019

 同人サークルのお手伝い。


 内容としては作業場のお掃除、洗濯、買い出しの付き添い、イベント時の売り子、などなど、おもに雑用が僕の仕事となるらしい。


 とりあえず、体験というか、様子を見るためにも一か月間ほどバイトをしてみないかと提案されたので、僕はその話に乗っかることにした。


 で、ここから本題になるわけだけど、バイトをするにあたって、僕は三人からいくつかの質問を受けた。


 質問というより確認に近いニュアンスかもしれない。


・週に何日、一日何時間働けるか?

・土日は出勤できるか?

・いつから働けるか?

・アダルト作品(高校生でも創作はOK?らしい)にかかわる覚悟があるか?


 以上の四つである。


 最後の項目を除いて、いずれも一般的なアルバイトの面接と同じ内容で、僕はそれぞれの質問に対して時間をかけることもなく答えていった。


 十八禁コンテンツかぁ。まあ今の時代、十八禁指定されてないエッチな作品もざらに流通してるって話だし。割と主流だったりするのかな?


 僕は環境に優しいリノリウムの床を意味もなく見つめながら、そんなことを思った。


「そういえば千景が下の名前で呼ぶのも『バイトの一環』って言ってたけど、小野さんと醍醐さんのことも下の名前で呼んだ方がいいのかな?」


「にゅ? そんな決まりはないケド」


「じゃあ小野さんと醍醐さんの呼び方はそのままでいいんだね」


 僕が安堵のため息を漏らすと、小野さんと醍醐さんがぴくっと眉の端っこを動かした。


「ちょい待ち。やっぱ『バイトの一環』ってことで」


「今のは司のど忘れ。下の名前。もしくは、あだ名で呼び合うことも、バイトの内容に含まれる」


「……急に後付け臭くなったような」


「おけいはん、細かいことはいーの。それでいーの」


 なんだか釈然としない。けれど、雇用主がそう言うのなら従うしかない。


「わたしも京坂くんのことを、京くんと下の名前で呼んでいい?」


 醍醐さんが僕の左袖を軽く引っ張りながら、そんな質問をしてきた。


「もちろんだよ」

 これもバイトの一環だもんね。


「ありがとう。それと、わたしの呼び方も変えて欲しい」


「えーっと、じゃあ桜子って呼べばいいかな?」


「四文字は長いから禁止」


「え、あ。んー……と、じゃあ、三文字でさくら、なんてどうかな?」


「よろしい」


 満足したように頷く醍醐さん改めさくら。


「んじゃ最後はアタシか」


 小野さんが両手を天井へ伸ばして準備運動をし始める。

 そんな今からじゃんけんをしますよみたいなポーズをとられると、こっちまでなんだか身構えちゃうんだけど。


「ま、アタシは下の名前でもニクネでも呼びたいように呼んでくれればおk。親しみを持ってくれれば、なんでもこいスタンスねー」


 なんでもって言われると逆に迷っちゃうんだけど、僕が変なハードルを勝手に設けるのもおかしな話なので、ここはひとまず素直に頷いてみた。


「チックタックチックタック」


「え、これって時間制なの?」


「のほうがおもしろそうじゃん。制限時間は二〇秒ね」


「えー……。ちなみに……、決まらなかった場合は?」


「ギャラクシーマジラブ天使司たんって呼んでもらおーかな、にゃはは」


「それ、呼ぶ方も呼ばれる方もお互いにダメージを負うような気がするんだけど」


「アタシは別にかまわんよ。ほれほれ、残り一〇秒」


「ちょ、ちょっと待ってよ」


「九、八、七、六」


「ちょ、ちょ」


「よーん、さーん、にぃ」


「え、えと」


「いーっち」


「……じゃ、じゃあ、司だからツーちゃん!」


「はぅあッ!!」


 ずっきゅーん。と、心臓を撃ち抜かれたかのようなリアクションをとりながら、小野さん改めツーちゃんが胸を抑えてうつむく。


「ど、どうしたの?」


「……いきなしの、ちゃん呼び。これクル」


「なんか司の顔赤くなってない?」


「な、なってないし!」


「司はチョロい。弄り放題の逸材。かっこ笑」


「ウッサイ! 千景も桜子も、目ぇキラキラさせてこっち見んな!」


「それじゃあ僕は、みんなの作業の邪魔にならないよう掃除するね」


 なんだかよくわからないけど。

 バイトの流れはわかったし、作業に取り掛かろう。


 僕はワイシャツの袖をまくって、あらかじめ与えられていたチェックシートに目を通しつつ部屋掃除を開始するのであった。

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