010
土曜日の早旦、僕は自宅の居間で妹と一緒に朝食を食べていた。
白米に納豆、しらすとネギの卵焼きにほうれん草のおひたしという和風な献立だ。
妹のあかりは上下ジャージ姿で、もごもごと口を動かしている。
「ん~、うんまぁ、なんやこれ!」
「まぁ、昨日の残り物だけどね」
「残り物上等やんか。こんだけ美味しくてボリュームあって節約もできるとか、ほんま一家に一台お兄やで」
「僕は未来からやってきた猫型ロボットかよ」
「そこまで便利やあらへん。てか、お兄もはよ彼女の一人でも作ったら? 家事とバイトばっかやってると、そのうちカビ生えてまうで?」
中学二年生になった妹は、ますます口が達者になっている。
「余計なお世話だよ。全国の主婦に謝れ」
「いや、お兄は高校生やん……ふつーの高校生はもっといろんなことするで? うちのために頑張ってくれてるんは嬉しいけどやぁ、うちの幸せはお兄が幸せになってくれることやさかいホンマに無理せんといてな? 恋愛とかしてええねんで?」
「僕も良き妹をもてて幸せだ。最後の一言が余計だけどな」
「あ、バレた? 非モテいじりや。流石はお兄、ウチのことようわかっとるわぁ」
ケラケラとあかりが笑う。
僕も釣られて笑みがこぼれてしまう。
「あ、せや、物置整理してたらさ、昔お兄が
「まあ、そうだね。もう剣道はやってないし、あっても邪魔なだけかな」
「邪魔なことはないやろ」
「そう言うと思った」
「なんやそれ。ほな、やっぱ取っとこか、お兄の思い出やしな。久々に素振りでもしてみたら? 庭でやんのは恥ずかしいと思うし、家ん中でブンブンってさ」
「いや、それはダメだろ。壁に当たったら穴が空く。ただでさえうちの家、古くて隙間風もひどいんだから」
ここらを通りかかった小学生がうちを指差しながら魔女の館とか言っているのを聞いたことがある。
一応、二階建ての一軒家なのだけど。
「それもせやな。ほんまオンボロやもんなぁ」
「ボロすぎて、たまに雨漏りもするからなぁ」
「たまにちゃうで、雨の日は絶対にしてんで」
「屋根の気持ちも、少しは考えてやってくれ」
ぷはっ、と、僕とあかりは同時に噴き出す。
兄弟であれば当たり前のように思えるこの風景も、実は当たり前ではない。
中一の頃に母さんが他界して以来、しばらくは……我が家から笑顔というものは消えていた。
だからこうして笑いあえることは、僕にとっても、あかりにとっても、かけがえのないひと時なのだ。
心から笑えることが、どれだけ幸せなことか。
そして、それに気づかせてくれた妹を、僕は一生大切にするだろう。
もしかしたらシスコンだと周囲にからかわれるかもしれないけど、それでも構わないんだ。
あかりの幸せが僕の幸せだから。
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