12月10日(放課後)

幼馴染の亜紀はどさくさに紛れてデートの練習をしてくる




「ダブルデート楽しみだね」

「ただ4人で遊びに行くだけだよ」


学校の帰り道。駅に向かって亜紀と2人で並んで歩いている。

今日のお昼はいつも通り亜紀と凪沙、悠木涼と私で食べたのだが……


最近一段と寒くなってきて、屋上じゃ寒くて食べられないからと一階の特別教室で食べようという事で向かう途中。


何故か、悠木涼と凪沙が仲良く手を繋いで階段を降りてきた。

そこは、まぁ別に仲が良いなくらいでいいんだけど……それを見た亜紀があたしの手を取って繋いできた。


触発されてなのか羨ましくてなのかよくわかんないけど、引っ張られるようにしてそれぞれが手を繋いで特別教室に向かった。


その光景を見てなのか、凪沙が「ダブルデートみたいだね」と感想を呟いて、悠木涼がやたらと「ダブルデート」に興奮して「ダブルデートしよう!!」と誘われた。


別に亜紀とあたしも付き合ってるわけじゃないし、悠木涼と凪沙だってまだ付き合ってるわけじゃなさそうだし、ダブルデートって相手に好意がある者同士がすることじゃないのか?


だから4人で遊びに行くっていう提案は飲んだけど、ダブルデートにはならないって否定したのに誰もあたしの話は聞いてくれなかった。



相手に好意がある者同士ね……



悠木涼と凪沙はきっとデートの定義に当てはまると思う。


隣に並ぶ亜紀を見る。

亜紀は多分あたしの事が好きなんだろう。はっきりと言われた事はないから確証ではないが……


あたしは亜紀の事は好きだけど、それは恋人になりたいの好きなのかはわからない。

亜紀の隣にいるのは楽しいし気楽だし、ずっと一緒にいたいなとは思う。そこから一歩進んだ先の恋人同士……キスとかセック○とかしたいかと言われたら……したことないからわからないな……


隣にいる亜紀をジッと見つめていたら、急にハッとした表情に変わり振り向いてきた。


「ちさき。デートしたことある?」

「いや、ないな」


「そうだよね。ちさき彼氏いたことないもんね」

「なんか失礼だな!幼馴染なんだから、あたしの交友関係とか知り尽くしてるだろ!亜紀だって彼氏いたことないだろ!!」


「……………………」

「…………え?………あるの?」


「……………………」

「…………………え?え!?」


「………ないけどね」

「ためすぎだろ!!焦ったーーあるのかと思った…いつの間に彼氏いたんだって……」


胸のところを抑えて気持ちを落ち着かせる。小学校からずっと一緒にいる亜紀があたしの知らない間に彼氏とデートとか色々していたとしたら………あたしは少し嫌な気持ちになった。何故……


「お互いデートしたことない者同士……ダブルデートの前にデートの練習した方がいいと思う」

「デートの練習って何だよ」


「んー。とりあえず今から放課後デートをします」


亜紀はあたしと手を繋いで歩き出した。


「今からデートの練習!?」

「放課後デートは学生カップルの定番だよ」


あたしの手を引いてどこに向かっているのか改札とは違う方向に歩いて行く。



「はい。ちさき」


チューーっと亜紀が差し出してきたフラペチーノを飲む。

あたしが飲んだ後に、亜紀も同じストローでチューと飲んだ。


一つの飲み物を2人で分けるのはデートで定番なのだろうか?多分一般的なカップルは違う味をそれぞれ買ってそれをシェアするんだと思うんだけど……


まぁ、亜紀が嬉しそうにしてるからいいか……



色んなお店が並ぶ商店街。あたし達が通う学生も多く立ち寄る人気スポットで、今も同じ制服を着た学生がカフェで談笑している。


あたし達は飲み物を一つ買い。歩きながら次のお店に向かっている。亜紀に手を引かれてどこに行くかもわからず着いていくだけだけど……


「あ、あそこ行こう!!」

「おぉ!おい!」


ぐいっと手を引かれて亜紀が目指している場所を見る。

クレーンゲームがお店の入り口に置かれずらりと店の奥まで並んでいる。


「なに?クレーンゲームでもやるの?」


ひ弱なアームでちょっとずつ動かして取ったり、確率でアームが強くなるクレーンゲームは何回も挑戦しなきゃいけないから、学生の懐事情じゃかなり厳しいと思うんだけど……


「クレーンゲームなんてしたらお小遣い全部無くなっちゃうよ」


亜紀もクレーンゲームの構造は理解しているみたいだった。そしたら何でゲームセンターなんかに来たんだろう?

