第32話 三人でお風呂
ピザとお寿司という、ありそうでない組み合わせの出前を取った僕たちは、なんとかテーブルの上の食べ物を胃袋に詰め込み、一息ついた。
二人は満腹で苦しそう。
僕も限界というものを悟って、椅子の背もたれに体重を預けた。
僕もつーちゃんも心愛も、お腹をさすりながら一息つく。
「おなかいっぱい♡お風呂はいりながらゆっくりしたくね?♡」
「あぁ、わかる。私もシャワー浴びたい」
心愛とつーちゃんが立ち上がる。
「京坂ちゃんも、一緒に入ろ?♡お風呂めっちゃ広いから♡」
「いやいや、流石にそれは」
「司とはいつも一緒に入ってるんしょ? どしてあたしとは一緒に入れないの?♡」
「そりゃあんたより私の方がおけいはんと過ごした時間長いし、当然でしょ」
「時間は関係ないっしょ。こういうのって気持ちじゃん。それとも京坂ちゃんはあたしのこと嫌い?」
「え? あ、いや、えっと……」
僕は、回答に詰まってしまう。
心愛がグイグイくるのは、いつも通りといえばいつも通りだけど、今日は一段とグイグイくる。
「おーい心愛。おけいはんを困らせんなし」
「司は黙ってて。あたしだって京坂ちゃんに特別扱いされたいわけ」
心愛はそう言うと、僕ににじり寄ってくる。
僕は椅子の背もたれに体重を預けたままなので、逃げることもできない。
「……あたし京坂ちゃんのことマジだから、そこんとこ理解してほしーんだけど」
「心愛の気持ちは嬉しいよ。でも僕はすでにつーちゃんや千景やさくらと関係を持っちゃってるし。これ以上は、とも思ってしまうんだ。ごめん」
「すでに三人と関係を持ってるから、あたしとも関係を持ちたくないってこと?」
「おけいはん、それは違くね? 私はそりゃ特別扱いされて嬉しいけどさ、私としてはおけいはんの気持ちを大事してほしいかな」
つーちゃんが心愛の肩をポンと叩く。
「うちらと関係もってるから心愛の気持ちに応えないってのはズルい。私の方がやきもきするし、嫌なら嫌ではっきり振ってやったらいい」
「ふ、フるって司アンタ」
「あんたもズルいよ心愛。もしかして私たちに遠慮してるわけ? 答えも聞かずに身体だけ関係を持とうとしてんなら昔のあんたと変わんない」
心愛は、黙り込む。
僕も、つーちゃんの言葉に何も言い返せない。
僕が曖昧な気持ちで心愛に接しているのは本当で、それは心愛に失礼だからだ。
心愛は僕の沈黙をどう受け取ったのか、 痺れを切らしたように口を開いた。
その表情は苦虫を噛み潰したようなものだった。
「……だって、京坂ちゃんはあたしのこと好きにならないでしょ。あたしは一回京坂ちゃんを拉致ってっし、酷いこともいっぱいシたし、そんなあたしを好きになるとかありえないってわかってる。でも嫌われんのはヤダ。ヤだから身体だけでもとか思ったけど、それも京坂ちゃん的にナシなんでしょ? あたしバカだからさ、どうしたら京坂ちゃんがあたしのこと好きになってくれるのかわかんないし。フラれたらもう終わりじゃん」
心愛の独白。
そっか、そんな風に思ってたんだ。
まあ、色々なことがあったのは確かだけど心愛に対して嫌悪感のようなものはない。
ないから今すぐ気持ちに応えてあげるってのも、ちょっと違う気がする。
でも、心愛を不安にさせているのは事実なわけで。
それは良くないことだと思う。
「僕なりに前向きに考えてみるってのは、ダメかな。すぐには答えは出せない。今ここで心愛の気持ちに応えるのは、多分違う気がするから」
「それってあたしもワンチャンあるってこと?」
「う、うーん。わかんないけど、もしかしたらあるかもしれない」
「じゃーワンチャンあるって信じようかな♡」
「おけいはんが決めたことなら私は口出しするつもりないけど、千景にはちゃんと説明しなよ」
つーちゃんの言葉に僕は頷く。
「んじゃ親睦を深めるためにお風呂はいろ♡京坂ちゃんの身体洗ってあげる♡」
あれ?
