第16話 全身全霊

 三時間後、僕はまだ蹴上さんたちに監禁されていた。

 ずっと拘束されっぱなしで、四人の女の子にかわるがわる犯される。


 水泳部というだけあって、彼女たちの体力は底なしだった。

 僕は、何時間もかけて、彼女たちになぶられ、途中から頭の中が真っ白に染まって何も考えられなくなってしまった。

 僕を犯しながら、蹴上さんたちはいろんなことを僕に教えてくれた。


 あの三人のことが嫌いで、邪魔だと思っていること。

 何よりもつーちゃんのことが許せなくて、その腹いせに僕を拉致したこと。


 僕がつーちゃんたちと仲良くするのを、どんな手段を使ってもやめさせたかったこと……。

 そして、蹴上さんは僕にカメラを向けながら言った。

 あの三人にも見せるために録画した動画を、再生する。


「これが送られちゃったら、あの三人も京坂君とは友達でいられなくなると思うんだよね」


 たしかに、この状況を見たら、きっとみんな僕を見放すだろう。

 だらしなく開いた口、涙に濡れた目、汚れた身体。

 

 何度も何度も果ててしまった。

 ダメだってわかってるのに、それでも……。

 こんなの見たら、幻滅して当然……。


「もう京坂ちゃんはあたしの掌の上にいるってわけ」


 蹴上さんは僕の髪を撫でて、耳元で囁いた。


「それは……蹴上さんが、そう思わせたいだけだよ」


「へぇ~、まだ反論する気力あるんだ。京坂ちゃんは、あたしたちの奴隷なのにさ……ほら樹里、カメラ向けて」


「はいはい~」


 墨染さんが僕の顔の前にスマホをかざした。


「京坂ちゃんわらって」


「笑えない」


「ふーん。思ってたより強情だね」


 僕はもう何も考えられないくらい疲弊していて、ただされるがままだった。


 もう何回されたか覚えてないし、そのたびに悔しいという気持ちがこみ上げてきた。

 情けない……悔しい、でも……。


 折れるわけにはいかない。


「……蹴上さんは卑怯者だね」


「はぁ? あたし、京坂ちゃんなんかよりよっぽど正々堂々だと思うけど」


「人を拘束しておいて、その動画を撮って送りつけようとするなんて、卑怯以外の何物でもないよ。それに……あの三人に嫌がらせをするために僕をここまで追い詰めるなんて、信じられない」


