011
昼前の、午前十一時半頃。
僕は京都駅の八条口周辺に立っていた。
昨晩、小野さんから送られてきたメッセージに添付されていた待ち合わせ場所がここだったからだ。
本日は快晴で、駅前にはかなりの人出がある。
待ち合わせスポットの、あぶらとり紙屋さんの前で一人ポツンと佇んでいると、聞き覚えのある声が僕の耳に届いた。
声のした方向に振り返ってみれば、烏丸さん、小野さん、醍醐さんの三人の姿があった。
「ふぁぁ……お待たせぇ、京坂」
烏丸さんが眠たげで間延びした声を発しながら、右手をあげる。
私服姿を見るのは、部屋着を除けば今日が初めてだ。
普段はストレートに下ろされている黒髪を頭の後ろで結った烏丸さんは、黒のトップスにグレーのロングスカートを合わせた、モード系ファッションに身を包んでいる。
いつも通り黒いマスクで口許を覆い隠しているが、その整った顔立ちは隠しきれていない。
端的にいえばオシャレな美少女そのもので、僕は思わず見惚れてしまった。
「おはよう烏丸さん」
「おはよぉ、眠いよね」
「シャキッとしろし」
小野さんが、烏丸さんの脇腹を肘で小突く。
そんな小野さんの装いはというと、白のプルオーバーパーカーにミニのホットパンツという小悪魔な出で立ち。
パーカーの裾がパンツを少し隠していて、艶めかしい太ももが晒されている。
ド派手な金髪は軽く結われており、よそ行きの格好という感じがして、制服姿とはまた違う眩しさにドキドキしてしまう。
「どうしたの京坂くん? ボーっとして」
「あ、えと……僕もちょっと眠たくて。あれっ醍醐さん今日メガネはどうしたの?」
「メガネをかけてるわたしは、仮の姿。視力は裸眼でA判定」
「……伊達メガネだったんだ」
「そう。こっちの方が可愛いはず。どう?」
後ろ手を組み、僕の顔を上目遣いで覗き込んでくる醍醐さん。
メガネを外した醍醐さんの服装は、透け感のある白のシアートップスにパープルのキャミワンピを重ねた、涼やかな格好。
シンプルでフェミニンなコーデが、醍醐さんの美貌と相まって、家柄のいいお嬢様を連想させる。
胸元に実ったメロンも、育ちの良さの顕れではないのか、と考えさせられるもので、しかも、前屈みになっているせいで、その暴力的な二つの実がさらに強調されている。
僕は生唾を吞み込みそうになるのを堪えて、平静を装った。
「すごく……いいです」
「素直でよろしい」
「つーか眠たいって、おけいはん何時にここに来たん?」
「三十分前ぐらいだけど」
「早いね京坂。私ギリギリまで寝てたよ」
「千景は時間にルーズ」
「ホンそれ。けっきょく、アタシと桜子が起こしに行ったし」
「目覚まし時計が鳴らなかったんだよ。てか、京坂の格好シンプルでよきだね」
「そう?」
僕はといえば、黒のテーラードジャケットに白のインナーを合わせている。
下は細身のジーンズでシンプルにまとめた、ユニシロ万歳なファッション。
庶民に優しい、安価で良質な服ブランドであるユニシロの愛用者は、若者を中心にかなり多いと聞く。
かくいう僕もその一人で、もはや信者になりつつある。
「みんなもすごく可愛いよ。似合ってる」
僕は無難な褒め言葉を返した。
こういう時は余計なことを言わずに褒めておくのが最適解だろう。
下手に具体的に褒めてもボロが出るだけだし、嘘にならないような言葉を選んでおけば間違いはないはずだ。
まぁ、妹の受け売りだけど。
僕の称賛を受けた三人は、にっこりと微笑んでくれた。
お世辞抜きに可愛いし、周囲から「芸能人」とか、「モデルさん?」とか、そんな囁き声もちらほらと聞こえてくる。
注目の的になっていることにいたたまれなくなった僕は「そろそろ行こうか」と三人に声をかけ、歩き出した。
目的地は六条先輩指定のレンタルスタジオ。
烏丸さんがタクシーを捕まえ、四人で車内に乗り込む。
助手席に醍醐さんが乗って、僕は烏丸さんと小野さんに挟まれるような形で後部座席の真ん中へと腰かける。
「どちらまで」
「あ、えっと」
行き先を告げて、発進。
ドドド。と、心臓の音とエンジン音が鳴る。
女の子の匂いって、どうしてこうもドキドキしてしまうのだろうか。
甘くて、柔らかくて、いい香り。
普段タクシーなんて利用しない僕には、このセダンタイプの車がセレブ美女を送迎するリムジンのように思えた。
あとがき
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ここまでお付き合いいただき、誠にありがとうございます。
嬉しいです。
下記は本書のページの告知となります。
https://kakuyomu.jp/publication/entry/2024062002
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