「ちょっと心愛、その話はさっき終わったはず」
「だってこの流れならワンチャンあるじゃん♡」
「つーちゃん、僕そういう流れにしてた?」
「まぁ、あれかな。スキンシップは人それぞれってことなんじゃない?それにお風呂場は声がよく響くし、声聞くの好きならちょうどいいかもよ」
「え……」
「てかバイト初日に千景とイチャコラしてたおけいはんがそれ言う?」
「あ、あれは、その」
あんなシチュエーションで美少女に迫られたら、男なら誰でも理性が吹っ飛ぶと思う。
言い訳だけど……。
なんて、ぐだぐだ話しているうちに僕は心愛とつーちゃんにお風呂場に連行されたのだった。
※
心愛のマンションのバスルームは、それはそれは広かった。
オーバーヘッドのシャワー。真四角の浴槽。浴槽は大人二人が入ってもまだスペースが余るくらい大きいと思う。
床はピカピカで、隅々まで掃除が行き届いている。
備え付けのシャンプーやリンスには高級そうなボトルに入っていて、石鹸もお洒落な箱に入っている。
なんかいい香りするし。
脱衣所で、心愛とつーちゃんはコスプレ以上を脱ぎ始めた。
僕は目のやり場に困って、背中を向ける。
「おけいはんも脱ぎなよ。覚悟決めなって」
「覚悟って……。てか心愛は、僕に裸見られていいの?」
僕は念のため確認をする。
「もうめっちゃ見られたし今さらっしょ♡てか、京坂ちゃんと何回ヤったと思ってんの?♡」
「そりゃあんたが拉致して無理やりシたからでしょ」
「あはは♡ま、まあそれはほら、アレじゃん」
心愛は苦笑する。
「てか別に見られんの嫌じゃないし、むしろ見て欲しいし、とりま京坂ちゃんも脱いだら?♡」
「う、うん。そうだね。先に入っててくれる二人とも?」
僕は、二人が脱衣所からいなくなるのを見届けると、鏡の前で服を脱ぎ始めた。
下着を脱ぎ、タオルで前を隠しつつ、バスルームへと入っていく。
「わー♡司の裸ひさしぶり♡」
心愛は浴槽の縁に座っていて、つーちゃんの裸を楽しそうに眺めている。
つーちゃんは、洗い場の椅子に座りながら身体を洗っている。
……。
……。
……気まずい。
なんだこの空気。
男一人と女の子二人一緒にお風呂。
初めてってわけじゃない。
つーちゃんと千景とさくらと四人で一緒に入ったこともあるけど、心愛とつーちゃんの組み合わせは初めてだ。
「あ、京坂ちゃんちょい待ちね。いま湯舟溜めてっから♡」
蛇口から流れ出るお湯が、バスタブに溜まっていく。
僕はその様子を黙って見つめる。
「そういやさ、京坂ちゃんの同級生がなんかいってた。あれ行くん? プチ同窓会」
心愛が不意に口を開いた。
僕は少し考えて、頷く。
「一応……顔だけは出そうと思ってる」
「やめとけば。おけいはん、あの子と仲良いってわけじゃないっしょ」
つーちゃんが頭を泡まみれにしながら言う。
鋭い。
確かに僕は西大路さんと仲が良いわけではない。
仲が悪いわけでもないけど。彼女のことをあまり知らないというのが正直なところだ。
でも、それは西大路さんだけに限った話じゃない。
中学時代は友達と呼べる存在は一人もいなかった。
友達が欲しいと思った時期と、一人でいいやと思ってしまった時期。
どちらとも取れるような時期が、中学時代の僕にはあった。
二つの時期を経て生まれた感情は、諦め、だった。
……情けない話だ。
今もつーちゃんが言ってくれてるみたいに、行かない方が……なんて思う自分がいる。
「確かに仲が良いわけじゃないよ。でも、行かないのも失礼だと思う」
「失礼とか気にしてもしゃーなくね?♡あたしはあの子の雰囲気っての?♡なーんか全体的に好きじゃなかったなー♡嫉妬とかじゃなくてさ、気を遣ってる京坂ちゃんを見てるのがなんかヤだったわけ♡」
「よく見てるね……」
「私はおけいはんが行くって決めたなら止めないよ。でも、なんかあったらすぐ連絡すること」
心愛も、つーちゃんも僕のために言ってくれているのはわかる。
「うん。ありがとう」
その後は三人で浴槽に浸かった。
ぎゅうぎゅうだった。
僕は真ん中でサンドイッチの具材状態。
ちょっと動くだけで女の子特有の柔らかさが伝わってきた。
僕の前後には美少女二人。
また言い訳になってしまうけど、二人に誘惑されて僕は理性を溶かされてしまったんだと思う。
なし崩し的に、解放的に、僕たちは湯舟のお湯が冷めるまでバスルームで体を重ねた。
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更新が遅れてすみません!
仕事の方が忙しく連続投稿できておりませんが、
エタることはないので、引き続きよろしくお願いいたします。
忙しい時期が過ぎましたら連続投稿再会いたします!
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