「あはっ!」


 蹴上さんは哄笑した。

 そして言った。


「京坂ちゃんさ、わかってないね」


「なにが……?」


「手段を選ばないってのが、京坂ちゃんみたいなウジウジしたヤツをねじ伏せるのに一番有効だってこと」


 僕を見下したように笑う蹴上さん。


「それは正々堂々って言わない。キミにとっての正攻法なだけだ……。拘束を解いて……よ。ひとりで僕と向き合うのが怖いの?」


「心愛、京坂君ちょっと調子に乗りすぎじゃない?」


「黙ってて。樹里、京坂君の手足の拘束を解いてあげて。あたしが直々にお仕置きするから」


 墨染さんが蹴上さんの命令通りに、僕の手足を解放した。

 僕はゆっくりと体を起こした。


 手と足の感覚がない……痺れてるみたいだ。


「みんなは隣の部屋行ってて。あたし、京坂ちゃんととことんやり合いたいからさ」


 蹴上さんは、僕をにらんだ。


「あたしにそこまで言っておいて、逃げ出そうなんて思わないでね」


「キミにとって僕を屈服させる手段がこれなら、望むところだよ……」


「ふーん。で、その状態であたしに勝てると思ってるんだ?」


「僕は、キミには屈しない」


 蹴上さんは、僕の顎を掴んで顔を寄せてきた。

 そして言った。


「……なら勝負しよっか? 今からあたしと京坂ちゃんで、どちらかが十回いくまでやり合ってさ、あたしが勝ったら京坂ちゃんはあたしの奴隷ね」


 その条件なら、手足が自由になった今の僕なら……。

 痺れが消えるまで時間を稼ごう……。


「いいよ。僕が勝ったら、この動画を全部削除してもらう」


「あはっ、いいね! そうこなくっちゃ!」


 そして僕は、蹴上さんとの勝負に臨んだ。



 ※



 桜子と千景と司はマンションの一室で、京の帰りを待っていた。

 が、いつまで経っても京は帰ってこない。


 そこで迎えに行こうかという話になった。

 GPSが指し示す場所は、河原町沿いにあるビル群だった。


「宇治市から移動してから京君のGPS、ずっと同じ場所を指してる」


「桜子。アンタいつの間にそんなものを」


「何かあったときのためにね。京君と交換しといた。まさか、こんなに早く使うことになるなんて思わなかったけど」


「ケイは今どこにいるの?」


 千景が尋ねた。

 桜子は、タブレット端末で地図アプリを確認しながら、場所を指差した。


「ここ」


「んー? あー、そこ……! 多分だけど、心愛の兄貴が経営してるマンションだと思う。まさかあいつら、おけいはんをそこに」


 司は、ペンを置いて拳を握りしめる。


「てか、おけいはんも不用心すぎか!」


 ドン、と机を叩く音がした。


「どういうこと司……ケイが帰ってこないのは、心愛ちゃん絡みってこと?」


「多分、そうだと思う。くっそ、私がついてばよかった」


「事件性はなさそう――……?」


「うーん……。おけいはんの性格上、心愛たちと遊んでるって線も薄そうだし、心愛のいつもの手口ならおけいはんがピンチ、かも」


「ケイは他の男子と違うでしょ?」


「だからこそじゃん? おけいはんは誘惑されてもなびかないと思うけど、だからこそ強引に手籠めにされるってオチは十分考えられるっしょ?」


「もぅ、ケイのバカ!」


「わたしたちに心配をかけたくなっただけ。京君を責めるのはお門違い」


「わかってる、会いに行ったのも何か理由があってのことだと思うけど……。どうしよ司? 通報した方がいいかな」


「それは大事になりそうだから最終手段ってことで。学生同士のじゃれ合いって言い張られちゃったら、どうにもできないし、それに、もし万が一のことがあったら、おけいはんを傷つけちゃうかもでしょ。でも心愛が主犯っていうなら、私刑も許されるんじゃない?」


「司のマジな顔ひさしぶりに見たかも。じゃあ足は私が出すよ。現場についたらよろしくね」


「おーけい」


 そう言いつつも、司は、ぎゅっと唇を噛みしめる。


(心愛のバカ。おけいはんだけには手を出すなって、忠告したのに……)


 小学生から中学まで空手をしていた司は心愛と同門。お互いによく知っている仲だ。

 昔は仲が良かったが、今はちょっとした『因縁』がある。


(私への腹いせなら、私だけにしなよ)


「司の顔。ゴリラみたいになってる」


「メスゴリラだよね」


「ご、ゴリラいうなし! てかゴリラじゃないし!」


「京君が危ない。早く行こ」


「ケイはひょろっこいけど根っこが強い子だから大丈夫、だと思うけど――……」


「とにかく、おけいはんを救出するぞー!」


 三人はマンションを出る。

 千景がサイドカー付きの中型バイクを出し、三人は桜子のナビゲーションで現場に急行した。



 ※



 僕の帰りを三人が待ってる。

 バイトが終わった後は、家に帰って、妹と父さんにご飯を作り、みんなで食べるのが、僕が家族に負い目を感じずにいられる大切な時間だ。

 僕には大切な人がいっぱいいる。

 だから、そんな大事な存在を裏切って蹴上さんと淫行にふけるわけにはいかない。帰るんだ。


(負けてたまるか!)


 頭が真っ白だった。

 僕は限界を感じながらも、蹴上さんを攻めていた。

 彼女の声が、大きく、大きく、部屋中に響き、そこから先は声が聞こえなくなった。

 十本勝負とは聞いていたけど、僕は降参の声が聞こえるまで攻め続けると決めていた。


「ぁ……きょ、京坂……ちゃん、ま」


 まだ負けてないとでも言いたいんだ。

 それなら僕だって……絶対に負けるわけにはいかない。

 いつもあの三人を相手してるんだ、蹴上さん一人なら、自由が利く今なら……。


 僕はノンストップで、蹴上さんを何度も攻め続けた。

 身体は限界だったけど……ひた走る心が弱い僕を置き去りにした。


 全身全霊で、僕は、よわっちい僕に打ち勝つ。

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