メダルゲームか?格闘ゲーム?他にも色んなゲームはあるけど、亜紀は2人でそれをやりに来たんだろうか?


店の奥の奥にある大型の機械が並ぶ場所。明るいライトが眩しいそこは……


「プリクラ撮ろう!!」

「えぇ!!」


亜紀に押され一つのプリクラ機の中に入っていく。


「亜紀ってこういうの撮ったりするの?」

「初めて来た。だからどうやってやるのか、わからない」


「わからないのにきたの!?」

「カップルがよく撮ってるイメージだったから」


「た、確かに……あたしも、あまり撮ったことないけど……」


亜紀がもたもたとしているから、あたしがお金を入れてぽちぽちと設定していく。


「ほら、もうすぐ撮影始まる」


プリクラ機から撮影の合図が流れた。

亜紀が固まった。


「いやいや、証明写真じゃないから」

「えっ!?」


パシャ


プリクラ機からポーズの指定が流れる。


「親指と人差し指でハートのマークだって」

「何それ?」


親指と人差し指を交差させた。


パシャ


次のポーズの指定が流れる。


「ウィンクだって」

「で、できないよ!」


亜紀は両目を瞑った。


パシャ


「お、次のポーズは2人でハートのマークだってこれならできるでしょ」

「う、うん」


あたしは右手でハートの半分、亜紀は左手でハートの半分を作った。


パシャ


何枚か撮った写真を選択して落書きをする。


「ここに好きに落書きができるんだよ」

「す、すごいね。プリクラ……」



完成したプリクラを2人で眺めた。

亜紀が落書きをした、2人でハートを作っている写真には“初デート♡“とだけ書かれている。

ハサミで二つに分けて半分を亜紀に渡した。


「ありがとう」

「初プリクラはどうだった?」


「次はちさきともっと違うポーズで撮りたい」


どういう感想?それ……


亜紀は大事にカバンにプリクラを入れた。




「結構楽しかったな」

「うん」


普段はどちらかの家にいく事が多くて寄り道をしてまで遊びに行くことがなかったから、新鮮で楽しかった。


家の最寄り駅の改札を出て、繋がれていた手を離した。デートはここで終わりだ。


「じゃあ、また明日な」

「………」


亜紀の手があたしの手を握った。


「家まで送っていく」

「は?わざわざいいよ」


「デートだし。家まで送っていくから」


亜紀の家とあたしの家は駅から逆方向で、亜紀があたしの家まで送るとなるとかなり遠回りになってしまう。


「はいはい」


多分これ以上突っぱねても、亜紀は譲らないだろうから甘んじて受け入れておく。

手を繋いで駅からあたしの家まで、ほとんど会話もなく。暗くなってきた歩き慣れた道を2人で進んだ。



「送ってくれてありがと」

「………」


「…………」

「…………」


「……いや、手離してくれないと帰れないんだが?」


「デート終わりといえば……」

「は?」


「別れ際は……キスとか……」

「はぁぁ!?!?」


「カップルの定番かと」

「いやいやいやいや!!それは本物の恋人同士の話であって!!あたし達は違うでしょ!!」


亜紀がムスッとした表情をする。


「そんな顔されたって無理だって!!」


亜紀が徐々に近づいてくる。繋がれた手の距離なんてすぐに縮まった。


「うぉぉい!!ま、まじか……」

「………」


眼鏡の奥の瞳から目が離せなかった。


チュッ


短いリップ音がした。

やっと手が離される。

こんな冬にかなり汗ばんでいたことだろう。


「じゃ、また明日」


亜紀が背中を向けて来た道を帰っていくのをあたしは呆然と見送った。


亜紀が触れた“頬“部分をそっと手で抑えた。



「ほっぺかよ!!!!」



あたしは安堵からその場に蹲った。


公園から帰って来た弟に不審な目を向けられたのは気づかなかった。





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