたみたいで肌が見えるところに冷たい手が触れた。


「ここも見えすぎ」

「だからってその冷たい手で触るな!!ひゃぁっ!!」


ピトピトとあたしの素肌が出ているところを触ってくる。


「や、やめろ!!亜紀!!手が冷たすぎる!!」


鏡がついている奥に追いやられて行く。背中に鏡が当たった。冷たい……


「足も見えすぎだから」


亜紀の手が太ももに伸びていく。最近あたしは知った。自分は内腿が苦手だと言う事を……


「うっ!!」

「…………まだ触ってないよ?」


触られると思った瞬間口から声が漏れてしまった。


「肌の上で触れるか触れないかの距離で手を動かすとムズムズするアレだよ!!」

「よくわからないけど?こう?」


あたしの太ももの近くで撫でているように動かす。

触れてもいないのにムズムズする。産毛くらいは触っていそうで触覚が敏感になったような感覚に陥っていく。


「うぐっ!!」


冷えている手の感覚まで伝わってきそうな距離で触られてもないのにどういう動きをしているのかわかる。


「や、やめ……」

「………」


他の人が見たら痴漢行為みたいに見られそうな状況で、実際は触られていないのにあたしは背中に当たる鏡で動けずにいた。


サワッ


「うひゃぁ!!!」


急に冷たい感覚が強くなって本当に触られると内腿が弱い(らしい)あたしがビクッと体がこわばった。


太腿を触っている亜紀の手首をガシッと掴む。


「ちさきの太ももは実際に触ったほうが気持ちいいね」

「それ以上触るとお金取るぞ!?」


亜紀はキョトンとあたしを見つめ返してきた。

あたしの体はタダでは触れさせない!色んなサービス業があるけど、こういうお触りできる仕事は結構良いお値段するはずだ!


「お金払ったらいっぱい触っていいの?」


亜紀はカバンから財布を取り出している。


「え!?いやいや!!本当に払おうとするな!!諭吉!!諭吉をしまいなさい!!!」


亜紀の手首をがっちり掴んで財布から飛び出てこようとする諭吉を押し戻す。一緒に英世まで出てこようとしていていて財布からチラッと見えては財布に戻していった。


試着室でこんなに騒いでいたら当然と登場してくる。


「お客様〜大丈夫でしょうか??」


店員さんが扉の向こうから話しかけてきた。試着室で女2人騒いでちゃ迷惑でしかない。試着するのが目的なのにこんなやりとりしてるなんて知られたら出禁にさせられるかもしれないし……


「ご、ごめんなさい!!すぐ出ます!」


なんとか亜紀の鞄に財布をしまうことに成功したあたしは再度亜紀を試着室からポイした。





「結局何も買えなかった……」


あんな騒いだりして迷惑をかけてしまったし、色んな服を試着して買おうと思ってたのが、また試着室を借りようという勇気は出なくて結局何も買わずに退散した。


「ちさきの声が大きいから……」

「9割くらいは亜紀のせいだからな!?」


はいはい。と亜紀は呆れながら笑った。

絶対自分のせいだと思ってない顔だ。なんで!?





2人がショッピングモールを出ようとしている時、後ろでは悠木涼と天城凪沙が手を繋いで歩いている。

全員が相手の存在に気づく事はなかった。



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