10月27日(球技大会後)

幼馴染の亜紀はどさくさに紛れて図書室でも触ってくる



球技大会を終えて教室で制服に着替えて、さて帰ろうかという時ブブッと凪沙の携帯が震えた。


「あ…」

「どした?」


凪沙は携帯を確認すると小さく声を漏らした。


「涼ちゃんから……私ちょっと行ってくるね!また明日!!」

「お、おぅ。またな」


凪沙はカバンを持って駆け足で教室を出て行った。


球技大会が終わってすぐ呼び出しとは随分と積極的だなあいつは……


球技大会は結局凪沙の怪我で保健医ストップがかかって、A組は途中棄権した。


保健室から飛び出して行った凪沙を後から保健室に来た悠木涼が探しに行ってくれた。

お昼休みに何があったかは知らないけど、凪沙が泣き腫らした顔で戻ってたのをみて悠木涼が慰めてくれたんだろうから、感謝しなくちゃいけない。


同じクラスのあたしじゃ多分無理だったと思うし……その後の悠木涼のクラスの快進撃も凄まじかった。あいつにしかできなかっただろうからな。



「さてと、あたしらも帰るか。亜紀」


机に置いてあったカバンを持って亜紀の机を見ると、亜紀はいなかった。


「あれ?亜紀どこ行ったんだ?」


カバンの中を探って携帯を取り出しメッセージを確認する。


『図書室に用事』


“メイド服を着た女の子がウィンクしている絵文字“


なんつー絵文字使ってんだ……


あの日の記憶が呼び起こされる。

あたしは巨大ハンマーで記憶を場外に吹っ飛ばした。


しばらくはスマッシュ兄弟をやるつもりはない。


「ってさっきまでいたんだから直接言って行けよ!!」


全くっ!!


亜紀のカバンも持ち図書室に向かった。




「亜紀」


あたしは小声で亜紀を呼んだ。

高い位置にある本を取ろうとしていた体制のまま振り返ってくる。


「待たせちゃってごめん。すぐ戻ろうと思ったんだけど、読みたい本が返却されてたみたいでそれも借りてきたくて」

「そう。どの本?」

「あれ」


亜紀が指差したのは棚の1番上に並ぶ本だった。

この学校の図書室は本がすごく充実していて天井近くまでの棚がずらりと並んでいる。進学校だからか参考書や歴史、資格、色んな分野の本がある割にマンガが一切ないのであたしにはほぼほぼ縁がない場所だ。


「ちさき取って?」

「いや、亜紀で届かないんじゃあたしだって届かないでしょ」


5センチは誤差の範囲としても亜紀の方が身長があるんだからあたしが届くわけがない。


「抱っこするから」

「はぁ!?」


亜紀は口元に人差し指を立てて思わず大きな声が出てしまったあたしを注意した。


「ほら、早く」

「えぇぇぇ」


亜紀に手を引っ張られて棚の前に連れて行かれる。2人分のカバンを床に置いた。


「よいしょっと……」

「!?」

「………」



「………なぁ」

「?」


あたしは下から亜紀の顔を見上げる。


「これ絶対届かないだろ!なんでお姫様抱っこなんだよ!」


「私にとってはちさきはお姫様だから?」

「なっ!!!」


急に何言ってんだ!恥ずかしげも無く言われたらこっちだって照れるだろ!

全く理由にもなってない。本だって取らす気ないでしょこれ!!


「とりあえずちゃんとして……」


地面にゆっくりと降ろされて、次はちゃんと持ち上げてくれるのか亜紀があたしの背後にまわった。

両脇から亜紀の腕があたしの前に回される。


ぎゅっとお腹の周りに腕を回されそのまま持ち上げられる。


むにゅ


うん。あたしの胸が持ち上がったな。わざとじゃないだろうな?

でも、そんなこと言ったら『ちさきってエッチだね』とか言われそうだから、さっさと本を取ろう……


腕を伸ばす。


ちょっと浮いた足。多分5センチくらい。足を伸ばせば地面につきそうなくらいしか高くなってない。


「無理だ。届かない……」


亜紀が手を伸ばしてたくらいしか、届いていない。つまり抱っこは無駄だった!!


もにゅ


「ひょあっ!!」

「シー。うるさいって怒られちゃうから」

「ち、違っ!!亜紀!今、胸揉んだでしょ!?」


足が地面に着地した。


「………もんでナイ」

「すっごく目線逸らされてるんだけど……」

「生で揉んだ仲でしょ」

「変な言い方するな!揉み合ったわけではないし、あたしが一方的に胸を触られただけだからな!?」


むぅっとした顔してもダメなものはダメ!


あたしは以前の記憶を思い出した。


そういえば、前にあたしは凪沙の胸を後ろから揉んだな。女の子同士だからそういう触れ合いはたまに発生するけど、あたしは亜紀みたいに下心があって揉んだわけじゃないからセーフ!!

私は自分の行いを棚に上げた。


「それに全然届いてなかったからな!?」

「わかった」


そういうと亜紀はしゃがんであたしの太ももに腕を回した。


「ちょっと!?!?」

「足から持ち上げたら届くでしょ?」


生足の太ももに手が添えられる。亜紀の手が内腿を優しくさすって上に上がってくる。


「うぇぃああぁ」


変な叫び声が出た。

反射的に亜紀から離れた。


背中からなんかゾワゾワした何かが!!ゾクゾクした!


「内腿弱いんだ?」

「えっ!?」


亜紀があたしの足に再び手を伸ばしてくる。


「や!!やめろ!!それ以上近づくな!!先生呼ぶぞ!」

「負け犬みたいな脅し文句だね」


亜紀は笑って手を引っ込めた。負け犬って!!


「コラ!うるさいぞ!」


本当に先生が来た。一言お叱りをいただいて先生はまた姿を消した。


「仕方ないか」


亜紀はどこかで聞いたことのある軽快な鼻歌を口ずさみつつ


「ふ〜み〜だ〜い〜」


どこからか踏み台を取り出した。


「最初から出せよ!!どこから出したんだよ!ド⚪︎えもんかよ!!」



踏み台を使い難なく本をゲットした亜紀は自分のカバンを持って貸し出しカウンターに向かっていった。




あたしは内腿が弱いらしいといういらない情報もゲットした。




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